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リリィ・オブ・スティール  作者: 悦田半次


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答え合わせ

 スレンのメインアームはレイピア。

 小回りの良さを活かした正確な攻撃を得意とし、ジャンクのボディを抉らんとする。

 少しの気の緩みが敗北に――死に繋がる。

 この街に来てから続けていた戦いとは違う。

 正真正銘の殺し合い。

 魔導鎧装の中にいる人間を殺さなければ終わらない――これはそんな戦いだ。


「ハァ――!」


 出し惜しみはしない。最初からバレットシューターとアームブレードのコンボで攻め立てる。 殺さないことに越したことはないが、そんな手加減をしていられる相手ではない。


「中々やりますね。趣味の悪い武器を使っている割には」

「知ってるだろ。僕はあのハイネだって倒したんだ……それって結構スゴイ奴ってことだろう!」


東洋(メルキュール)かぶれの成金娘なぞ、比較の対象になりませんよ」


 アームブレードの攻撃ををレイピアで受け流し、スレンはそう吐き捨てた。


「教師のクセして随分と人を見る目がないんだね……ホント、底が知れるってもんだよ!」

「あの娘の腕は美しくない。忍者だかなんだかしりませんが、一つのことを極めずにあちらこちらにフラフラと……まあ、その点ではあなたも同じですがね」


 スレンの観点からすれば、確かにジャンクは落第も良いところだろう。

 一つのことを極めるという姿勢からは、ジャンク・ザ・リッパーはあまりにも遠い位置にある。元々あり合わせの部品で強い魔導鎧装を作るというコンセプト上、仕方ないと言えば仕方ないのだが。


「別に、どっちが正解ってワケでもないだろ。それは一人一人が選んでもいいじゃないか!」


 弾丸を突いて真っ二つにしながら、スレンは首を振った。


「いいえ、それは違いますよジャンク。『腕』は一つのことを極めそれに最適化すべきなのです。一切の無駄を省いたその先にある到達点――私はそれが欲しいッ!」

「冗談じゃ――ないってんだよ!」


 レイピアをバレットシューターで撃った。

 無論それで武器を破壊できるなんて安直なことは考えていない。

 しかしこれによって、レイピアは鈍器を高速で殴りつけられたような衝撃を受けたはずだ。ジャンクの目論見通り、その軌道を逸らすことに成功する。

 ――今!

 僅かに生じた隙を突き、強烈なアッパーカットを叩き込んだ。

 アームブレードとヴァイデの装甲が火花を散らし、スレンが一歩後退する。


「まったく……キューブ使いってのはなんでこんなんばっかりなのかな。相手する身にもなれってんだよ本当に……!」


 ここにはいない誰かに文句を言うようにジャンクは吐き捨てた。


「やはり、あなたは面倒な相手ですね……こうなれば、ダメ押しといきましょうか」


 そう言ってスレンがキューブを捜査すると、その中から次々と魔族が召喚された。

 その数は、一瞬で以前の戦闘を凌駕するものになった。


「おいおい、あれだけのこと言って結局は数でゴリ押しかい? そんなに僕が怖いのかな?」

「別にあなた程度ならば、ここまでの数を割くつもりはありませんよ……街に攻め入るつもりでもない限りは、ね」


 瞬間、魔族達は一斉に移動を開始した。誰もジャンクを狙わず、列を成して走り去っていく。


「まさか……! あの数の魔族を街の人達にけしかけるつもりかい!?」

「ええ、その通りです。地下迷宮の入り口は一つではありません。その中には私しか知らないものもある。そこから大量の魔族が溢れ出れば……フフッ一体どんなことが怒るんでしょうね?」

「何でそんな馬鹿げたことを――!」

「決まってるでしょう? 貴女を完全に排除するためですよ」


 ジャンクの攻撃を次々とさばきながら、スレンはなんてことのないように言った。

「貴女は既に魔族を利用した人間と疑われている……その最中にこんな惨劇が起きれば騎士団は、街の人間達はどう思うでしょうね?」


 ギリッと歯を食いしばる。そんなことは技術的に不可能、とは言えない。

 ジャンクはそれが可能であるものを持っているし、キューブの存在が公にならなかったとしても、魔法を前にしてはハウダニット(どのようにしたか)は通用しないのだ。

 万が一ジャンクがこの戦いを制し生き残ったとしても、魔族を操り街を壊滅状態に追いやった大罪人というレッテルを張られることになる。


「余罪が増えるのは別に良いけどさあ……冤罪なんてゴメンだよ!」


 いや、自分だけが被害を受けるのならばまだマシだ。

 だがスレンがやってのけたことはそれだけには留まらない。


「本当にそれでいいの!? 街の人達が犠牲になるんだぞ! 君が面倒を見てきた騎士団も、アイリだって――!」

「勿論理解しています。ですが問題ありません。私が目をかけた人間はこの程度で死ぬ程ヤワではありませんよ。それにアイリーンもこのことを見越して安全な場所に拘束したのですから。もっとも、あそこまで暴れられるとは予想外でしたがね」


