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リリィ・オブ・スティール  作者: 悦田半次


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スレン先生

 ……さて、どうしてくれようか。


 目の前には正座をしているバカ(ジャンク)アホ(ハイネ)

 アイリは見事にお冠であった。

 エロトークの肴にされて愉快になる奴なんているはずもなし。

 というか隠れているくせにあんなデカい声でベラベラ喋られればいやでも分かる。


「……さて、遺言いいわけを聞こうかしら」


 それくらいの権利はくれてやる。

 どんな極悪人にも、処刑前に何か言い残すことができるのと一緒だ。

 つまり処刑は確定事項である。


「い、いやね。アイリが中々戻らなかったから様子を見に行こうと思って……」

「あ・の・ね。別にこの森だって安全って訳じゃないのよ? それなのにノコノコ来て……少しは安全意識を育んだらどうなの?」


 この森は危険な野生動物もいるので、何も持たずにノコノコやってくるのはあまり推奨できるものではない。

 それだというのに、ジャンクとハイネは『お前に言われたくねえ』と言わんばかりに不満げな表情である。


「心配には及びませんわアイリ。あなたが練習をする一帯は私が常に監視していますの。鍛錬を再会したときから周囲を警戒していましたが、不埒な輩は一人もいませんでしたわ」

「ふーん……つまりあんたはずっと私の鍛錬を覗き見てたってワケ?」


 ズモモと膨れ上がる殺気に、ハイネはてんで気付いちゃいなかった。


「え? そうですけど、何か問題ありますの?」


 コロス。

 恐怖の殺人マシーンへと変貌しそうな勢いのアイリに、慌ててジャンクが声をあげた。


「まあまあアイリ。ハイネもこう言ってることだしさ……僕だけは許してくんないかな。ハイネは煮るなり焼くなり好きにしてくれちゃっていいからさ」

「ジャンク!? 私を見捨てる気ですの!」

「いいかいハイネ、これは算数のお勉強だぜ。二人殺されるのと一人殺されるのどっちがマシか。考えるまでもない……そうだろう?」

「殺されるのが私である必然性が理解できないっつってるんですわ!」


 ギャーギャーと醜い争いを始める幼馴染みとルームメイト。

 なんで私の周りにはこんなのしかいないのだろう……類は友を呼ぶ、という言葉をアイリは慌てて頭から叩き出した。

 いつもムカついてる分を上乗せして、それぞれ二、三発でもぶん殴っておくことにしよう。

 多分意識を失って授業に遅れることになるだろうがそんなの知った事ではなかった。


「そ、そうですわ。こうなったら秘密兵器を……!」


 そう言って制服のポケットに手を突っ込むハイネだが、こっちが待ってやる義理なぞひとつもない。

 パキリと指の骨をならしたその時、涼やかな声がアイリを遮った。


「あまりいじめてはいけませんよ、アイリーン」

「スレン先生……」


 声の主はこの場に新たに現れた金髪のエルフ……スレンだ。


「申し訳ありません。私もついついあなたの鍛錬に見入ってしまって……私も共犯、というところでしょうか」

「そ、そんな! こいつらならまだしも、先生には全然怒ってませんから!}


 さすがに訓練でもないのに、恩師に暴力を振るうことはできない。


「ならば、私に免じて二人を見逃してあげてください。その腕をこんなことで傷付ける必要もないでしょう?」

「うぐ……」


 凜々しい顔立ちがエルフの特徴とも言われているが、スレンはどちらかというと『ほんわか』と言ったような感じだ。彼女の微笑みを見ているだけで、今までアイリの中で渦巻いていた怒りも霧散していくような気がする。


「ま、まあそれなら……って、もういなくなってるし」


 スレンが間に入ったのをこれ幸いとばかりに、二人はトンズラこいていた。

 いつもうるさいくせにこう言うときは静かなのは妙にムカつく。

 そんな心境を知ってか知らずか、スレンは相変わらずほわほわと微笑んでいる。


「やはり、まだ鍛錬を続けていたのですね」

「やはりって……知っていたんですか?」

「ええ。実際に見たのは今日が初めてですが、分かってはいました。戦いから引いた人間は、否が応でも肉体が変わるものです。けれどアイリーンはその様子がまるで見られない……それが厳しい鍛錬を続けている証拠、と言う訳です」


 そこまで見抜かれるのは、かなりこそばゆい。


「どうでしょう。私もその鍛錬にお付き合いしてよろしいですか?」

「え!?」

「実はこの時間帯は割と暇でして……ああ勿論、アイリーンが良ければ、ですが」


 スレンの提案は、アイリにとって魅力的なものだった。

 百年近くこの魔導学院で教鞭を振るっているだけあり、彼女は多くの優れた剣士を導いてきた。

 生徒一人一人の適性に合わせた剣術を教える彼女の辣腕は国の内外に轟いており、スレンに剣を教えて貰うために騎士団へ入ることを希望する者もいる程だ。

 だが……


「遠慮しておきます。私なんかのために時間を割くなんて、勿体ないですよ」


 アイリは既に戦いから身を引いた人間だ。

 そんな奴に剣術を教えるくらいであれば、他の騎士団の面々に時間を割いた方がいい。


「あなたが完全に諦めているのであれば、私もそんな提案はしませんよ」

「……バレてましたか」


 どうも彼女には何もかも見透かされてしまうような気がする。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です。私は私なりにやってみますから」


 隻腕で、戦いになれば発作が発生する身の上だが、まるで希望がない訳では無い。

 大破したブラストリアは、ジャンクが現在修復を行っている。

 結構骨が折れる作業らしいが、投げ出さずに続けているところは感謝している。

 ブラストリアの修復が完璧でも、アイリの発作が乗り越えられなければそこまでだ。

 そうなったら仕方がない。

 諦めが付くというものだ。


 そう思う反面、ジャンクならば発作すらも乗り越えられるようなすごいものを作ってしまうのではないか、なんて期待をしている自分もいる。


「そうですか……でも、気が向いたらいつでも声をかけて下さい。すぐに飛んでいきますし、どうしようもなく忙しいときは、ハイネみたいに分身でもしてみますよ」


 冗談めかして言うスレンに、アイリも思わず吹き出した。


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