【間話18】因果応報〜クリスピア•カーネル王視点
◇◇クリスピア•カーネル王視点
「小癪なっ…!」
私は高位貴族三家から送られてきた【最終通告書】をグシャっと手の中で握り潰した。
何が独立だ!何が情報開示だ!
全て認めない、聖女を返せ、とすぐに返答をした。それなのに彼奴等はそれを受け入れない。
今の王族の立場は非常に悪かった。経済面でもムーンヴァレー公爵領には勝てず、武力の面でもバルガン辺境伯領に劣る。おまけに騎士団長であるライゼンが抜けてしまったら芋蔓式に優秀な騎士も辞めてしまうであろう。
何よりも【人質】であったレオナがいなくなってしまったのが痛かった。
「くそっ!どこにいる、レオナ…。」
私は腹立ち紛れに席を立ち、王太子のフランクと議会の前に話し合いをする為に部屋を出た。
「…?!」
すると、いつもいるはずの見張りの騎士が見当たらない。王宮内はいつもに比べガランとしており、普段のような活気がなかった。
(…どういうことだ?)
私は嫌な予感に胸騒ぎを覚えながら、フランクの部屋へと急いだ。
◇◇
「ストライキですよ。」
王太子室で、使用人が明らかに少ない事を尋ねると、フランクはため息を吐きながら答えた。
「昨日の夕方からですよ?父上、もしや気づいていなかったんですか?」
そう言ってフランクは憐れむような目で私を見てきた。
「なんだ、その目は!」
「いや、相変わらず鈍いなぁと思って。
まあその鈍さがある意味家族は救ってきたんですけども。この王宮をずっと蝕んできたことに気づいていなかったんですか?」
そう言って再びため息を吐く。一体此奴は何の話をしておるのだ…?
「そんなことより『宝珠』だ!何としてても手に入れなければならん!その為には聖女を忌々しいムーンヴァレー公爵から取り返さなければ…。」
全て言い終わるうちにフランクに遮られる。
「そうやって、『宝珠』で都合の悪い事をこれから先もずっと誤魔化し続けていくのですか、貴方は。」
その非難がましい言い方にイライラとする。
「…お前は何が言いたい!」
「真っ当にはじめから政を行う意欲の無い者を敬う事は出来ぬと言っているのですよ。」
フランクがそう言って、扉を開けた。
「今日の議会は…。いえ、何でもありません。私は、先に行きます。」
一人部屋に取り残された私は呆然とするのだった。
◇◇
議会室の扉を開けた私は仰天した。
「…何故貴様らがここにいる!」
そこには、ムーンヴァレー公爵夫妻、バルガン辺境伯夫妻、ノーリッジ侯爵夫妻がいた。
「王太子殿下にご招待頂きまして。」
ムーンヴァレー公爵が私の方を一瞥して答えた。
「…な!貴様!!父を裏切ったのか!」
私は叫んだ。
「…私だって裏切りたくなかった。しかし、こうしなければならぬ事情が出来たのですよ。」
そう言った息子の顔は疲れ切っていた。
議員達も何処か目が泳いでいる。
その時だった。
「ちょっとー!何で私が会議になんて参加しなくちゃいけないわけ?!」
そう言いながら無理矢理騎士に連れてこられたのは我が妻であり、王妃でもあるリリスだった。
「では、映像を流して下さい。」
宰相であるノーリッジ侯爵が合図をした次の瞬間。
部屋中に映し出されたのは我が妻のありとあらゆる痴態の数々だった。
「…なっ!!」
私は思わず絶句する。
「ちょ!ちょっと何よこれ!」
そう言ってリリスが叫ぶ。
「王宮内でハラスメントが横行していたのですよ。
ある愚かな者は王妃と関係を持つ事で権力を得た。
そして、何人かの優秀な者は無理矢理関係を迫られ苦しんで去っていった。
今王宮内ではストライキが起きている。沢山の人事の改善を求める署名が集まった。そして、その原因を間接的に作ったのは貴方だ。貴方は一体今まで何を見ていた?クリスピア陛下。
貴方には引退して、静かに余生を送ってもらいたい。」
淡々とムーンヴァレー公爵が告げる。
議会の者は青褪めたまま、誰一人言い返すことができない。何故なら、殆どの者がリリスと関係を持っていた者ばかりだからだ。
「な…。違うのよ、クリスピア、フランク。こんな映像は捏造で…。」
リリスが言い訳をするがフランクが睨み返す。
「もう調べました。捏造ではないことは確認出来ています。それに、もし嘘だったらこんなに署名は集まりません。母上、貴方にも引退して頂きます。」
「い、嫌よ!あんた息子でしょ?!何とかしなさいよ。」
そう叫ぶリリスにフランクがピシャリと言い放つ。
「何とか出来なくなったのは、貴女のせいだ!
…はぁ。もういいです。
…正式にお二人には引退して頂くことになりました。大勢の文官達からの署名と高位貴族三家以上からの申請がありましたからね。
もし、反対であれば、この映像を世間に公表するのも厭わない…ということです。
反対の者は挙手して下さい。」
議会室に静寂が満ちる。
これにより、私の王としての人生はあっけなく終わりを告げることとなった。
私はあまりに突然降りかかってきた出来事に言葉を紡ぎ出さないでいた。
そんな私にフランクは私にしか聞こえない小さな声で呟いた。
「それでも、貴方が母を本気で愛していたのは知っています。王としては不適任でしたが、父親としては優しいところもあった。…同情します。父上。」
そう言って息子は苦しそうに俯いたのだった。




