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リリィ・オブ・スティール  作者: 悦田半次


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ジャンクの提案

 翌日、アイリは騎士団の詰所の一室で事情聴取を受けていた。

 犯人として疑われていなくとも、アイリは死体の第一発見者だ。

 その時の状況について、詳しい情報を求められた……と言うような経緯であった。


「……なるほど。腕狩り、ですか。二年前にアイリさんの腕を奪った鎧装使い」

「本当です。あれは間違い無く腕狩りでした」

「別にアイリーンのことを疑っている訳ではありませんよ。ですが……ちゃんとした証拠が何一つないというのはかなり厳しい状況ですね」


 スレン個人が腕狩りの存在を信じてくれたとしても、存在そのものが明らかになっていない腕狩りに対して、騎士団のリソースを全て割くことはできない。


「やっぱり、そうですよね……すみません先生。目撃してすぐ、気絶してしまって」

「仕方ありませんよ。あなたの傷は、あなたが思っている以上に深いものです。何も出来なかったからと言って恥じることではありませんよ」

「それは、そうかもしれませんが……」

「むしろ、目撃したのに無事だったことが私は嬉しいんですよ。事件が解決しても、アイリーンが死んでしまっては何の意味もありませんから」


 そう言われてしまえばグウの音も出ない。


「先生は相変わらず口が上手いですね」

「伊達に長寿種(エルフ)ではありませんから」


 少しおどけてみせたスレンに、アイリは思わず吹き出した。

 話は腕狩りから魔族達の方へと移っていった。

 どうやら騎士団の中では、腕狩りよりもどこから発生したのか分かっていない魔族の方が重要案件らしい。


「どこから現れたのか不明、ですか……」

「はい。あの日、学園から半径十キロの範囲内でゲートの出現は確認されていません。ですがはぐれ魔族にしては数が多すぎます」


 実際、腕狩りの話を差し引いたとしても、今回出現した魔族は例外が多すぎる。

 今までの魔族対策については、ゲートが発生次第現場に急行し、出現したタイミングを見計らい殲滅するというものだった。

 ゲートの出現場所はある程度絞られているので対処も容易で、人的被害も出現した黎明期よりは遙かに少ない。


 だが、昨日現れた魔族はまさに神出鬼没。どうやっても後手に回らざるを得なくなる。

 あの時はたまたまジャンクとハイネがいたからどうにかなったものの、そうでなければ被害はさらに広がっていたはずだ。


「ゲート無しで魔族が出現したという情報は、既に街にも広がっています。皆さんの不安を払拭するためにも、一日でも原因を突き止めなくてはなりません」


 コンサートホールの惨劇がフラッシュバックする。


「先生、私も捜査に協力させてください」

「残念ですが、それは許可できません」

「今、ジャンクがブラストリアを修復しています。それが完了すれば私も戦力になれる筈です」

「そう言う問題ではないのです。あなたの心の傷はそう簡単に治せるものではないのですから」


 いつもはほわほわと柔らかい雰囲気のスレンだが、こう言うときは頑なに譲らない。


「あなたの目撃情報のお陰で、敵がどのような存在なのかある程度把握することができました。アイリーンは今でも充分捜査に貢献していてくれているんですよ」


 そう言ってくれるのは嬉しいが、アイリは内心、納得がいっていない。

 だがスレンが決めてしまった以上、覆ることはないだろう。


「しかし、アイリーンの言っていた例の魔族は気になりますね……」


 例の魔族、というのは他の魔族に攻撃を仕掛けた蜘蛛型魔族のことだ。

 コンサートホールを探しても、同一個体と思われる残骸は発見されなかった。


「もしかしたら、またあなたの前に現れるかもしれません。念のため、これを渡しておきます」


 そう言ってスレンが取り出したのは、ブレスレッド状の魔道具だった。


「これは?」

「発信器です。妙な動きを見せた魔族に針を打ち込むことで、追跡することが可能になります。射程はかなり長いので無理をして近づく必要はありません。あくまで万が一の保険のようなものですが……これが私がしてあげられる精一杯です」

「……いえ、充分です。ありがとうございました」


 この結果は分かっていたことだ。

 スレンならば、間違いなくアイリが捜査に参加することを良しという筈がない。

 それが彼女の優しさだからだ。

 この状態のアイリを連れ回すような奴なんて、腹に一物抱えた大馬鹿者くらいしかありえまい。


「――話は聞かせて貰ったよ」


 と、詰所を後にしたアイリを待ち構えていたのは、壁に寄り掛かりながら腕を組んでいるジャンクであった。


「それ、盗聴って言うんじゃないの」

「おいおい、人聞きの悪いことを言わないでくれよ。僕には妖精の友達が結構いてね。彼らに協力して貰ったという訳さ」


 裁判でもそんなナメた証言ができるかは興味があったが、今はジャンクのタワゴトに付き合っている暇はない。


「どこに行くんだい?」

「……別に、どこでもいいでしょ」

「騎士団の捜査には参加するな……そう先生からは言われているんだよね?」

「だから、何」

「これは僕の勘なんだけどね? どっかの誰かさんは色々こじつけて動くと思うんだ。例えばそうだねえ……騎士団としての捜査ができないのなら、こっちが独自に捜査をしてやる、とかね?」


 見事に図星を突かれたどっかの誰かさんは、沈黙するしかない。


「ああ、別に君を止めようってんじゃない。君を止めることは機関車と綱引きするくらい無理なことってのは分かってるからね」


 機関車と同レベルに扱われたことはさておくとして、結局ジャンクは何が言いたいんだ?


「僕は止めない。けど君一人で敵に挑むのも無謀ってもんだ、そうだろう? だからさ」


 ぐいとジャンクはアイリの肩に手を回して、言った。


「君一人じゃなくて……僕達でとっ捕まえてやろうぜ!」


 グッとサムズアップしてみせる。やはりこいつは大馬鹿者だ。そんなバカに返す言葉など決まっている。


「……それ、乗った」


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