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戦いと見返り

 そんな外見からは考えられないような、芝居がかった台詞と共に、ジャンクは優雅に一礼をしてみせる。

 まるで語りかけるような口調だが、魔族達の返答は一斉に掃射された光弾だった。常人であれば間違い無く跡形も無く消し飛ばされる物量。


「ジャンク!」


 アイリの声も、無慈悲にかき消される。

 10秒後、ようやく掃射が止んだ。

 あれだけの光弾を食らえば、並の魔導鎧装ならかなりのダメージを受ける。

 ましてやあんなあり合わせのオンボロはどんな惨状になるのか想像したくもない。

 地面を抉られ発生した土煙が晴れ――ようやくジャンクがその姿を現す。

 先程と変わらない。まったくもって無傷なその姿を。


「……これで終わり? じゃあ、僕のターンだ」


 左右非対称のアイレンズが不敵に光る。ジャンクは左腕にマウントされた銃器を蜘蛛型に向け、発砲した。轟音と共に、蜘蛛型の左腕が吹き飛ぶ。

 銃声と連動するように、右腕、頭、胴体が千切れ、下半身だけになった魔族は為す術無く崩れ落ちた。


「嘘、でしょ……?」


 あれだけの攻撃を受けても無傷であることも十分驚嘆に値するものだが、アイリはそれよりもジャンクの銃器に釘付けになっていた。

 銃は魔力では無い実物の弾丸を放つ武器だが、実用性はほぼ皆無と言っていい。

 弾丸は嵩張るし、そもそも生半可な威力では魔族に通用しない。

 トドメとばかりに遠距離攻撃という用途が魔法と丸被りしていることもあり、ほとんど下位互換に甘んじているというのが現状である。


 (こんなの)使うくらいだったら魔法でいいじゃん、という訳である。

 魔力を消費しないという数少ないメリットがあるが、それであれば弾丸ではなく魔力回復のポーションを持ち込めばいいというだけの話。

 魔族の再出現で一気に廃れたこともあり『魔族がいなければ銃は戦争の在り方を大きく変えていただろう』なんて訳知り顔で言う歴史家もいるが、そんなたらればに意味は無い。


 銃で魔族をなぎ倒すなんてまさにファンタジー。お伽噺の世界である。

 だがアイリの目の前で起こった事は、紛れもなく現実であった


「おお、さすがバレットシューター。改良した甲斐があったってもんだけど……ちょっとオーバーキルすぎたかな。次からは急所に確実に当てないとね」


 そう言って今度は蟷螂型の頭部を狙い、発砲。

 その頭部を吹っ飛ばす。が――


「馬鹿! 頭が無くてもそいつは死なない!」


 蟷螂型魔族は両手の鎌だけでなく、その高い生命力が特徴だ。

 従来の魔族は頭部か胸部を破壊すればその時点で活動を停止するが、この蟷螂型は両方を破壊しない限り止まらないのだ。

 一気にリーチを詰めた蟷螂型が繰り出す斬撃。

 ジャンクは刃の無い手首を押さえそれを受け止めた。

 蟷螂型はもう一本の手で攻撃しようと試みるが結果は同じだ。

 両腕を拘束され攻撃手段を失った蟷螂型の胴体を、ジャンクは蹴りを叩き込む。


 鈍い音と共に両腕が千切れ、地面に倒れた魔族の胸部に鎌を突き刺し、貫いた。

 小さく痙攣し、魔族は動くのをやめた。

 さらに空中から急降下してきた蝙蝠型の攻撃を回避し、上空目掛けてもう一本の腕を投げやりの如く投擲。

 胸部を正確に貫き、蝙蝠型は墜落した。


「ふっ、僕の手にかかればざっとこんなもん――」

「!? 何やってんだ後ろ!」

「え? ――あばー!」


 そう、魔族は三体ではなく四体。

 その最後の一体である蜥蜴型魔族の尻尾が、ジャンクを容赦なく打ち据え、吹っ飛ばした。

 近くにあった服屋に突っ込んだジャンクを尻目に、蜥蜴型はアイリ達に標的を切り替える。 鋭利な牙を覗かせ一直線に突撃してくる――が、すぐにつんのめって転倒した。

 その脚には太いワイヤーが絡まっていた。


「おいおい、吹っ飛ばしたくらいで勝ったと思ってるんじゃあないぜ。そういう油断が敗北を招くのさ」


 不敵に笑い、右腕からワイヤーを射出しているジャンクの姿があった。


「……いや、油断してたのはあんたもでしょ」

「おっとアイリ。こーゆーシーンでの突っ込みは野暮ってもんだよ」


どーゆーシーンだ、とジト目で睨むアイリを他所に、ジャンクは蜥蜴型の頭部をバレットシューターで撃ち抜き仕留めた。


「よし、今度こそ一件落着っと。さてさて、お待ちかねの解体タイムだ」

 そう言うとジャンクは魔族の残骸を一カ所に集め、そのパーツを検分しだした。

「ねえ」

「ふーむ、このパーツは脚部に使えそうだね……おっこのモジュールも中々だ」

「おい!」

「うわあ!? ……っと、そーだった。完全に忘れてたよ」


 明らかに助けに入ってきたようなシチュエーションで登場しておきながら忘れるのはどうなんだと思わなくもないアイリである。


「あー、大丈夫? 怪我はないかな」

 ガションガションと音を立てながらやってくるツギハギ鎧に、ルルは一瞬びくりと身体を震わせたが、逃げ出さずに小さく頭を下げた。

「……助けてくれてありがとう、だって。私の方からも礼を言っとく。あのままだったら二人とも死んでたし」

「はっはっは、礼には及ばないよ……って言いたいんだけど、ちょっと見返りをくれないかな」

「見返り?」


 なんだろう、金だろうか……とアイリが思案していると、突然ジャンクが元の姿に戻り、顔面から思いっ切りぶっ倒れた。


「戦ったらお腹空いちゃって……何か食べさせて」


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