 駄目だ。目の前の敵とは同じ言語を使っている筈なのに、言葉が通じる気がしない。


「くそっ、待て――!」


 踵を返し魔族達を追おうとした瞬間、ジャンクは猛烈な衝撃と共に吹き飛ばされた。


「敵に背中を見せてはいけませんよ。このようなことになりますからね」

「なっ……!?」


 スレンが握っているのはレイピアではなく、一目で業物と分かる槍。変化はそれだけに留まらず、鎧装の両腕がまるで違う物に変化していた。

 状況の変化についていけないジャンクを悠長に待つはずもなく、スレンは槍による連撃を繰り出す。

 突きと薙ぎ払い――そして斬撃と打撃のコンビネーション。


「嘘だろ……!?」


 ジャンクはごくりと唾を飲んだ。

 動きがまるで違う。先程までの攻撃がそよ風のように柔らかく、かつ蜂のように鋭いものだとすれば、今は弱まることを知らず荒れ狂う竜巻だ。

 今まで覚えていた攻撃パターンが一瞬で無に帰し、ジャンクはまた違った攻略法を組み立てなくてはならない。


 バレットシューターを撃つが、スレンは槍を回転しそれを弾いた。

 戦い方は完全に我流で誰からも教わったことのないジャンクでも分かる。

 スレンの動きは一朝一夕にできるものではない。

 己の腕を極限まで磨かなければ到達し得ない領域。


「……でも、変だ」


 だからこそ、違和感がある。

 様々な武器を自由自在に操る武芸者というのは、ジャンクは今まで何人か目にしてきた。

 彼らの動きには、どの武器を使っても垣間見えるクセや特徴があった。

 だが、今のスレンにはそれが見られない。

 まるで中身がそっくり別人になったかのように変わっている。

 戦えば戦う程、違和感が膨れ上がっていく。

 なんとなく――それがどんなものであるかは分かりかけている。

 だが確信には至っていない。


 ――いや、至りたくないのだ。

 ジャンクの頭で思い浮かんだ仮説は、あまりにも悍ましいものだったから。

 確信した瞬間、この場で嘔吐してもおかしくないくらいには。


「これでも倒れませんか――では、こんなのは如何でしょう?」


 スレンは左手を水平に翳す。

 すると肩を囲むように魔方陣が出現。

 魔方陣には無数の魔導鎧装の腕パーツが円の形を描くように並べられている。魔方陣が回転することで先程までの腕パーツが離れ、新たに別のパーツが換装された。


 左手には新たに片手直剣が握られている。

 スレンは一瞬でジャンクとの距離を詰め、剣を振り下ろした。咄嗟にアームブレードでガードするが、甲高い悲鳴と共に二本の刃は砕け、ジャンク・ザ・リッパーのボディーは袈裟懸けに切られた。


「ぐうううう!」


 ボディーに大量の火花が散り、お節介なシステムアラートが危機を何度も警告してくる。

 こちらもおめおめと切り刻まれてやる義理なぞない。刃が折れてもナノマシンである以上修復は容易だ。

 だが、今度同じ場所を喰らえば、確実に本体に届く――それは避けなくてはならない。


「……ッ!」


刃と弾丸の押収の中、バレットシューターの弾が切れた。


「おや、交換しないのですか?」

「だったらその時間くんないかなあ……!」

「冗談を言ってはいけませんよ。敵に情けを求めるのであれば、最初からそんな武器を選択しなければいいのです」


 敵に正論を言われる程ムカつくことはない。ジャンクは仕方なくアームブレード一つでスレンに対抗する。

 スレンの動きは再び全く異なるものに変わっていた。

 その剣術に奇をてらったものはどこにもない。


 基礎を徹底的に磨き上げた、真っ直ぐで、しかし柔軟性も忘れていないオーソドックスな太刀筋。

 シンプルで、だからこそ強い。

 そしてジャンクは、その剣捌きを見たことがある。それもかなり最近のこと。

 だが……それはスレンの剣ではない。

 別の人間の剣だ。


「……まさか」


 あえて放置していたその仮説が、徐々に確かな輪郭を帯びていく。

 そんなはずはない。そうあってほしくない。

 だが――これならば全て説明が付いてしまう。


「スレン――そのアーマーの中、何が入っている?」


 感情を押し殺した声で、ジャンクは問うた。


「どう言うことですか?」

「惚けるな! その剣技はおまえのものじゃない――アイリのものじゃないのか!?」

「そこまで見たいのですか? ならいいでしょう……特別に見せてあげます。私のコレクションをね」


 そう言うと、ヴァイデの左腕部のアーマーが開いた。

 姿を現したのは……生気のない、青白い左腕。

 二年前に失われた――否、奪われた、アイリーン・ノーデンスの左腕だった。


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