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リリィ・オブ・スティール  作者: 悦田半次


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懲罰房

 魔導学院には懲罰房という場所がある。

 平たく言えば牢屋みたいなところで、犯罪じみたことをやらかした生徒が罰として一定期間ここに収監される。

 ここに収監されるという事は相当のことをやらかしたという証であり、ジャンクですら一度もお世話になったことがない。


 そしてアイリは、現在進行形でここにぶち込まれている真っ最中であった。

 もうかれこれ二日ここにいる。

 不衛生ではないが、あまり住み心地がよいとは言えない。もう少しベッドをいいものにして欲しいとアイリは思う。

 騎士団に殴りかかった挙げ句、犯罪者候補を取り逃がしたともなれば、この待遇は妥当としか言いようがないのだ。


 何度か取り調べを受けたが、全て黙秘を貫いた。

 スレンが悲しそうな顔をしていたけれどこればかりは仕方ない。

 まあ自分がよかれと思って渡した魔道具がこんな結果になったのだから、心を痛めるのも当然と言えば当然か。

 自嘲気味に笑っていると、ぐるるとお腹が鳴った。


「……もうすぐ十二時か」


 懲罰房には時計が無いが、お腹の空き具合でなんとなく時間が分かるようになっていた。


「まったく、無様ですわねアイリ」


 顔を上げると、牢の前には食事が入ったプレートを持ったハイネがいた。

 ハイネと会うのはアイリの寮で勝手にポーカーをやってた時以来だ。


「すっごい仏頂面になってるけど、何かあったの?」

「ええ、ええ。私に黙っていろいろやらかした薄情なお馬鹿さんのせいでこのありさまですわ」

「ふむ、随分悪いヤツがいるものね」

「貴女ですわ貴女! 本当になんてことしてくれましたの!?」

「魔族のパーツ盗んでディリット達に殴りかかってジャンク逃がしたらこうなった」

「やらかしたことを羅列しろって意味じゃありませんわ! 私が求めているのは反省と謝罪ですわ!」

「カッとなってついやっちゃったのよ。まあ後悔はないわ」

「ぜ、全然反省してない……!」

「ああでも、もう少し粘れたような気がするわね。せめてあの時殴るんじゃ無くて目でも突いとくんだった」

「そう言うベクトルで反省して欲しいんじゃありませんわ!?」


 ぜーはーぜーはーと顔を真っ赤にして息を荒げているハイネだったが、本来の目的を思い出したのか、小窓からプレートを入れてきた。

 ここでの食事は本当に必要最低限と言った感じで、こんな場所か飢え死に寸前でもなければ積極的に摂取したい代物ではない。

 それでもうまいと思えるのだから、空腹という調味料は本当に偉大である。


「あれ?」


 と思ったら、今日は思いの外しっかりした食事だった。

 鳥の照り焼きとパリッとしたレタスを挟んだサンドイッチに、いつもより色が濃いスープ。 まるで食堂のメニューをそのまま持ってきたような内容……というか、本当にそうだった。


