【56】居酒屋ご飯でぶっちゃけトーク
あのあと、すぐにニーナちゃんと彩音ちゃんは公爵家に帰ったので夕飯の準備をする。
今日の夕飯は居酒屋飯だ。じゃがバターと枝豆と、焼き鳥と焼きおにぎり、そして冷奴を作る。
まずはおにぎりを握って乾かしておく。そうしないと、フライパンで焼いた時に崩れてしまうのだ。
あとはネギ、玉ねぎを切って、鶏肉、砂肝を一口大に切り串打ちする。
次に、ジャガイモを濡れたキッチンペーパーで包み、さらにサランラップで包んでおく。冷奴は切るだけだ。
枝豆は今回は冷凍のものを流水解凍する。下拵えが終わった頃モモちゃんがお風呂から上がってきた。
「お風呂、ありがとうございました…。なんだか家に帰ってきたみたいで嬉しかったです。」
「良かった。ここにお茶があるから飲んでね。」
こうちゃんを起こして2人で今度はお風呂に入る。無理矢理起こしたから結構泣かれてしまった。
「ただいまー!ん?お客さん?」
あ、祥志が帰ってきた。
「おかえりー!この子、モモちゃんて言うの。今日ちょっとうちに泊まるから。」
私がそう言うと、慌ててモモちゃんが頭を下げた。
「…新條 桃花です。一晩お世話になります。」
◇◇
「「「「頂きまーす。」」」」
うん!やっぱり自分で串打ちすると美味しいー。ネギや玉ねぎもジューシーに焼けるようにグリルで焼くときに表面に刷毛で薄く油を塗っている。
ビールがよく合うね!
「ほら、モモちゃん、いっぱい食べてね。」
追加で出した焼鳥を取皿に置いてあげた。
「…ありがとうございます。」
「焼鳥うめぇー。しかし、モモちゃん、まさか違う身体で、寝ている自分に会いに行くことになるとはねー。ビックリ体験だね。」
祥志が焼鳥に齧り付きながらモモちゃんに言う。
「…そうですね。」
あのあと一樹君が守秘義務がある中で、面会許可を取ってくれた。なんとか上手く言ってくれたらしい。
やっぱり例の植物状態のモモちゃんが新條桃花ちゃんだった。
明日、時間は何時でもいいから病院に来てほしいとのことだ。
こうちゃんも『美味しいー!』と言って焼鳥を食べてくれている。
良かった、食欲はあるみたいだ。
こうちゃんを寝かしつけたあとは三人で酒盛りだ。もちろんモモちゃんはジュースだけど。
今日はおつまみにチーズと柿の種と漬物を用意した。
「…私なんかが戻っても喜ぶ人なんているんでしょうか。」
ポツリとモモちゃんが呟いた。
「え?!いっぱいいるに決まってるじゃん。親でしょ、いたら兄弟でしょ、病院の先生だって心配してるし、友達だって…。」
祥志が諭すように言う。
「…私、全然可愛くないから親にせめて勉強くらいはって言われてそればっかりしてきたんです。それに、弟だってもっと美人な姉ちゃんが良かったって…。仲のいい友達だって、SNSで繋がってるオタク仲間くらいで…。」
悲しそうな顔をしてモモちゃんが語り出した。
「うーん、まだ会ったことないけどさ、女子高生で若いってだけで色々出来ることもあるしおばさん羨ましいけどな。それに、口では色々言っててもさ、なんだかんだモモちゃんのこと家族は好きなんじゃない?毎日親御さん、お見舞いに来てるみたいだよ。」
私がそう言うとモモちゃんが言葉を詰まらせる。
「私、全然自分に自信がないんです。家族にだって愛されてる自信がなくて。
私、宮野さん本人には言えなかったけど『宮野さんみたいになりたい。私があの子だったら良かったのに』って確かに願ってしまったんです。
そしたら不思議な男の人が現れて、その人にこちらの世界に飛ばされて。
多分私が事故にあった時間と、宮野さんが召喚された時間、同じです…。
本当は私、宮下さんの身体に入る予定だったんじゃないかなって。弾かれちゃったけど。
男の人が言ってました。【アイツ】のせいで弾かれたって。」
あ、多分『強制ログアウト』で弾かれたんだな。
そして、彩音ちゃんの前で気まずそうにしてたのはそういうことだったのね。
しかし、神様をあいつ呼ばわりするなんてその人は何者なのだろう。
それに何の為にこんなことをしているのか謎は深まるばかりなり。
◇◇
飲んでいたワインがプルプルと揺れて、ケネスさんから水鏡魔法で連絡が来たのは夜22時を過ぎた頃だった。
「遅くなってすまない!今やっと王宮から屋敷に着いたところだ。まだ寝てなかっただろうか。」
ああ、また疲れた顔してるな。
「大丈夫ですよー。明日のパートのことなんですけど…。」
「ああ、ニーナに聞いた。大丈夫だ。先週冷凍してくれた料理も手付かずで残っている。明日は給料はちゃんと出すからレベルをゆっくり上げてくれれば良い。あと、憑依者の件も宜しく頼む。来週、もし魔王討伐に行くことになったら改めて教えて欲しい。」
「ありがとうございます!良かったらまた遊びに来て下さい!」
そう言うと、嬉しそうに笑って『ああ。』と、言ってくれた。
◇◇
次の日の朝、私は朝からモモちゃんと一緒に病院に行った。
朝、宅配指定しておいて、どさくさに紛れて漬物石を挟んでおいたのだ。ちょっと不用心だけどね…。
病室に行くと、桃花ちゃんのお母さんらしき人が桃花ちゃんの手を握って泣いていた。
「こんにちは、新條さん。モモちゃんのお友達が面会に来ましたよ。」
一樹君がそういうと、お母さんが涙を浮かべながら、
「まあ!あの子にそんな友達がいたなんて…。」
と言った。
そんなお母さんをモモちゃんは驚いたように見ている。そして、
「あの、娘さんの事好きですか…?」
と恐る恐る聞いていた。
するとお母さんは、目を見開いてこう言った。
「…当たり前じゃない。どうして?」
そう聞いた瞬間、モモちゃんはボロボロと大粒の涙を溢した。
ほら、お母さんにちゃんと愛されてるじゃん。良かったね。
しかしこれがモモちゃんの本体か。可愛くないとか言ってたけど全然可愛いじゃん!
ただ…ただね。
眉毛だけちょっと珍獣ハンターだったよ。。。
私はモモちゃんが元の身体に戻ったら眉毛を整えてあげようと、心に誓ったのだった。




