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リリィ・オブ・スティール  作者: 悦田半次


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決着

 なんなんだ、アレは。

 アイリの目に映るのは、大の字に倒れプスプスと煙を上げるグリッター。

 そして、腕を異形から元のカタチに戻しているジャンク。

 決闘場は音を失っていた。


 それだけ、先程の光景はここにいる全員にとって衝撃的なものだったのだろう。

 ジャンクが放ったのは遠距離魔法だ。そこは分かるが――威力があまりにも桁違いだ。

 放たれた時間はほんの僅かだったが、あの魔法に込められた魔力は質も量もそんじょそこらのものではない。


 決闘場の術式がなければ、間違い無くハイネは死んでいた。

 恐らくハイネとしては、ジャンクに弾切れを起こさせ、日光に目を眩ませ視界を奪うことで確実に仕留めさせるつもりだったのだろうが、ジャンクもまた、切り札を隠し持っていた。


 決闘終了の笛が鳴った。

 思い出したかのように、観客達の歓声が決闘場を埋め尽くす。

 あれだけの決闘はそうそうお目にかかれるものではなく、彼らを熱狂させるには充分すぎる熱量だった。

 アイリは手に滲んでいた汗を制服で拭った。


「ったくよぉ……アイツらとんでもねえな」

「同感ね……ていうか、ハイネ大丈夫かしら」


 術式があったとしても、あれだけの威力のを喰らえば無事では済まないような気もするが。


「まあ死んじゃいねーだろ。ハイネだし」

「そうね、ハイネだものね」


 意見が一致したところで、アイリ達は観客席から飛び降りた。

 観客席から字面まではそれなりに高さがあるが、二人にとってこれくらいならばどうということはない。

 アイリが降りてきたことに気付いたジャンクが、ブイとピースサインを作って見せた。


「どうだアイリ! 勝ったよ!」

「見れば分かる」

「そんなこと言っちゃって素直じゃないんだから。で、どうだった僕達の戦いぶり! ワクワクした?」


 ……正直に言えば、した。

けどそれを伝えるのなんかシャクなので、ふいと目を逸らして感想を言う。


「まあ、そこそこ」

「えぇ? もっと褒めてくれたっていいじゃん! あの立ち回りがカッコよかったーとか、ギガントエンドに痺れたーとか」

「自分で言ってる時点で駄目だと思うのだけど」

「ちぇー、厳しいでやんの。誰のせいでこうなったか分かってないんだから」

「なんで私が原因みたいな口ぶりなのよ……」


 どう考えても二人の訳分からない言い争いが原因だ。

 ロッソもハイネの方に行って、ぺちぺちとグリッターのマスクを叩いている。


「ほーれ、しっかりしろハイネー」

「あばばば……はっ、ロッソ! 決闘はどうなりましたの!?」

「負けだよ負け。気持ちいいくらいにハイネの完敗だ」

「か、かんぱ……っ」


 鎧越しだから表情は見えないけど、ぐあーんと口を開けて大ショックを受けているのが分かる。

 そんなハイネに、ジャンクは近寄って手を差し出した。


「ナイスファイト。良い勝負だったよ、ハイネ」


 その手を見て、ハイネはぐにゅにゅと何やら唸っていたが、振り払うことはせずに、しっかりとその手を取った。

 ハイネのこう言う律儀なところは嫌いではない。


「……次は私が勝ちますわ。覚えてらっしゃい!」

「いつでも応じるとも。まあ? 勝つのは僕だけどね!」

「きぃ! なんですのその余裕に満ちた声は! だったら今すぐ再戦を……!」


 わーわー言い合っている二人を見て、アイリは少しばかり苦笑を漏らした。


「羨ましいか?」


 と、ロッソがアイリの肩に手を置きながら聞いてくる。


「……別に」


 何がだ、とは聞かずにそっぽを向いた。

 決闘が終わり、ようやく帰れると思ったその矢先。

 警報が、鳴った。魔族との戦闘の合図に反射的に左腕でブラストリアの柄を握ろうとして――空を切る。当たり前だ。


 今、ブラストリアは右腕で引き抜けるように、左に差している。

 そして何より――ブラストリアを握るための左腕は、アイリにはもうない。

 ――もう二年もなるのに、バカか私は。


「およ、これは行かなきゃいけない感じかな?」

「上等ですわ。魔族の撃破スコアでその鼻っ柱へし折って差し上げましてよ」


 バチバチと二人の間で火花が散るが、そこでロッソが待ったをかけた。


「待て待て。おまえら、魔導鎧装の調子は大丈夫なのかよ。軽くでもメンテしといたほうがいいんじゃねーか?」


 いくら傷を無効化する術式と言っても、魔導鎧装はその対象に入らない。

 決闘を経た二人の魔導鎧装は、それなりにダメージを受けていた。


「んー、確かにちょいちょい動きにくいけど、特に問題無いかな」

「問題ありませんわ。この程度であれば、魔族なんてひとひねりですわ!」

「ダメ。出るにしても最低限のチェックはして」


 この二人なら大丈夫かもしれないが、何のチェックも無しに戦場に出るのは危険だ。万が一という事もある。


「それは心配しすぎじゃないかな?」

「そうですわ。何より出遅れるのは――」

「出遅れるのと、万が一を引き当てて再起不能になるのどっちがいいの?」


 ハイネが言葉に詰まった。さすがにちょっと卑怯かとも思うが、こればかりは腕が無いことを存分に利用させてもらうことにする。


「……分かりましたわ。ロッソ、超特急でお願いしますわ!」

「あいよ、引き受けた。ジャンク! あんたはどうする?」

「あー、君はロッソだっけ? 自分でやっとくよ」

「やっぱ、そうくるかい」


 笑い合う二人。技術者同士、何か感じるものでもあったのだろうか?

 多くの生徒達が、魔導鎧装が収まった武器を手に決闘場の出口に急いでいた。

 魔力の無駄遣いになるというのに、既に纏鎧しているせっかちな奴もいる。


「アイリ。あなたは寮に避難なさい。いいですわね?」


 いつになく真剣な声音のハイネ。立場が先程とは完全に逆転していた。

 魔導学院は校舎も寮も頑丈なので、避難先には申し分ない。

 もっとも、避難先に使う生徒は殆どいないのが実情ではあるけど。


「……分かっている。あなた達も、気を付けて」


 返事を待たずに走り出した。

 二人を見送ることは出来なかった。置いて行かれることをいやでも意識させられるから。



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