「……ありがと」

「ふふん、素直でよろしいですわ」


 スープを顔面に叩き付けてやりたいが、さすがに勿体ないので大人しく食べることにする。

 そう思ったら、ハイネも牢屋の前に腰を下ろして食べ始めた。

 ハイネが食べているのもアイリと同じ……ではなく、自分だけプリンを添えている。


「なんでここで食べてんのよ。食堂にすればいいじゃない」

「分かっていませんわねアイリ。私が食事をする場所が自ずと食堂となるのですわ」

「また訳の分からないことを……」

「それに、美味しいものは人の口を軽くしますわ。これも立派な作戦ですの」

「……やっぱりそれが目的か」

「当然ではありませんか。未だにジャンクは消息不明。騎士団は今上へ下への大騒ぎですのよ?」

「そりゃ大変ね」

「ぐぬぬ他人事みたいに……まあいいですわ。私がきたからにはしっかり話して貰いますわよ。なんであんなバカな事をしたのか、その理由を」

「それ、取り調べって受け取っていいの?」

「好きに解釈すればいいですわ」

 ふむ、ではこっちも好き勝手喋らせて貰おう。

「バカだから」

「は?」

「私が足を引っ張ることしかできない馬鹿野郎だから、バカなことをしたの」


 ジャンクは普通じゃない秘密を抱えていた。

 彼女がどんな目的で、どんな考えを持って動いていたかはアイリにも分からない。

 でも確かなことは、秘密が露見するリスクがあってもそれに構わずアイリを助けてくれたということ。


 そもそもジャンクが真犯人であるならば、そんなリスクを冒すはずがない。

 彼女がボロを出すことになったのは、すべてアイリが原因なのだから。

 ならばせめて、あれくらいの時間は稼ごうと思ったのだ。

 足手纏いのアイリを切り離せば、多分ジャンクは上手く立ち回れるだろうから。


「それが理由の半分」

「半分?」

「もう半分はディリットにイライラしたから」

「言ってることが完全に通り魔ですわ! ……私としたことが迂闊でしたわ。貴女たちが壊滅的に仲が悪かったのをすっかり忘れていたなんて……」

「あっちが一方的に目の敵にしてきてるだけよ。無礼に無礼で返して何が悪いの?」

「あの子は真面目なだけですの。少し頑固で融通が利かないだけですわ」

「あとあんたにそうフォローされているところもムカつく」

「どうしろと言うんですの!?」


 ハイネは敵と認識したら攻撃的だが、一度身内と判定したものにはとことん甘くなるのだ。


「……それで、ジャンクは今どこにいるの?」

「まだ逃げ回っているみたいですわ。目撃情報はちらほらありますが、尻尾を掴みきれていないといったような塩梅ですわね」


 ジャンクはうまいこと逃げおおせているらしい。


「む……随分嬉しそうですわね」

「何、悪い?」

「気に食わないだけですわ!」


 随分理不尽な幼馴染みだ。


「て言うか、ハイネはどう思ってるの? 本当にジャンクがやったって考えてる?」

「否定する材料が少なくて、そうでないものが多すぎますわ」


 スープをひとすすりして、ハイネは小さく息をつく。

 まあそれは否定できない。そもそもジャンクはどこから来たのか分からない流れ者だし、所々胡散臭い。

 しかも状況証拠もそれなりにあるから最悪だ。

 どうも魔族のパーツを盗んだのは証拠隠滅のためと思われているみたいだった。


「でも、多分シロですわ。確かにジャンクは胡散臭いですが、外道であるとも思えませんもの」

「根拠は?」

「勘ですわ」

「なら間違いないわね……て言うか、そこまで考えてるんだったら、いろいろ口添えとかしてくれてもよかったんじゃないの? 例えば私を牢屋から出すとか」

「知ったこっちゃありませんわ。アイリはしばらくここで頭を冷やすべきなのです。私を置いていって勝手な行動をした罰ですわ!」


 ハイネはぷくっと頬を膨らませた。

 ハイネは騎士団と所属している以上、勝手に動いたら色々立場が面倒になるだろと言ってやりたいが、こうなってしまったらそんな論理は通用しない。

 大人しく白旗を揚げるかこっちも感情論で対抗するかの二者択一を迫られるのだ。

 アイリは大体後者を選ぶわけだが、今は仕方が無いので前者をチョイスした。


「悪かったわよ……あなたの言う通り私が悪かった。反省してるから、ジャンクが無罪になるよう取り計らってくれない?」

「全然反省してませんわ!? いくら何でもそれは不可能です!」


 使えない奴め。


「……ですが、私も動いてみますわ。少し今回の事件はキナ臭い部分が多すぎますもの」

「前言撤回。さすが私の幼馴染みね」

「うぅ……なんかすっごい都合の良い女扱いされているような気がしますわ」


 ブツブツ言ってるハイネは無視しして、アイリは天井を睨む。


「それにしてもキナ臭い部分、か」


 確かにこの事件は嫌な感じだ。


「……見えないヤツにじわじわ追い詰められてるっていうか、真綿で首が絞められていると言うか、そんな気分になるわね」


 ――後は頼んだ、ジャンク。

 いくら時間がかかってもいい。必ず腕狩りを捕まえてくれ――


「そう言えば、私っていつまでここにいるの?」

「ジャンクが捕まるまで、とのことですわ」

「……もしずっと疑いが晴れないまま捕まらなかったら?」

「……」


 おい。どうしたハイネ急に黙るな。


「……あ、でも安心なさって。いざという時は私がキルシュ家の所有物として買い取るという名目で出ることも可能ですわ!」


 ――マジで後は頼んだジャンクどんな手段を使ってもいいから今すぐ黒幕の首根っこをひっつかんでくれ……!


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