【67】シリウス君、初めての日本。
ピンポーン!
午前10時。インターホンが鳴った。
「はいはーい!」
「ままー、しりうすくん!」
こうちゃんが教えてくれたのでそのままドアを開ける。
ドアを開けるとシリウス君は満面の笑みで立っている。
「おおー。来たね!」
「はい!遂に念願が叶いまして今日日本に行きます!僕が先なのがニーナ姉様は悔しがってましたが。
昨日の夜は楽しみ過ぎて寝られませんでした!!」
そう言ってどこかソワソワしている。
「ニーナちゃんは忙しいの?」
「はい。何せ父の後継が姉様なんで。ほら、春から一応父が王になるのでサポートとか諸々あるんですよね。それに伴って縁談も国内外から山ほど来てまして。」
え、縁談だとーーーーーー!?
「な、なるほど。相手はまだ決まってないんだよね?その、ケネスさんはなんて言ってるの?」
私の脳裏に一樹君と仲睦まじそうに話すニーナちゃんが思い浮かぶ。
あの2人ってまだ付き合ってないんだよね?!せ、繊細な時期なのに…!!
「父は姉さんの好きな人と結婚すれば良いと言っています。ただ…。」
「ただ?」
私が急かすとシリウス君が複雑そうな顔をする。
「本人達が分かってないだけで、一樹さんとうちの姉って明らかに両思いじゃないですか。ただ、文字通り住んでる世界が違うから難しいかもしれないなって。
さすがに断りきれなくなってきて、今度隣国の王子と会うことになりそうで…。」
うおおおおおお、そうだよね。。そうだけど!!
「私!一樹君と一回話してみる!このままじゃニーナちゃん取られちゃうよ!」
「…そうですね。なんであれ、姉には幸せになって欲しいと思ってます。」
そう言ってシリウス君は複雑そうな顔で笑った。
「と、とりあえず行こっか!あ、でもその前にそのキラキラしい服だとめちゃくちゃ目立つから祥志の服持ってくるよ。ちょっと待ってて。」
「…え!!異世界の服!」
そう言ってめちゃくちゃ興奮している。
…そんなに感動されても申し訳ないけど、丁度洗ったばっかりの黒のスウェットがあったのでそれを渡した。
10分後、スウェットを着たシリウス君が出てきた。
「ど、どうですか?」
なんということでしょう。
ウニクロなのに、アイドルの衣装かなっておばちゃん思っちゃったよ。現代風ハーフイケメン爆誕である。
「似合ってる似合ってる!」
と言って拍手したら照れていた。
「いやぁ、めちゃくちゃ楽で着心地いいです。もう元の服が着たくないくらいです。」
さて。私は車庫に行ってエンジンをかける。まずはこうちゃんをベビーシートに乗せなきゃね。
「ほい、乗って乗って!後ろのこうちゃんの隣に座ってー。」
「失礼します…。」
そう言ってシリウス君が乗り込む。
「それじゃ行くよー!!!!」
出てくる車や小さい子などが歩いてないか確認しながら発進する。
「…うわぁああ!!!変わった家がいっぱい!めちゃくちゃ面白いですね!あれ!あの家は何で出来てるんですか?!」
外の風景を見ながら目をキラキラさせて聞いてくる。
「あー。あれは金属で家を覆ってるんだよ。金属サイディングっていうの。木よりは耐久性がいいんだよね。うちは樹脂だけど、金属も結構持つって聞くよー。まあ、普通にタイルの方が私はいいと思うんだけどこっちでは値段が高いんだよね。」
本当はマイホームも外壁をタイルとか煉瓦にしたかったんだけど、高いからやめたんだよね…。無念。あ、そろそろ駅前が近くなってきたな。
「へえええええ!へえええええ!そうなんですね!あ、あれは何ですか?」
そう言ってシリウス君は大きなショッピングモールを指差している。
「あー、あれは商業施設。いわゆるお店が集合した建物だね。レストランとか書店、映画館なんかも入ってるよ。あとでせっかくだからちょっと寄ってみよっか。」
そう言うと、感極まった感じで『是非!』と言われた。
うーん、私、異世界では実はルーナ村と蟹を倒したレーヌ町と王宮と公爵家くらいしか行ったことないんだよな。向こうの都市って逆にどんな感じなんだろ?
…!!!というか。今思い出したけどあの時の蟹まだアイテムボックスの中だ。蟹も牛肉もまだ解体出来てない。忘れる前に早く食べてしまいたい。
牛はともかく蟹なら頑張れば捌けるかも。もし出来そうだったら今日は蟹メニューにしようっと。
しばらく車を走らせると、農業機械の販売店に着いた。
「へー。私もこういうお店初めてきた。なんか、ちょっと車屋さんみたいな雰囲気なんだね。」
お店にはズラッと色んな農業用の機械が並んでいる。
「す、すごい!すごいです!!!これを走らせるだけで畑を耕せるなんて…!」
とシリウス君はめちゃくちゃ感動している。
「いらっしゃい!兄ちゃんが使うのかい?」
お店の人の良さそうなおじさんが話しかけてきた。
「そうなんです!色んな農業用の機械が見たくて。これは何ですか?!」
興味深々のシリウス君におじさんも嬉しそうだ。
「あー、これはトラクターだな。で、こっちが耕運機。で、こっちが田植え機で、こっちがコンバインだな。で、あれが除雪機だな。」
「へええええ!」
目をキラキラさせておじさんと盛り上がっている。
パンフレットを貰いながらめちゃくちゃ真剣に話を聞いている。おじさんは性能やメーカーごとの特徴などを熱が入った感じで話している。
おばちゃんはアウェイ感が半端ないからこうちゃんと自動販売機でジュースを買って、ベンチに座り、アマンゾでダウンロードしたアニメを見て暇潰ししていた。
1時間くらいして、もうこうちゃん用に持ってきた『食べる子アニマルクッキー』が無くなりそうになった頃シリウス君が満面の笑みで戻ってきた。
「いやー!全部欲しいところですがとりあえずトラクターと耕運機は絶対買います!米も植えるならコンバインも欲しいですね!まあ、他にも欲しいものは山ほどあるんですが、あとは父に相談します!買うことになったらまた連れてきてもらってもいいですか?!」
そう言って瞳をキラキラさせている。
おおお、なんだか嬉しそうでよかったよ。
「もちろん!」
と言うと飛び上がって喜んでいた。
うーん、まさかこのおじさんもこのよれたスウェットを着た農業系ハーフイケメンが春から王子様だとは思うまい…。




