【65】手作りピザとメレンゲアイスでお疲れ様会@公爵家
さてと。スタンピードがとりあえず落ち着き、まだ今日は日曜日である。そして、お給料も出ている。
なのでケネスさんとシェフのジョゼフさんに相談して今日の夕飯は私がメイン担当をすることにした。
ケネスさんに、休んでもお給料は出すと困惑気味に言われたので、それならこうちゃんと祥志と私も一緒にご馳走になっていいか聞いたところ快諾して貰えた。
サダオさんとレオナさんも一緒に食べて帰ることになった。
今日のメニューはずばり釜焼きピザである。前皆さんがいる時に立花家で宅配ピザを出前したことはあるが、窯焼きはまた違う美味しさなので是非皆さんに召し上がって頂きたい。
それに、普段のパンもジョゼフさん達が窯で焼いているしピザなら私がいない日も常駐のシェフだけで作る事ができる。
今回はもし余ったら冷凍するのも考慮して、20枚分作る。
強力粉を2.5kg、薄力粉を500g、それに塩を30g、ドライイーストを50g、オリーブオイルを150g、ぬるま湯1.5キロを混ぜてこねる。
それを調理台にバンバン打ちつけては包み込むようにまとめてを繰り返す。最後に丸くまとめる。全部で6つの塊ができた。
結構な体力仕事だが、ジョゼフさんや他のシェフの皆さんも一緒に頑張ってくれた。
それを清潔な濡れ布巾をかけて1時間以上放置する。(一次発酵)あとはガス抜きをして、20分放置(2次発酵)して、丸く伸ばした上にトッピングをすれば完成だ。
発酵させてる間に手分けしてジェノベーゼソース、湯むきしたトマトを煮詰めてトマトソースを作り、生クリームとメレンゲでアイスクリームを数種類作った。
あとは、ニンジンドレッシングとマヨネーズ、中華ドレッシングの3種類を作った。
ピザはジェノベーゼソースにモッツァレラとベーコンをのせたもの、トマトソースにシーフードとブロッコリーをのせたもの、チーズを4種類のせてハチミツと胡桃に似た異世界ナッツをのせたクワトロフォルマッジョを作った。
「これなら普段も作れそうだな。魚やチキンをのせてもうまそうだ。」
そう言いながらジョセフさんは満足そうにしている。
「そういや、シュガービーツの種を植えられそうな農家、領内に見つかったぞ。早速公爵様にも話したし、本格的に話も進みそうだ。砂糖を煮詰める工場も建設予定だしこれは料理の革命が起きるぞ!あと、コメも見つけてきた!」
な、なんですと!!ジョゼフさん仕事が早すぎませんか。情熱が凄い!
来週は魔王の所に行くので厳しいが、再来週早速お米で色々作ってみようということになった。
異世界シュガーも収穫出来次第どんどん使っていきたい。
多分現状砂糖を売るだけで公爵家、もといムーンヴァレー王国は暫く安泰だな。
とりあえずケネスさんにお金を貰って私が平日シュガービーツの種を大量購入することになった。ネットでどれくらいの量を買えるんだろうか。
いざとなったら農家さんに問い合わせた方が良いかもしれない。
◇◇
ワゴンでガラガラとピザを侍女のクララさんと持っていくと歓声が上がった。
クララさんは皆に食事が行き届いたのを見ると頷いて退室した。一応今後のことなどざっくばらんに話せるようにスタッフの皆さんは退室してくれた。
今回私は公爵家の皆さんと一緒にピザを頂くが、ジョゼフさん達も厨房でシェフの皆さんと出来上がったピザを食べていることだろう。
「この前の宅配ピザも美味かったが、これはこれでまた違った味わいだな!!」
そう言ってケネスさんは夢中でピザに食いついている。
「カーネル王宮の味付けは塩胡椒だけでしょ?最近ジョゼフも頑張って出汁を取ったりしてくれているから、舌が肥えてきちゃって。我が家の食事が恋しくて仕方なかったわー。」
そう言いながらダイアナさんはクワトロフォルマッジョを頬張っている。こうちゃんも気に入ったようで幸せそうにはぐはぐ食べている。あぁ、可愛い…。
「このドレッシングとても美味しいですわー!」
そう言ってニーナちゃんと彩音ちゃんはサラダバイキングしている。ニンジンドレッシングっていくらでも食べられちゃうよね。
「こんなハイカラなもんなかなか食わねぇが、悪くねぇな。」
サダオさんも美味しそうに食べている。
ニーナさんとシリウス君は角切りベーコンののったジェノベーゼピザを食べて幸せそうな顔をしている。
はじめは皆さん食事に夢中だったものの、そのうち談笑し始めた。
「それにしてもまさかスタンピードが起こるほど強烈なものを我が家に知らぬ間に紛れ込まさせるなんて。解決してホッとはしたけれど、恐ろしいわ。」
とダイアナさんが少し憂鬱そうに言った。
「公爵様、お前さん、誰かにこんな事されるような覚えってあるか…?」
とサダオさんが心配そうな顔でケネスさんに聞いた。
「そもそも魔王の骨のこと等を知っている者だから、恐らく王家が秘匿していた情報も知っている者の仕業だと思うのだが。今の所恨まれるような覚えは無い。まあ、強いて言えば我が家が祖父の代からいきなり資産を増やしたことへの逆恨みか何かか。」
「ちなみに、ケネス様のお爺さんってどうやって資産をそんなに増やしたんすか?」
祥志が何気なく聞くと、ケネスさんが答えた。
「確かミュラー伯爵家から農業の画期的な方法を教えてもらったはずだ。二毛作や二期作、それに肥料の考え方などな。」
んん?二毛作?なんか引っかかるぞ。
「…なんでそんなに詳しい人がいたんでしょうね。それに何故ムーンヴァレー家だけに教えてくれたんでしょう。」
シリウス君が聞くと、ケネスさんが
「確か我が家から令嬢が嫁に出ていたはずだ。もう私の祖父や祖母、下手をすれば曽祖父の時代だから詳しくは知らないが。」
と答えた。
「公爵令嬢が伯爵家にですか?それはあまり聞かないわね。」
ダイアナさんが困惑して言う。
「恐らくそれらの知識がよっぽど貴重な情報だったのだろうな。」
ケネスさんにそう言われた時ふと、中学生の頃教科書で見たことを思い出した。
「二毛作って、確か鎌倉時代に普及したはずだよね?」
私がポツリと口に出すと彩音ちゃんがハッとして顔を上げた。
「そうだ!その通りです、栄子さん。私も何か違和感感じるなって思ったんですけど、公爵様が言った農業の方法って全部『日本史』に出てきたんですよ。」
「…それって、ミュラー伯爵家の誰かが憑依者だったってことではないんですの?」
ニーナちゃんがそれを口に出すと、楽しくお喋りしていたダイニングがシーンと鎮まり返った。




