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リリィ・オブ・スティール  作者: 悦田半次


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潜入と秘密

「で、本当にやっちゃうんだもんなぁ……アイリって時々すっごい無茶やらかすよね」

「人を暴走機関車みたいに言わないで。必要だからやってるだけでしょ」


 深夜である。

 ジャンクとアイリは騎士団の詰所に潜入。

 保管庫からコンサートホールに出現した魔族のパーツを回収し、寮へと帰還した。

 詰所の構造は全てアイリの頭に入っているので、潜入自体は極めて容易だった。

 遅くまで残っている学生もいるにはいたが、なんとか見つからずに済んだ。


「じゃあ、ここからは僕の出番ってワケだね」


 ジャンクは着装に使うガントレットを装備し、そこから伸ばしたケーブル状のナノマシンを魔族の腕に繋げる。

 すると小さなウィンドウが出現し、大量の文字情報が表示された。アイリは何が描かれているのかさっぱりだったが、ジャンクは特に気にしている様子も無い。


「それ、読めるの?」

「まあねー。さーて……ショウタイムの始まりと行こうか!」


 何言ってんだコイツと言わんばかりの目を向けるアイリをよそに、ジャンクはガントレットに取り付けられたキーボードに指を走らせる。

 使い魔の肉体を利用した逆探知。使い魔というものは、例え微細であっても主人との繋がりが必要不可欠である。

 逆探知の場合は使い魔の肉体から流出している魔力の残滓が鍵となる。

 もっともそれは主人側も承知しているので、敵の手に落ちた場合は爆発四散する術式を仕込んでいることが大半だ。


 それを魔族に応用しようと言うのが今回の試みである。

 何故今まで誰もしてこなかったのか――という理由は極めて単純で、魔族はゲートから出現するということが大きい。逆探知を試みてもゲートの発生した座標くらいしか辿れない。

 そもそも、魔族というのは自然災害のような存在であり、誰かが人為的に操っているなんて主張しようものなら一笑に付されて終わりである。


 アイリも実際に目の当たりにしなければ、こんな作戦は思いつかなかった。

 ――それにしても、ジャンクはこんなことまでできるのか。

 逆探知は誰でもできるものではない。試みるとなると、繊細な魔力の制御が求められる。

 それはアイリが一番苦手な分野である。(以前授業で逆探知の実験をやったが、魔力を流し込み過ぎて実験用の使い魔を爆散させてしまった)

