【64】魔王ラミダスと聖女キヌの物語。
公爵家のダイニングには公爵家のメンバー、立花家と彩音ちゃん、それにサダオさんが座っていた。
「まずは、サダオ・ヤマノ氏。公爵家の危機を救ってくれて礼を言う。後ほど謝礼を出そう。」
ケネスさんが厳かに言った。おお、ケネスさん、もうすぐ王様だもんね。なんか威厳が出て来たな。
「いいってことよ。俺もじぃちゃんの骨が悪用されたら嫌だからな。」
そう言いながら頬を掻いた。
「そして、立花家の皆、及び彩音殿もスタンピードの鎮圧、及び此度の活躍、感謝する。皆にも後ほど金一封を出す。」
やったーーー!いくらくれるんだろ?落ち着いたら沖縄行こうっと!
「それで…だな。ヤマノ氏は魔王ラミダスと聖女キヌの孫だというのは誠か…?」
ケネスさんが歯切れが悪そうに聞く。
あ、やっぱりこの2人が夫婦だったんだね。まあそうでなかったら仲良くお墓には入っていないか。
それにサダオさんが白魔法が使えたのは、おばあちゃんからの遺伝かな。
「ああ、その通りだ。そして、俺の母、桜は2人の娘だな。ちなみに、母は三人兄弟で、上に兄が2人いる。」
「なんと…!!そうであったか。しかし、カーネル王国の伝承では聖女キヌ殿はクリスピア三世の伴侶となったとあるのだが。」
そう言ってケネスさんは困惑している。
「ああ。それな。『中身』が違う人って言えばお前さんらには伝わっかな?」
そう言われるとシーンとダイニングは鎮まり帰った。
「えーっと、つまり、クリスピア三世と結婚した方は憑依者の人ってことですか?あれ、でも身体は一つですよね?どういうこと?」
私はちょっと混乱しつつも皆が恐らく聞きたいことをまとめてみた。すると、サダオさんが眉を下げた。
「実はばあちゃん、あ、聖女キヌな。爺さんと戦ってる間になんとか覚醒したんだよ。
で、他の奴が自分の身体に入って勝手なことをしている状態が嫌で仕方なくて、無意識に自分のスキルで自分自身をもう一体増やしたんだよ。そんで元々一体に入ってた二つの精神をうまいこと2体に分離するのに成功したってわけだ。
『コピー』のスキルって知ってるか?俺のばあちゃんが持っていたんだ。」
うわー!!!ここで出て来ましたか!『コピー』!!
本当に何でもコピー出来ちゃうんだな…。
「そのスキルは知っていますね。でも、伝記では魔王は倒された事になっているんですけれど…。」
シリウス君が答えると、サダオさんが頷く。
「ああ、爺さんは死ぬ直前だったはずだ。だが、憑依者ではない本物の婆さんはずっと疑問を持っていたんだと。
爺さんは瘴気は撒き散らかしてるけど、何も悪い事はしていないのに、殺されるのはどうなのかって。
で、憑依して来た奴が何も考えずに能天気に王子と恋愛ごっこした挙句、爺さんを殺そうとしたのが不快で抗おうとしていたらしい。
そんで、爺さんがトドメを刺されそうになった時、咄嗟に自分の身体を分離して、爺さんのことを連れ去ったみたいだ。」
「それなら魔王が生きていたということか。なら瘴気が発生しなくなったのは何故だ?」
ケネスさんが神妙な顔をして尋ねる。
「婆さんが毎日『デスペル』を爺さんにかけてやっていたからだよ。で、そのうち情に絆されて結婚したってわけだ。
でも、婆さんはやっぱり元の世界に戻りたかったからどこかに異世界に通じるところがないか旅をして探していたんだ。
で、見つけたのがあの墓の上の隠し通路って訳だ。
俺は今でも通路の間に家を建てて爺さんと婆さんの墓を守りつつ、変な奴が異世界から入ってこないか見守っている。『千里眼』のスキルもあるしな。
婆さんも爺さんも、日本で幸せそうだったぞ。側から見たら普通の農家の夫婦に見えただろうな。
…だからこそ、勝手に骨を持っていった奴に凄く腹が立っている。
正直、夫婦でそっとしといてやりたかった。」
な、なるほど。なんだか壮大な話である。
でも、確かに自分の親族のお墓の骨が勝手に暴かれて悪用されていたら腹が立つよね。
「それはそうであろうな。私も身内の墓が暴かれようならその者を探し出して、絶対的な罰を与えるだろう。」
おお、ケネスさんが物騒な事を仰っている。
「…ちなみに願いを叶える宝珠というのは、ラミダス殿が残したものですか?僕、カーネル王朝から極秘扱いで我が家に公開された資料を見たんですが。」
ほ、宝珠?シリウス君、なんだいそれ。おばちゃんはそんなこと知らんよ。
「それが、爺ちゃんも旅の途中で何か王宮で使われた痕跡を感じたと言っていた。だが、なんだかわからんかったらしい。だから俺は無関係だと思う。」
「…もしかしたら、私や彩音ちゃん、そしてキヌさんに『スキル』を与えた神様か、その弟さんあたりの仕業かな…。」
あと、神様の『弟』がコイケンの世界に似せるために小細工をしたって神様が言っていたしね。
「その可能性はあるかもしれねぇな。」
サダオさんがそう言うと、一同黙ってしまった。
「とりあえず、骨を暴いた者が誰か調べる必要があるな。公爵家に骨が隠されていたということは恐らく我が家に恨みがある者の仕業だと考えて間違いないだろう。」
ケネスさんの言葉に皆が頷いたのだった。




