【間話21】私は貴女になりたい。〜???視点
◇◇???視点
私は中学の頃から、好きな男の子がいた。
クラスで人気者の、佐渡直人君。彼は勉強も出来て、顔も格好良くて、サッカー部のエースで。お父さんが弁護士でお金持ちでお家も大きくて立派らしい。
地味で眼鏡でぽっちゃりだった私は、他の可愛い女の子達のグループのように話しかけたりなんて絶対に出来なかった。自分に自信がなかったから。
家に篭って暗記するのは得意だったから、唯一勉強だけは出来た。
私は人目を避けるようにして、教室の隅でいつも本を読んでいた。
私は、物語の中でだけは、佐渡君みたいな男の子から沢山言い寄られるとても可愛らしい女の子になれた。
教室内で私は浮いていたけれど、物語の世界に入っている時だけは、『ヒロイン』になる事が出来た。
佐渡君は私に全然見向きなんかしなかったけれど、それでも彼を目で追うことをやめる事は出来なかった。
3年生になった私は教室内で他の女子が、
「直人、A高校受けるんだって!」
「マジで!めっちゃ頭いいじゃん!頭が良くて顔が良くて運動神経もいいとかチートか!!!」
と耳障りな声で騒いでいるのを聞いた。
(…貴方達には同じ高校に行くなんて無理でしょうね。でも私は…。)
私の心に仄暗い優越感が生まれた。
そして、私はA高校に合格した。
春休みはその時流行りだった乙女ゲーム『恋する聖剣』にどっぷりハマりつつも、自分磨きに勤しんだ。
眼鏡をコンタクトに変えて、ダイエットもした。ティーン向け雑誌、『POPs!(ぽっぷす)』のメイクコーナーを見ながら慣れない化粧もした。
そして、高校の入学式。
ちょっとは可愛くなれたかな、とソワソワする私の目の前を圧倒的な美貌が通り過ぎていった。
「今の誰?!」
隣を歩いていたクラスの男子が感嘆の声を上げる。
「S中から来た宮野さんだって!中学ん時から有名らしいよ!やべぇ、超可愛い!!」
私は呆然とした。
それは、まるで『恋する聖剣』の中から出てきた『ヒロイン』をそのまま立体化したような美しさだった。
1年7組の宮野 彩音。
私のちっぽけな努力なんてあんな『圧倒的な美』の前では無意味だった。
◇◇
そして2年生になったある日。
校庭の目立たない場所で佐渡君が宮野さんに告白しているのを見てしまった。
「あー…宮野さん。もし良かったら、付き合って欲しいんだけど。」
思わず目が釘付けになる。
(嫌だ!お願い!宮野さん、断って!)
そう願っていたら宮野さんが困惑した顔で、思いがけないことを口にする。
「…えーっと。ごめんなさい、まず誰方ですか?クラスも違うし、話した事ない、ですよね?」
「そ、そうだけど!宮野さん可愛くて有名だしずっと見てて!俺もサッカー部でこう言っちゃなんだけど有名だしさ。お互いメリットもあると思うんだよね。」
直人君がそう言うと、少し考えてからこう言った。
「うーん、つまり、話した事はないけど見た目が好きだと。有名だから何なんですか?アクセサリーか何かと勘違いしてませんか。…そういうのやめた方がいいですよ。
私も人によく見られたい気持ちが強い人間なので、自分磨きはしますけど、最低限私の中身を知ってる人と仲良くなりたいので。だから無理ですね。すみません。」
そう言ってニッコリ美しく笑ってから去っていった。
何それ。
何それなにそれナニソレ。
そんなことは自分が恵まれているから言えるんだ。
この人は私みたいなカースト下位の人間の気持ちなんてわからないんだ。
私のずっと好きだった人に告白されておいて、『そういうの、やめておいた方がいい』って何なんだ。
妬ましい、羨ましい、悔しい。
私は貴女みたいに生まれたかった。貴女みたいに佐渡君に告白されたかった。
貴女みたいに…。
私はいつしか今度は宮野彩音のことを目で追い続けるようになっていた。
自分でも、憧れなのか、執着なのか、嫉妬なのかわからなかった。
◇◇
ある日、学校帰りに宮野彩音を見つけた。
何やらガイドブックのようなものを片手に浮かれた顔をしている。旅行でも行くのだろうか。
「君、あの子みたくなりたいの?」
そう話しかけてきたのはちょっと人間離れした芸能人のように顔の整った知らない男性だった。
「…誰っ!」
警戒して聞き返すと、その男はにっこりと笑った。
「大丈夫。悪いようにはしないよ。前までの『ひろいん』がそろそろ、寿命なんだ。だから君が代わりにやってよ!君には『ひろいん』の素質がある。」
そう言われた瞬間、男は消えて、取り残された私は呆然としていた。
気がつくと宮野彩音は消えていた。
(…?)
プップーーーーーーーー
車のクラクションに私が気づくまであと
3•2•1…
私の意識はそこでプッツリと途切れた。
◇◇
夢を見ていた。
そこには、真っ白な空間を落ちていく宮野彩音がいた。
このまま触れるときっと私は彼女になれる、と何故か『確信』があった。
だから、そっと彼女の頬に触れた瞬間。
バチバチバチィイイイイッ
と何かに弾かれた。
(…どうして。)
どうして?
どうして私は貴女になれないの?
どうして。
どうして、ドウシテ。
◇◇
目覚めると、私は別人になっていた。
鏡を見てギョッとした。
「これ、『恋剣』のヒロインの親友キャラだ…。」
私は春休みにどっぷりハマっていた乙女ゲームのヒロインの親友、『モモ•ブランディア』子爵令嬢になっていた。




