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リリィ・オブ・スティール  作者: 悦田半次


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覗き見注意

「アイリー、アイリー? おっかしいなぁ、どこ行ったんだろ」


 ジャンクは森の中を歩きながら、ルームメイトを探していた。

 アイリは朝起きると決まってどこかへ行ってしまう。

 三十分程で帰ってくるので特に心配はしていないが、今日は一時間経っても帰って来ていなかった。


 万が一ということも考え、ジャンクはアイリ捜索に乗り出したという訳である。

 アイリがこの森にいるということはなんとなく分かっていたが、何をしているのかまでは把握していない。

 本人は隠したがっている様子だったので効いたり見たりするのは遠慮していたが、こう言ったときはそんなことも言ってられない。


「……あ、いた。なんだ、トレーニングしてたのか。おーい、アイ――むがごっ」

「静かになさい! 無粋でしてよジャンク」


 その声で、ジャンクは口を塞いだ相手がハイネであることに気付いた。

あの決闘以来、ハイネとジャンクは友達になった。

 少なくともジャンクはそう思っている。アイリと一緒にいることが多いジャンクだが、そうすると自然にハイネもやってくるため、三人で連むことが多くなった。ときどきロッソもそこに加わることもある。


 あの日以来何度か決闘もしているが、やはり一筋縄ではいかない相手なので勝率は五分あたりに収まっているが、辛うじて勝ち星はジャンクの方が多い。

 アイリはハイネを鬱陶しがってますと言わんばかりの態度だが、多分彼女のことは嫌いではないんだろうなーと思う。

 アイリは捻くれているため、思っていることと言うことがあべこべであることは珍しくない(そう指摘したらグーが飛んできた。理不尽である)。


「ぶはっ……いきなり口塞がないでよ。窒息したらどうするつもりだい?」

「この程度で死ぬあなたではないでしょう? それよりも今は静かにすること。それが最優先事項ですわ」


 無駄に真剣な表情でハイネが言うので、ジャンクもハイネと共に隠れてアイリの鍛錬を観察することにした。


 ――うわあ、こりゃすごいな。

 アイリとはかれこれ一ヶ月の付き合いだが、このように剣を振るっている所は初めて見た。 その剣の冴えはすさまじい。

 利き腕を失ったと言っていたが、そのハンデを一切感じさせない程だ。


 ハイネの剣はトリッキーで剣の軌道が予想しにくいが、アイリの剣はとても真っ直ぐなものだった。

 剣術についてはさっぱりなジャンクだが、アイリの剣が基礎を徹底的に磨き上げたものであることは容易に分かった。


「すごいな……うん、本当にすごいよ」


 アイリがかつては凄まじく強い装着者であることは(主にハイネから)聞いていたが、その一端を垣間見た気分だった。


「ふふん。どうやらあなたもあの子の凄みが理解できたようですわね」


 そう言ってドヤ顔になるハイネだったが、僅かにその表情を曇らせた。


「ですが、きっとアイリ自身は満足していないのでしょうね」

「なんで? 十分すごいじゃん」

「他者が評価しても自分で納得できなければ意味がない……アイリはそう思うタイプですわ。それにあの顔を見れば一発で分かりますもの」

「顔って……あ」


 アイリの表情に浮かんでいるのは焦りと苛立ち。あとは自分に対する不甲斐なさ――少なくとも、楽しくて仕方がないと剣を振っているようには見えない。


「きっと昔の自分とでも比べているのでしょうね」

「昔の自分、か……でもそれ、キリがないと思うけどなあ。過去なんて、漠然としすぎてるぜ」

「それで納得できるのなら、アイリはここで剣を振るっていませんわ」

「それもそうか」


 しかし、アイリが毎日こんなことをしていたとは……


「水面じゃすましているけど、水中じゃ滅茶苦茶脚バタバタさせてる白鳥みたいな感じか」

「舐めないでくださいまし。アイリを前にしては白鳥ですらくすんで見えますわ」


 真面目な顔でそんなことを言うのがハイネである。


「なんちゃらは盲目ってヤツかい?」

「私は極めて客観的な意見を述べているに過ぎませんの」

「客観的ねえ……」

「その顔、信じていませんわね? あなたにはアイリのことをもっとよく知ってもらう必要がありますわ」

「ふむ、それはちょっと興味があるね」


 アイリのことをもっと知りたいと言っても、当人は自分に関することを殆ど話してくれない。そのため、快く情報提供をしてくれる幼馴染みは貴重である。プライバシー? 奴は死んだ。


「えぇ? さすがに大猪を箒一本で追い払ったってのはウソでしょ」

「本当ですわ。まあアイリも猪に吹っ飛ばされて何針か縫ってはいましたが」

「無茶するのは昔からってわけかい。そう言えば初めて会った時も、魔族に立ち向かってたっけ」

「んな!? ちょっとお待ちなさいなんでそんなことになってますの!?」

「あれ初耳だった? なんか友達を助けるために避難所から飛び出しちゃったんだよ」

「……手を取るように想像できますわ」


 とまあ、最初の方はそこそこまともな情報を交換していたのだが、二人とも興が乗ってきたのか、話の方向がどこかおかしいところへカッ飛んでいった。


「ふぅん……じゃあこれは知っているかい? アイリは寝ているときに……」

「下着姿と言うんでしょう? 知っていますわそんなこと」

「ああいや、上半身はマッパだよ」

「マッパぁ!? そ、そんな破廉恥な……で、どんな感じですの。最近はあまり見る機会がありませんの」

「……ねえ」

「いやあ、制服を来てるときはよく分からなかったけど、なかなかどうして立派なものをお持ちだよアイリは」

「ごくり」

「……おい」

「ええいお黙んなさいアイリ。今は――あ」

「そうだよ。今は君の話をしているけど君が聞いちゃ色々と――あ」


 二人の前には、ハイライトが消えた目でこちらを見下ろしているアイリの姿があった、とさ。


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