【59】スタンピート発生からの、贅沢バーベキュー。
「…あれ?でも魔王対策で召喚をしたりスキルとか与えているのは確か神様なんですよね…?
…神様が召喚した聖女様を弟さんが憑依させた人に乗っ取られてたってことですか?」
なんだか私も混乱してきてしまった。すると、神様が、苦々しげに答えた。
「そうですよ。お恥ずかしいことに何百年か前からですかね…。弟に小細工されるようになってから召喚した人間の『中身』が変わってしまったんですよ。
しかも僕が力を与えた存在に介入されたことで、僕の力が少しずつ弟に盗まれるようになってしまったのです。
それで、なんだか様子がおかしいなと思いまして。
今回から『強制ログアウト』のスキルを聖女に与えたり立花さん達を転移させたり対策を打たせて頂いたんです。」
えー!何百年か前って神様、もう少し早く気づけなかったのかな。。でも、二万年以上前から生きてるならつい最近のことなのかもしれない。
それにしても神様も兄弟間で色々あるんだな。
「ちなみに憑依者の人ってまだ沢山いるんですか?」
「いますよ。それに、『狭間』もさすがにここよりは小さいですけどいくつかありますしね。
さてと。そろそろこれでお暇しますね。今回は弟の事があったので慌てて出て来ましたが、本当は私、人と話すのがすごく苦手なんですよね…。
何かあったらテレビからまたメール下さい。」
そう言ってピカッと光ったかと思うと消えてしまった。
取り残された私と祥志は呆然とするのだった。
こうちゃんだけは『消えちゃったー!』と言いながらキャッキャと騒いでいた。
◇◇
とりあえず、彩音ちゃん経由で連絡して、ケネスさんに事の次第を伝えることにした。
「なんと…。憑依者を送り込む事で『力』を得ることが目的だったのか。しかし、そのせいでカーネル王国が未知の存在に操られていたと思うと複雑な気分だな…。」
そう言ってため息を吐いた。
現在公爵家のダイニングルームには公爵家の皆さんと彩音ちゃん、そして私達三人が集まっている。
モモちゃんは無事元の身体に戻ったようだ。
彩音ちゃんもニーナちゃんも複雑そうな顔をしていた。
「とりあえず、今は私が『憑依者』を見つけたら『強制ログアウト』させるしかないってことですよね。まあ、『憑依者』全てが悪なわけじゃないから本人の意思次第ですけれど。」
彩音ちゃんがそう言ったので、みんなが頷く。
確かに、モモちゃんもネガティブな部分はあったけれど『悪』ではなかったもんね。何よりも家に入れたわけだし。
「とりあえずそれしかなさそうだな…。」
殺されそうになったけれど、神様の『弟』がこうちゃんに手出しできない事と、神様より力が弱いことが救いである。
そういえばあの真っ黒い空間に入れられてからどうなったんだろうか…。
また会う事がないことを切に祈る。
そんなことを話していると、執事のスティーブンさんがドアを焦った様子でドアをノックしてきた。
「旦那様!大変です!今入室しても良いでしょうか!」
「ああ、大丈夫だ。」
ケネスさんがそう言った瞬間慌てて入って来た。
「バルガン辺境伯領とムーンヴァレー領の間の森で、魔物が大量発生しました…!!」
ケネスさんが目を見開く。
「…スタンピートか!!
至急ライゼンに連絡してバルガン辺境伯領と連携して、討伐隊を派遣せよ!シリウスとアヤネ殿も同行を頼む!!私とニーナとダイアナは何か問題があった時のためにここに残る。…公爵家をさすがにも抜けの空にする訳にはいかんからな…。」
そう言って皆が準備にバタバタと動き出した。
「あのー…。」
私はおずおずと手をあげる。
「どうした?エーコ殿。」
「もし良かったら私達家族も行きましょうか?丁度レベルを上げなければいけなかったので。
それに、車を使えるので早く行けるんじゃないですか?」
そう言うと、ケネスさんは驚いたような顔をした。
「…そこまでしてもらっていいのか?」
「はい、いいですよ!場所の詳細を教えてください。」
その言葉にダイアナさんとケネスさん破顔した。
「礼を言う!!戻って来たら褒賞を出そう!」
ということで、私達家族とシリウス君と彩音ちゃんは急いで旅立つことになった。
午後16時。
目的地はここから170キロ程の場所である。周りに宿屋はないが、アイテムボックスに自宅を入れておけばいいから大丈夫!!
「「今日は宜しくお願いします!」」
シリウス君と彩音ちゃんは2人で礼儀正しく頭を下げる。
「こちらこそ宜しくね!それじゃあ2人とも乗って乗ってー!!!」
5人で車に乗っていざスタンピートの起きている森へ!
◇◇
バリバリバリバリィ!!
日が落ちてモンスターが多くなってもなんのその。
気持ちいいほど車が弾いてくれる。
「すっごいこの車!」
彩音ちゃんとシリウス君は最初は驚いていたものの、だんだんスッキリして来たのかテンションが上がっている。
今日だけでモンスターを30匹は倒した。(車が。)
「気持ちいいー!急激にレベルが上がっているのを感じます!」
「これはいいですね!」
こうちゃんも彩音ちゃんが隣にいるからご機嫌だ。
5人で『オフィシャル髭ダンス』を聴きながらノリノリでドライブする。シリウス君も『こういう音楽は初めてですがいいですね!!』と気に入ったようだ。
「さあて!今日はそろそろ晩御飯にするよー!」
今日の晩ご飯はバーベキューだ。
この前のレッドオークのお肉がまだたんまりあるからね。
家をアイテムボックスから出して、庭にキャンプ用の椅子と机を出して、バーベキューコンロでスペアリブと野菜、シーフードを焼く。
隣のカセットコンロでは庭のバジルで作ったジェノベーゼソースでエビのジェノベーゼパスタを作る。
おつまみにチーズとちょっといいポテチも用意した。
「「「「「頂きまーす!!!!」」」」」
「まさか、魔物討伐の旅でこのクオリティのご飯を食べられると思いませんでした。」
シリウス君はそう言って嬉しそうにパスタを頬張る。
祥志と私はこの後も運転するのでノンアルコールビールだ。彩音ちゃんとシリウス君とこうちゃんはオレンジジュースで乾杯する。
うん。ジェノベーゼソースとプリプリのエビのご馳走感が凄い!パスタは平打ちの生パスタにしたのだけど、お店っぽくて贅沢な気分になる。
「はぁー。最高!」
だだっ広い大地に浮かぶ星空がとても綺麗だ。
この後、結構大変だと思うから英気を養っておかなきゃね。
庭でお肉を焼きながら歓談していたら、塀の周りがめちゃくちゃバチバチいって、大型のモンスターがどんどん集まってきていた。
食べ終わってそろそろ出発しようかとみんなで外に出た時に山盛りのモンスターの死体にみんなで目をひん剥いた。
まあ、持って帰って公爵家の財産にしてもらおう…。




