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リリィ・オブ・スティール  作者: 悦田半次


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23/35

妨害と作戦

「駄目です」


 翌朝、意気揚々と騎士団の詰所にやってきたアイリとジャンクを待ち構えていたのは、そんな拒絶の言葉だった。

 詰所の前に立っているのは、ディリット・ストレイト。

 アイリの一つ下の後輩だ。アイリが騎士団にいたときと変わらない仏頂面である。


「えぇー? 別に全てよこせって言ってる訳じゃないんだよ。それに終わったらすぐに返すから! 頭部か胸部……それが駄目なら腕とか足でも、もっと駄目なら指先でいいから! ね? 大丈夫大丈夫。本当に先っちょだけでいいから!」

「回収した魔族の肉体を部外者に見せるのは規則で禁止されています」


 さすが騎士団一の堅物と言われているだけあって、ジャンクの懇願も一刀両断であった。


「いやいや、ここには当事者もいるんだけどね。アイリは元騎士団で、腕狩りの目撃者だぜ?部外者って言うにはちょいと乱暴じゃあないかな?」

「部外者ですよ。かつてはそうだったかもしれませんが、今は違いますから」

「聞いてディリット。もしこれがうまくいったら今回の不可解な事件を解決出来る。腕狩りの正体だって掴めるかも知れないの」


 アイリの言葉に、ディリットは嘆息した。


「今回現れた魔族の肉体はこちらで検分する予定なのです。ジャンク先輩は魔導鎧装を作れると言っても魔族の研究に関しては素人でしょう? 専門家を差し置いてあなた達に提供する意義が見いだせません」

「それは分かってる。でも――」

「そもそも私は腕狩りの存在は信じていませんので。私達騎士団はあなたのような落伍者の戯言に付き合う暇なんてないんですよ」

「……おいおい。その言い方はちょっとないんじゃないかな」


 ジャンクの口調が険を帯びる。


「私は事実を言ったまでです。それにも関わらずスレン先生やハイネ先輩に甘えて……恥ずかしいと思わないんですか?」


 ディリットはアイリを睨む。その視線は嫌悪と侮蔑――そして静かな怒りが込められている。


「どう言う意味?」

「どうせ、腕狩りなんてどうせあなたの妄想でしょう。そんなものにあの二人を振り回すのは見過ごせません」


 手がかりがアイリの目撃証言のみ。しかも当人は発作持ちということもあり、腕狩りが実在することに懐疑的な人間は多い。

 ディリットもその一人――というか筆頭である。


「ちょっとキミねえ! いくらなんでも……」

「いいから、行くよジャンク」

「ちょっとアイリ! こんなかわいげの無い後輩にはお説教をくれてやらなきゃだよ――」


 ガラにもなく熱くなっているジャンクの首根っこを掴み、騎士団の詰所を後にした。




「正面から行くのは失敗、か」


 みつばち亭でパスタを巻きながら、アイリは呟いた。

 一方ジャンクは、ポークジンジャー定食(ごはん大盛り)をかきこみながら、非常にご立腹の様子だった。


「まったく! なんだいあのディリットってのは。むかっ腹が立つ子だよ本当に!」

「別に、断られるのは当たり前でしょ。あれが当然の反応だから」

「そんなの分かってるけどさぁ! だとしても言っていいことと悪いことがあるとは思わないかい!?」


 確かにそうだが……おまえが言うかねそれを。


「らしくないわね。ジャンクだったらもう少しスマートに対応すると思ったんだけど」

「あのねえ、友達がコケにされているのにヘラヘラ笑っていられると思う?」


 その言葉に、アイリの手が止まる。


「そうか……」

「そうだよ」

「私、あんたに友達だと思われてたんだ」

「そっち!? え、ちょっと待って。アイリって僕のことなんだと思ってたの!?」

「すっごいうるさいルームメイト」

「おおぅ……」


 何やらショックを受けていたようだが、分厚いポークジンジャーが半分になる頃には何事も無かったかのように機嫌を回復させていた。


「それでどうしようか。騎士団のトコに魔族のボディがあるっ事に間違いはないんだよね?」

「ええ。けどあそこは一時的に保管するくらいの役割で、しばらくしたら魔族の肉体は研究機関に送られることになるわ。猶予は明日か明後日ってとこね」

「なるほど……ハイネやスレン先生に頼むって言うのは?」

「却下。あの二人の弱みになりたくないし」


 そもそも騎士団が回収した魔族の肉体を奪うのは立派な犯罪である。

 二人がアイリ達に協力してしまった場合、横流しという扱いになり二人の立場を危うくしてしかねない。

 今回の捜査はあくまでアイリの独断なのだから。


「やれやれ、そうなると残されたのは不法侵入して回収するくらいしか方法がないよね」


 肩をすくめて言うジャンクに、アイリは頷いた。


「ええ。だからそれで行くわ」

「……え?」


 パチパチと、ジャンクは目を瞬かせた。


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