 恐らくあのガントレットがジャンクの補助を行っているのだろうが、そもそもそんなものを作ってしまう時点で、やはり色々規格外である。

 素直に口にすると調子に乗られることは目に見えているので、アイリは心の中だけに留めておくことにした。


「OKOK……まったく世話のかかるお姫様だね。けど僕の手にかかればこれくらい……! これくらい……!」


 ……本当に何言ってんだコイツは。


「よーしいい子だ。お願いだからそのまま……よしっ、いけ頼む! ……やったあビンゴ!」

「分かったの?」

「うん。見事逆探知成功ってワケ! さてさて、子猫ちゃんは一体何処に隠れて……ありゃ?」

 ウィンドウに映った座標を見て、アイリも眉をひそめた。

「ここ……地下迷宮じゃない」






 地下迷宮――それはこの街の地下に流れる下水道のさらに地下に張り巡らされているダンジョン。そのなれの果てである。

 遙か昔、ここには無数の魔族やモンスターが潜み、その入り口から出て来ては人々を襲うということを繰り返していた。

 もっとも、ダンジョンそのものはとっくの昔に攻略されており、今はただのだだっ広い地下道である。


 腐ってもダンジョンなだけあり、遊び半分で入って行方不明になる者もいるが、そこは自己責任だ。

 ついさっきアイリ達が通った場所に白い棒のようなものが転がっていたような気がするが、それもまた、選択の結果なのだ。そう言うコトにしておこう。

 ジャンクが逆探知を行った結果、敵は地下迷宮にあり、ということが明らかになった訳である。

 意外ではあったがあり得ない話ではない。地下迷宮の入り口は街にも点在しており、丁度ジャンク達が入ったのはコンサートホールの近くにある入り口だ。

 そこから魔族が侵入してきたと言うのならば納得がいく。

 潜伏すると言う目的を考えても、ここはうってつけだろう。


「うーん、やっぱり変な感じだよねえ。いつ来てもこーゆー場所には慣れないや」


 ギガントレットから表示されるウィンドウを頼りにしながら、ジャンクはキョロキョロと周囲を見渡す。

 地下迷宮の天井には発行するコケが群生しているため、薄暗いが周囲の様子は簡単に見て取れる。


「慣れないって、他の地下迷宮にも潜ったことあるの?」

「まあね。地下迷宮ってここみたいにちゃんと国で管理されてればいいんだけど、そうじゃないとこはマフィアの巣窟みたいになってるところも多くてさ。前にそいつらが運営しているぼったくりの食堂に入っちゃったもんだからさあ大変って奴だよ」

「……どうなったの?」

「簀巻きにされた挙げ句、地下迷宮に連れて行かれてね。一生ここで俺達のために魔導鎧装を作れ、なんて滅茶苦茶言い出すんだよ? 参っちゃうよねハハハ」

「そんなことを呑気に言っているあたり、なんとかなったって判断していいのよね?」

「まあね。僕は洞窟に監禁されながら魔導鎧装を作ったって訳さ――僕専用の魔導鎧装を、ね」

「で、あんたはマフィア共をぶっ潰してめでたしめでたし、と」

「まあね~。けどちょいと暴れ過ぎちゃってね。連中に奪われてた僕の魔導鎧装もぶっ壊しちゃってさ。しかも僕までマフィアが雇った用心棒なんじゃないかって誤解されて、半年くらい指名手配とかもされちゃったりもしたね」

「情報量が多すぎる……」

「ま、風来坊なんてやってりゃよくあることだよ」

「そんなんでよく生きてこれたわね」

「しぶとさだけは誰にも負けない自信があるよ?」


 確かにそんな感じはするが、もう少し何とかした方がいいんじゃないかと思うアイリであった。


「というか、あんたはなんでもかんでも首を突っ込みすぎ。いつか死んでも文句言えないわよ?」

「そうなんだけどねー。昔から首を突っ込むようにしてるんだよ、こういうトラブルにはね」

「何で?」

「知りたいから、かな。人間のことを」


 また、ジャンクはトンチンカンなことを言い出した。


「人間を知りたいって……あんたも人間でしょ」

「アイリも人間だけど、別に人間の全てを理解できてるって訳じゃないでしょ? そういうことだよ」


 確かにそうだが、妙な気分だ。恐らくジャンクは嘘をついていないが、少しはぐらかされたような気がする。


「人間を知るってなったら色んなサンプルが必要でしょ? だからこうやって介入するワケ。人を助けるって事も別に善意でやってるってワケじゃないんだ。あくまで結果的にそうなったってだけだよ」


 結果的にそうなっただけ――ジャンクはそう言うが、別にアイリはだからと言ってどうも思わない。

 打算があろうがなかろうが、助けられた人にとってはジャンクは紛れもなく英雄に見えるだろう。

 少なくとも、何もできないどこかの誰かよりは何倍も上等だ。


「サンプルね……私はあんたの実験体か」

「へっへっへ、じゃあ実験を始めようかねえ。手始めに脱いでみようかなぁにすぐに良くなる――あだ!」


 ニヤリと怪しげな笑みと手つきで距離を詰めてくるジャンクに、チョップを食らわせた。


「こう言うときにふざけるなバカ」

「いでで、緊張をほぐそうっていう洒落たジョークだったのにぃ」

「つまらないジョークはジョークとは言わないの」

「ちぇー、厳しいでやんの……じゃあ、次はアイリの番だぜ?」

「は? なんで」

「いや、ついさっき僕のことを話したでしょ? だから次はアイリのことを知りたいかなって!」


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