【58】神様降臨と大穴の秘密。
「くっ…!!!」
突然現れた神様の力で押さえつけられているのか、黒服の男性は動くことが出来ない。
「この男は僕の双子の弟です。と言っても、僕の『コピー』なので、正確には『半神』ですね。ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。
…■◇∮℃〻〓∂∋△!!!!」
神様が何か呟いた瞬間、『弟』は突如現れた黒い穴に飲み込まれてしまった。
「…あの!!!」
私が呼び止めると神様は『どうしました?』と言いながら振り向いた。
「こうちゃんがあの人を『作った』ってどういうことですか?!私、生まれてからこうちゃんと殆ど一緒に過ごしているんですけど、覚えが全然なくて…。」
そういうと神様は長い溜息をついた。
「そうですよね。メールの回答にもなると思うので、お邪魔してもいいですか?」
◇◇
私はコーヒーだけ出すと、急いで銀座の人通りの少ない路地に転移した。
『キルフェ•ボンバー』で季節のフルーツタルトを買う為である。
幸いこの日は空いており、すぐに買う事ができた。
ああ、本当は今日神様がいらっしゃるんだったらもっと部屋も掃除しておけば良かった…!!!!
「どうぞ、お召し上がり下さい。」
「おお、これはあの人気店の!!ありがとうございます!」
あ、神様のテンションが上がった。良かった良かった。
神様が選んだのはブランド苺がこれでもかとのった三種の苺のタルトである。
私は紅まどんなのタルト、こうちゃんは色んなフルーツののったタルト、祥志はシャインマスカットのタルトを選んだ。
「「「「美味しいー!!!!」」」」
ああ、幸せである。自分でもタルトはよく作るけれど、プロの、しかも有名店のお菓子はやっぱり格別である。こんな味に作れるようになったら凄いなぁ…。
むむ、これは洋酒の違いなのか。カスタードの風味が全然違う…。これはもしや生クリームとカスタードを混ぜたディプロマットクリームでは。
「あ、それで、晃志君が『弟』を作ったって話ですけどね。何日か前、2万年程前に行った時、丁度大穴があったじゃないですか。この場所に。」
そう言いながら神様は美味しそうに苺を頬張った。
「ああ!あの大穴!あれって何だったんですか?」
「あれは、異世界が今ある場所と、この世界の間に生まれた『狭間』ですよ。
あの穴に石を投げたら消えちゃいましたよね?当たり前です。元々異世界があった場所はあの時点で『無』だったんですから。あそこには文字通り何もなかったんです。」
(うわー!!やっぱりヤバいものだった!!)
「え…でも、こうちゃんが地面を『コピー』して埋めちゃいましたよね?」
確か、誇らしげに『同じの』作ったって言ってたはず。
「晃志君が『コピー』したのは地面なんかじゃないですよ。この世界です。」
(…は?)
思わず祥志と一緒にこうちゃんをマジマジと見てしまった。
本人は無自覚で夢中でフルーツをほじっている。
「「え、ええええええええ?!」」
「その時、世界と一緒に僕の事も一緒にコピーしちゃったんですよ…。だから晃志君がめちゃくちゃ疲れた上に『スキル』がなくなったんです。
無邪気に『神』の領域に足を突っ込んでしまったから。
でも、もうちょっと休めば元気にまた動き回ってると思いますけどね。」
あの瞬間そんなに大層なことをしてたとは思いもしなかったよ…。
「ああ、こうちゃんが神様をコピーしたから、あの人が生まれたってことか。
だから『弟』さんを『作った』ってことですか。」
祥志が納得がいったように呟いた。
「あの、神様って異世界をこうちゃんが作ったのって元々ご存知だったんですか?」
私が聞くと、神様は首を横に振った。
「いやー、二万年前は僕も赤ん坊でしたしね。さすがに知らなかったですよ?
でも、自分の力を与えた存在を追う事は出来るから、栄子さんと晃志君のことはモニターで見ていたんです。だから、貴方達が大穴に行った日にこの事を知った感じですかね。さすがにビックリしました。
こちらに転移したばかりの時、テレビで見たでしょう?ある日突然世界が双子のように2つになったって。
結果的には晃志君の仕業だった訳です。」
なんだか壮大な話になりすぎて頭がパンクしそうである。
「…『弟』さんが、憑依者を異世界に送り込んでるのは何故ですか?」
「あー、『弟』はね。『半神』だから僕程の力を持っていないんですよね。
こちらの世界に住む人間の魂を自分の管理下で異世界に置くことで力を得る事が出来るのです。
でも、せっかく来てもらったのに『帰りたい』って言われて、抜け道を探されたら困るでしょう?
だから、『憑依者』の人が好むような世界になるように少々小細工しているのです。
それが『恋剣』っていうゲームの世界に酷似していた理由ですかね、
ファンがいっぱいいるゲームの世界なんて打って付けじゃないですか。
…でも、『弟』はさすがにやり過ぎました。
だって、生きてる人間なのに、無理矢理意のままに動かし続けるなんて不可能ですからね。
綻びだって大分生まれていたみたいだし。別の方法を考えた方がいいでしょうね。」
そう言って、コーヒーを飲み干したのだった。




