【間話25】『私』を頑張る。〜新條桃花視点
◇◇新條桃花視点
栄子さんに『逃げて!』と言われてすぐ公爵家に駆け込んだ。
執事のスティーブンさんは驚きつつも宮野さんが公爵家で利用している部屋に案内してくれた。
本がいっぱいで秀才の彼女らしい部屋だ。多分異世界に来てもいっぱい勉強していたんだろうな。
「そっか。話せたんだ。お母さんと。良かったじゃん。」
そう言って宮野さんはニッコリと笑った。
「…宮野さん変わったね。なんて言うか、自然体になった。」
それを聞いて、宮野さんは嬉しそうに照れていた。
「へへへ。前までは私、作ってたからね。よく見られたいが為に。
でも、この世界に来て、大事な友達も出来て肩肘張らないで生きていけるようになってきた。」
私は意を決して言う。
「私ね、本当はずっと貴女みたいになりたいって思ってたの。でも、私は貴女になれないし、やっぱり違う人間なんだなって。
前まで全く自信がなくて、今だってそんなにはないけど。でもね、貴女が歴史のテストがきっかけで私の事を覚えていてくれたこと、本当はすっごく嬉しかった。」
それを宮野さんは頷きながら聞いてくれている。
「私。もう一度元の世界で『新條 桃花』を頑張ってみる。だから宮野さん。私を元の身体に戻してください。」
すると、宮野さんが『わかったよ。』と言った。
目を閉じると、額に宮野さんが触れているのを感じる。次の瞬間、真っ白に周りの風景が光った。
白くなる風景の中で間違いじゃなければ宮野さんが
「頑張れ!次は向こうで『友達』として会えたらいいね。」
と言ってくれた気がした。
◇◇
目が覚めたらさっきまで訪れていた病室にいた。
手には管が通っていて点滴されている。
(…戻ってきたんだ。)
恐る恐る目を開けると、お母さんが驚いたように顔を上げた。
「…桃花!!!」
バタバタと看護師さんが先生を呼びに行く音が聞こえた。
「…良かった、良かったっ…」
そう言って泣きながら抱きしめられた。驚きつつも嬉しさと照れ臭さを半分くらい感じていた。
その後、すぐ父と弟が病院に駆けつけた。
2人とも泣いていた。
「やる。」
そう言って弟からぶっきらぼうに渡されたのは、私がずっと欲しかったゲームソフトだった。
「え…これ。」
「高かったんだからな!小遣い全部使って買ってやったんだから、早く良くなれよ!」
と真っ赤な顔をして言われた。
「…ありがとう。」
父は私が好きなお店で食べきれない程沢山ケーキを買ってきてくれた。
せっかくだから家族全員で食べた。そういえば皆で何かを食べたのは久しぶりだった。
なんだかとても美味しく感じた。
SNSを開くと、オタク仲間からいっぱいメッセージが来ていた。
恋剣の超綺麗なイラストや、私の好きな真田幸村の伊達政宗の尊いイラストに「ももたん、早く元気になりますように」と丁寧に書いてくれているものまで盛沢山だった。
数日後、私は先生と看護師さん達に見送られて無事退院した。
◇◇
数日後、私は栄子さんの家に菓子折りを持って遊びに行った。
残念ながら留守だったけれど、家に帰る途中、丁度私が事故に遭った花山田商店街の近くに『あの男の人』がいた。
「…ひっ。」
思わず声が出てしまった。
すると、男の人が苦笑して言った。
「別にそんなに怖がんなくていいよ。事後アンケート。なんで君、帰りたいと思ったの?可愛い女の子になれて、あわよくばクラスのイケメンの誰かと付き合えそうだったんじゃないの?」
怖がられないようにだろうか。何故か普通の人間のように今日は威圧感がない。
…それにしてもこの人送り込むだけ送り込んで何も見てなかったんだろうか。
「…それがですね。あそこがゲームの世界だと勘違いして、公爵令嬢をデータだと思い込み、無礼を働いて修道院行きが決まった所でした。」
そう言うと、男の人は目を丸くした。
「は…?しゅ、修道院??き、君僕があそこまでお膳立てしてあげたのに、バカじゃないの?主人公ではないけど、だって親友キャラだよ?!」
私は苦笑しながら答える。
「…はい。馬鹿でした。
見た目がいくら変わったって所詮中身は『私』は私なんだから、人生が全部うまく回り始めることなんてなかったんだなって。
異世界に行って初めて気づいたんですけど、むしろ私、こっちの世界で家族に守られていたんだなって。
だから、私は私としてこっちの世界で頑張ってみます。」
すると、男の人が溜息をついた。
「あーあ…。せっかくまた『神力』を集められると思ったのにな。何故か、憑依させた半分くらいの人が戻ろうとしちゃうんだよねぇ。」
「…私以外の人もいたんですか?」
「いっぱいいたよー。ほら。君の国の王妃様だって僕が憑依させたんだ。」
そう言って、どこか誇らしげな顔をした。
「王妃様って、最近引退されたあの王妃様ですか…?」
すると男性は、『え?!』とまた驚いた。
「引退…?そ、そんなはずないんだけど!?」
「…王妃様はこっちの世界で元々はどんな方だったんですか?」
そう聞くと、ちょっと気まずそうに答えた。
「整形と男遊びが大好きな60歳くらいのマダムかな。」
「…どうしてその人にしたんですか?」
「変わりたい願望を持ってる人の願いを叶えてあげたら定住してくれるかなって。」
その言葉を聞いて思わず心の中で溜息を吐く。
「…ちゃんと人を選ばないと私みたいに馬鹿なことをしちゃって、結局失敗するんですよ…。引退されたって事は何かやらかしちゃったんじゃないですか?そのマダム。
それより知識がある人を呼んで、全体的に異世界の文化レベルを上げた方が定住率が上がるかもしれませんね…。今の選定基準は変えた方がいいのでは。」
と言うと、考え込んだ後に頷いた。
「それ、この前『兄』にも言われたんだよね…。君たちに手を出したら【アイツ】にこってり絞られちゃったよ。…あー、やんなっちゃうな。」
そう言った後、『じゃあね。』と言って消えてしまった。




