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【間話27】聖女キヌのその後〜ロバート・ミューラ伯爵視点


◇◇ロバート・ミューラ伯爵視点


 私は80年前に聖女キヌと結婚した第二王子だったクリスピア三世のひ孫だ。


 2人は『真実の愛』で聖剣を具現化し、魔王を倒し、『願いを叶える宝珠』を手に入れ、国の英雄として一代限りの公爵位を賜った。


 その数日後、カーネル王宮で宝珠が使用され、王宮は真っ白な光に包まれたらしい。


 そして、王族以外の人間から『都合の悪い真実』の記憶が全て消えてしまったらしい。


 例えばムーンヴァレー公爵家の令嬢と曽祖父が婚約していたものの、聖女キヌと浮気をした為に婚約が破棄されたことや、当時の王族が実施した不都合な施策等の記憶が根こそぎ民衆からなくなったらしい。

 

 何故王族しか知らないその事実を私が知っているかというと、当事者であったクリスピア三世にはきちんと記憶が残っており、当家に秘密裏に情報が受け継がれていたからに他ならない。


 そして、宝珠が使用された直後から曽祖父のクリスピア三世の性格が別人のように一変した、らしい。


 聖女キヌ曰く『ケチ臭くて融通が効かない頭でっかちな男』に変わってしまったのだとか。

 

 ちなみにその前までは王子だったこともありかなり散財して、聖女キヌを熱烈に口説き落としたらしいが。


 徐々に2人の折り合いは悪くなった。


 皮肉にも『真実の愛』を誓い合った2人だが、聖女キヌは邸を出ていってしまったらしい。


 王宮で願いを叶える宝珠が使用された何ヶ月か後のことである。


 その時、聖女キヌは妊娠中だったらしい。


 性格が一変したあとの曽祖父は聖女キヌが出ていっても淡々と執務をこなし、農地を改革し功績を上げ続け、膨大な資金を王家に納め、次の代からの伯爵位をもぎ取ってくることに成功した。


 その後、王宮とは徐々に疎遠になっていったようだ。


 何故か曽祖父は自分の事を家族には『私はクリスピア三世ではなく、ミウラ・タロウである。だから、タロウと呼んでくれ。』と言っていたそうだ。


 そして何故か卵を生で食べようとする奇行をするようになったらしい。


 使用人達に全力で止められる度に、『だってタマゴカケゴハンが食いたいんだもん。』とぼやいていたそうだ。

 

 そして、なんと一度婚約を破棄したムーンヴァレー家の令嬢と再婚した。


 まあ、一度婚約したことをムーンヴァレー家の方達は覚えていなかったおかげで成り立ったわけだが。


 その際、平民となった聖女キヌは血相を変えて公爵家に殴り込みに来たそうだ。


「この泥棒猫!私にクリスを取られた腹いせでしょ!いつか、ムーンヴァレー家に目にもの見せてやる。」


 そう言い残し、去っていったそうだ。傍には曽祖父に憎しみのこもった目を向ける幼子がいたそうだ。


 ムーンヴァレー家の令嬢は記憶が無いので困惑していたそうだ。


 そして、曽祖父は複雑そうな顔をしながらも

「私は君を聖女キヌと作った記憶がないんだ。すまん。多分私が()()()()()()()に出来たんだと思うんだが。どうしても我が子だとは思えん。ごめんな。」


と言っていたらしい。…我が祖先ながらデリカシーがないと思う。というか、子供相手に結構酷いと思う。


 まあこの婚姻があったからこそムーンヴァレー家は高度な農地改革を行う為の知識を身に付けることが出来た。そして王家すら凌ぐ程の財を築くことが出来たのだ。


 そして暫くすると、私の祖父が生まれ正式に伯爵位を賜り、『ミューラ伯爵家』と名乗るようになった。


 ミウラが訛ってミューラである。なんと安直なことか。


 そして、クリスピア三世のひ孫の私が現在ミューラ家の当主になったというわけである。


 王家と疎遠になった我が家は現在ムーンヴァレー公爵家を寄家にさせて頂いている。

 

 ただ、『願いを叶える宝珠』が引き起こした事象は複雑すぎてミューラ伯爵位を受け継いだ代々の当主は決して外へ事実を漏らすことはなかった。

 

 この話を自分の父からされた時私が思ったのは、当時聖女キヌに連れられていたという幼子はどんな人生を送ったのだろうか…ということだった。

 

 恐らく今現在生きていたとしてもかなり年老いているであろう。


 しかし聖女と英雄の子供だというのにかなり不遇な人生を送る事になってしまったのであろうことは間違いがない。


 どの大人が悪いとも一概には言えないであろう。


 しかし、様々な超常的な事象に巻き込まれてしまったが為に平民にまで落ちてしまった幼子に私は同情を感じざるを得なかった。


 聖女キヌ本人はその後消息不明となっているが、あまり良い人生を送れたとは恐らく思えない。


 王子の寵愛を受け、公爵婦人になった女性が平民になったのだ。生活はかなり厳しかったであろう。


 どうか、幼子だった彼が少しでも幸せを感じられる人生を送っている事を願う。



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