ヒントはどこに
「と! 言う訳で捜査に行こう!」
翌朝、無駄に元気のいい声でジャンクは言った。
「それは結構だけど、今度は何をやらかしたワケ?」
ここは生徒指導室の前である。
ついさっきまで、ジャンクとロッソはこの中で風紀委員から有り難いお説教を頂戴していたのだが、まるで懲りた様子がない。
「ここの風紀委員は優秀だね。次から見つからないようにしなきゃ」
んで、当事者の言葉がコレなのだから、お説教の効果は推して知るべしというものだ。
「……て言うか、なんで私がいつもセットで呼び出されんのよおかしいでしょ」
そろそろジャンクイコール問題児というイメージは払拭不可能というか、別にそれはどうでもいい。が、何故かアイリ=問題児の保護者というイメージが定着しつつあるのが納得いかない。
「まあまあ。自分でなんとかできないことに気を落としても仕方ないよ」
ドヤ顔でポンポンと肩を叩くジャンク。おまえのせいだおまえの。
「それに、整備室に残っていたのはコレを直すためでもあるんだぜ?」
じゃーんとジャンクが巨大リュックサックから取り出したのは、一振りの剣。
「それ、ブラストリア……?」
「ロッソにも手伝って貰ってさ。いやー大変だったよ。色々骨が折れたけど、最終的に何とかなるのが僕のスゴイとこだよね」
清々しいまでの自画自賛だが、今回ばかりは反論する気は起きなかった。
大破し輝きを失っていたアイリの剣が、一ヶ月経った今、かつての輝きを取り戻しているように思えた。
それだけでも嬉しくて、アイリの口から礼の言葉がこぼれ落ちる。
「……ありがとう」
「!? そ、そんなバカな! アイリ。もしかしてキミは礼を言ったのかい!? あのアイリが! ああなんということだ、これはとんだ異常事態だ!」
「……」
やっぱり撤回しようかな。
「嬉しいって気持ちは、本当だから」
するとジャンクはおどけた表情を引っ込めて、静かに笑った。
「そっか、それはよかった」
そう、本当だ。ブラストリアが復活したのはアイリにとって喜ばしいことだ。
だが、もし着装できなかったら?
できたとしても戦えなかったら?
発作は勿論怖い。
だが、それよりも怖いのは……
思考の迷宮に入ろうとしていたアイリの前で、ジャンクは両手をぱちんと叩いた。
「はい、そこまで。まーた変なこと考えてるでしょ」
「……ごめん」
「ンー、別に謝って欲しい訳じゃないんだけどな。こうなるとどうも張り合いがなくていけない」
「悪かったわね」
「まあまあ、それよりも今は目の前の事に集中しよう」
「目の前の事?」
「決まってるでしょ? 捜査だよ、腕狩り捜査!」
自信満々に言うジャンク。
そうだった。
そもそも今日は一日捜査に費やす予定なのだ。
普通に学校はあるが、仮に一、二週間休んでも問題ないくらいには、アイリは単位も出席日数も足りている。
ジャンクは知らん。まあなんとかするだろう。
「よし、早速始めよう! ……ところでアイリ」
「何?」
「捜査って具体的に何するの?」
やはり前途は多難のようであった。
「そう言えばさ、ハイネには言わなくて良かったの?」
街中をぶらつきながら、ジャンクは首を傾げた。
現在二人は、街中にいる衛兵の詰所を訪れて被害者のことを調べたり、コンサートホール近くに店を構えている人に不審な人はいなかったかを聞いて回ったりしている最中だ。
街を守る存在であるという事もあり、騎士団ではなくても魔導学院の生徒は事件に関する資料にある程度目を通すことができる。
しかし有益な情報は今の所得られていない。
「私達はさておくとしても、ハイネは正式な騎士団の一員なのよ。こんな捜査に協力させてたら、立場が悪くなるでしょ」
「なるほどねえ。それ、本人にも言ってあげたら? すごい喜ばれると思うけど」
「いや、どこに喜ぶ要素があんのよ」
ジャンクの軽口は相変わらずだったが、捜査そのものは真剣だった。
その証拠に、買い食いの頻度もいつもより少ない。
日が暮れるまで捜査をしたが、結局その日は何の成果もなかった。
「うーむ、簡単に捕まるとも思えなかったけど、やっぱりここまで手がかりがないと堪えるね、いやまったく」
くああと欠伸しながら、ジャンクはベッドに寝っ転がった。
「こうなったら別のアプローチを使う必要がありそうだけど……うーん、どうしたもんかな」
聞き込みをしても、得られた物はほぼゼロに等しい。魔族が暴れている中、詳細に不審な点を探すというのが無理な話と言えば無理な話だが。
「……」
アイリは天井を睨んだ。
相手はただの魔族ではない。つまり捜査の方法も通常の物ではなく、視点を切り替えて行わなくてはならない。
とは言え、言うは易し。
「視点を切り替えると言ってもどうやって……」
ふと、右腕に巻き付いたブレスレッドが目に入る。
万が一妙な魔族と再び出会った時にと、保険としてもらったものだが……
「……あれ?」
「どしたの、アイリ」
アイリの頭に浮かんだのは、小さな仮説。
あくまで仮説だ。
本当にそうであるという保証はどこにもない。だが、もしそれが可能だとしたら?
「ジャンク。魔族のパーツか何か使って、逆探知をすることってできる?」
「え? どうしたのさ、いきなり」
「先生言ってたよね、今回の事件は悪魔使いが関わっているかもしれないって。魔族を操る原理がどんなものかは知らないけど、もし使い魔と同系統のものだとしたら、逆探知もできるはずじゃないの?」
ぴたりとジャンクの動きが停止する。
「……ジャンク?」
「そうか……確かにあの二つの原理はよく似ている! 魔力の残滓を辿っていけば、発信者を特定できるかもしれない! 畜生、まったくなんで思いつかなかったんだ? 僕が真っ先に思い立ってなきゃいけなかったのにさあ! でもサンキューアイリ! これで百歩前進だ!」
「いきなり進みすぎでしょ」
「大げさで言ってるんじゃあないぜ。この事件、最早解決したも同然だぜ!」
はっはっはーと高笑いするジャンク。
自信満々なのは結構だが、なんか嫌な予感がする。
「よし、こうなったら善は急げだ。早速回収した魔族の体を……」
と、ここまで言った瞬間、ピシリと固まった。
「どうしたの?」
「ない」
「は?」
「そう言えばあの時回収するの忘れてた……」
はい、いきなり躓きました。
「え、ちょっと待ってよ。今までバカスカ回収してたじゃない。なんでよりによってあの日忘れてんのよ」
「あの時はキミの無事を確認しようと急いでたからねー。ゴタゴタしているうちに完全にタイミングを逃してしまったワケですよ」
「……ごめん」
「いやいや、こればっかりはアイリの方が大事だからね。回収を優先して手遅れになってたら、後悔してもしきれない」
とは言ったものの、全て振り出しに戻ってしまう……
「……あ」
「どうしたの?」
「あるじゃない。魔族のパーツが嫌ってほど集められている場所が」
目指すべき場所は、騎士団だ。




