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リリィ・オブ・スティール  作者: 悦田半次


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17/35

チケットは誰の手に

 二人揃って去って行くのを確認してしばしの時間が流れた後、ジャンクとハイネはひょっこり茂みの中から顔を出した。

 実は二人ともそこまで遠くに逃亡していたわけではなく、割と近くでその様子をうかがっていたのである。


「ふいー、見つからずに済んだみたいだね。危うく殺されるところだったよ。スレン先生には感謝しないとだね、こりゃ」

「……別に、あの人がいなくてもなんとかなりましたわ」


 ハイネはむすっと頬を膨らませていた。


「おや、ハイネはスレン先生のことが嫌いなのかい?」

「そこまでではありませんわ。気に食わないというだけですの!」


 世間一般ではそれを嫌いというのである。


「でも勿体ないような気もするけどね。スレン先生に鍛錬を付けてくれれば、結構な力になると思うんだけど」

「それができれば、アイリはあそこまで面倒くさくありませんわ」

「なるほど、それは確かにね」


 うんうんと頷いていると、ハイネが少しばかり声のトーンを落として問うた。


「……ジャンクは、アイリの腕がなんで無いのか知っていますの?」

「いきなりどうしたのさ? 藪からスティックに」

「茶化さないでくださいまし。私は真剣に聞いてますのよ」


 おっと、これはタイミングを間違えた。


「直接は聞いてないよ。けどあっちこっちで話を聞いたり腕の状態、何よりアイリの精神状態を鑑みるに……戦闘中の負傷ってところじゃないかな」

「やはりアイリからは聞いていませんのね」

「話したくないことは無理に話す必要はないでしょ。よっぽど辛い目にあったみたいだし」


 そこら辺のデリカシーはジャンクも持ち合わせているのだ。

 あの発作は普通ではない。

 腕を失ったことによるトラウマでああなっているというのなら、どんなことがあったのかは推して知るべしというものだ。


「一応、僕の方でもブラストリアは修復しているけどさ、それが吉と出るか凶と出るかは五分五分ってとこだよね」

「あなたが? あのブラストリアをですの!?」


 ブラストリアは現在ジャンクの手で修復中だ。

 最初はどこからどう手を付ければいいか分からなかったが、案外初めてしまえばなんとかなるものである。

 一ヶ月をかけ、修復が完了するまであと一歩、というところまで届こうとしていた。


「……中途半端な修復では承知しませんわよ」

「そこは心配ご無用と言わせて貰おう。何せ僕はジャンク・ザ・リッパーを作った女だぜ? 修復くらいちょちょいのちょいさ」

「あのオンボロを引き合いに出されて、なるほどそうかとは納得しづらいですわね……」

「そのオンボロに負けたのはどこの誰だったかな?」

「後で勝ったからいいんですのよ!」

「随分都合が良い頭をしているみたいだね。僕達の通算戦績はこっちが勝ち越しってこと忘れてないかい?」

「ぐにゅにゅ……! なら今日の放課後、また決闘ですわ。今度こそぐっちゃんぐっちゃんのねっちゃんねっちゃんにしてさしあげましてよ!」


 随分水分量多めの擬音である。

 一体どんな勝負をするつもりなのだろう。


「とは言え、僕があげられるのは力だけだ。その力を使うか使わないか、使うとしてどう使うのかはアイリ次第だよ」


 ジャンクとしては、アイリが復活することに越したことはないが、別にそれが無理だったと言っても特に不都合はない。

 ブラストリアの修復は善意ではなく、あくまで交換条件なのだから。

 ……もっとも、アイリの場合。交換条件と言ってもウジウジ気にしそうな可能性がたっぷりな気もするが。


「……千八十九勝千九十敗七百五十一分け」


 ぽつりとハイネが言う。


「なにそれ?」

「私とアイリがしてきた勝負の結果ですわ。このままだとアイリに勝ち逃げされてしまいますもの。立ち直って貰わないと困りますわ!」

「……そうかい」


 やはり、ここら辺は幼馴染みということか。もう少し自分の心をストレートに表せば良いものを。

 だがそれを言葉で指摘するのも無粋というものだ。


「な、なんですの。そんな風にニヤニヤして」

「いやいや、別になんでもないともさ」


 ――なので、表情で指摘してやることにした。


「馬鹿にされてますわ。完全に馬鹿にされてますわ!?」

「おいおい人聞きの悪いこと言わないでよ。それとも何か心当たりがあるのかな?」

「きいいいい! もういいですわ。やはり貴女をアイリに近づけるときっと面倒なことになりますそういうことにしますわ!」


 そんな物騒なことを言いながらグリッターが収納されている刀に手をかけた瞬間、はらりとポケットから二片の紙切れが落ちた。


「うん? これは……」


 拾い上げてみると、どうやらピアノコンサートのチケットらしい。

 そう言えばアイリはピアノが好きだった。そしてそのコンサートのチケットが二人分……なるほど、これがハイネの言う秘密兵器という訳か。


「アイリを誘うつもりだったのかい?」


 瞬間、ハイネの顔がぼぼんと赤くなった。


「な、なんのことですの? それはたまたま実家から送られてきたチケットというだけで、私これっぽっちも興味がありませんわ。どう処分しようと思っていましたが丁度いいですわね。あなた、アイリと一緒にいってらっしゃいな」

「えっいや、いいよ。だってこれは君がアイリと――」

「いいですわね! 私はそのチケットとはまるで関係がありませんもの!」


 そう言うや否や、忍者好きに恥じぬ敏捷さで去って行ってしまった。


「これは予想外というか申し訳無いというか。あそこまでいくと筋金入りだねまったく」


 けどああなってしまったら、ハイネは頑としてチケットを受け取ろうとはしないだろう。

 さすがに貰いっぱなしは居心地が悪いので、後で何か奢ってあげようと心に決めるジャンクであった。


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