【45】みんなで引っ越し回転寿司
ジョゼフさんがくれたコロッケを抱えて家に向かって、公爵家の庭を歩いていたら、スマホが鳴った。
あれ?祥志だ。
「もしもし、祥志?」
『おー、栄子。仕事終わった?』
「うん、終わったよ。どした?」
『それがさー。レオナさんが引っ越しの手伝いや、ホテル取ってくれたり色々世話になったから100円じゃない回転寿司を奢ってくれるって言ってて。どうする?』
な、な、なんですとーーーーー!!!!!
「行く!!すぐ用意するわ!」
『おー、じゃあ待ってるわ。現地集合な。』
そう言って電話が切れた。
やったやったー!!お寿司おすしー!!コロッケは明日、祥志とこうちゃんにお昼食べてもらおうっと。
私はコロッケを冷蔵庫にしまうと一目散にlimeでURLが送られてきたお寿司屋さんに向かった。
◇◇
さすがの土曜日、回転寿司屋さんは結構混んでいた。
「栄子さん!こっちよ。」
そう言ってレオナさんが手を振ってくれたのですぐにわかった。
「いやー、なんだか私まですみません。引っ越しは手伝ってないのに。」
勿論ちゃっかりご馳走になりますけどね。
「何言ってるのー。一昨日物凄く色々してくれたじゃない!物件を見つけてくれたのも貴女だしね。今日はお金は気にしないでいっぱい食べてね!」
わー、それならよかった!!遠慮なく食べさせて貰います…!!
「まずは私はこのイクラと中トロと、ずわい蟹を頂くわ。貴方達も食べない?あ、ビールも飲むわよね?」
レオナさんが聞いてくれたのですかさず答える。
「頂きます!!」
「コージは麺類かな?」
今度はこうちゃんにも聞いてくれる。
「うん、うどん食べるー!!」
(…レオナさんって必ず高いものは自分で頼んで、私達に食べるか聞いてくれるんだよね。優しいなぁ。)
思わずじーっと見てしまう。
「ん?どうかした?」
あ、ヤバい。気づかれた。
「いえ、レオナさんて美人だし気遣いできるし、仕事もできて頭もいいと評判ですし。…凄いなぁと思って。
王宮で使用人の方達にもケネス様にもあんなに好かれていたのがここ数日一緒にいるだけ凄く納得できます。」
「やだ、私なんてそんなんじゃないわよ。」
レオナさんが驚いたように否定する。
「いやいや、そうですって。」
思わずツッコんでしまう。
「レオナさん、今の陛下と結婚して19年…でしたっけ?恋愛感情とかなかったんすか?」
祥志が月見サーモンをモグモグしながら聞く。…美味しそう!私も次頼もう。
「いやー、残念ながら陛下とはそういうのは無かったわね。私も持ち上げる気にもならなかったしね。」
レオナさんは中トロを食べて、一瞬幸せそうな顔をしながらも苦笑する。
「好きな人とかはいらっしゃらなかったんですか?だって絶対モテましたよね?!」
綺麗で性格もいいから、絶対モテたはずなんだけどな。
「そんなことないわ。それに幼い頃から婚約者が陛下に決まっていたから、私に手を出そうとする男性もいなかったしね…。」
そう言って寂しそうに笑った。
「じゃあこっちで彼氏作ればいいんじゃないですか?」
祥志が言うと、驚いた顔をしている。
「それは、考えた事がなかったわ…。そうね。考えてみれば私、好きな人っていたことがないのよね。」
え、えええええ!?36年間ですか?!
「そ、それは是非好きな人を作ってみたらどうですか?きっと、楽しいですよ!」
「ええ、そうするわ。それはそうと、今日は遠慮せずに食べてね。」
そう言ってニッコリ笑ってくれた。はうっ。笑顔が眩しい… !
そのあと、大好きなエビやイカ、炙りサバなど目一杯堪能した。
ちなみに、レオナさんはイクラと中トロと、カリフォルニアロールが気に入ったみたいで、全部4皿ずつ食べていた。本当、この細い身体の一体どこに入っているのだろうか…。
◇◇
会計が終わりお礼を言って、大満足で歩いていた時だった。
「あ。そういえば。
レオナさん、ホテルの部屋に忘れ物してましたよね?朝、ホテルの人から連絡があって…。」
忘れ物について言うのを忘れていたことに気づいた。
「…え?!え、…忘れ物って机の上に置いておいたアレかしら?…も、もしかして中身って見たりしたかしら。」
あれ…?なんかめちゃくちゃ目が泳いでいる。
「いえ、見てないですよー。でも保管方法がわからなかったんで、ケネスさんに聞いたら預かるっていわれてしま…」
「い゛ゃあアアアア!!!」
レオナさんが急に雄叫びを上げて、膝から崩れ落ちた。
「え?!どうかしました?!」
咄嗟に背中を支えると、青ざめた顔でプルプル震えている。こんなレオナさんは初めてだ。
「も、もう終わりだわ!!ど、ど、ど、どうしましょう?!」
ええええ、一体何があったんだ?
さすがにこのまま放っては帰れないよな…。
「…大丈夫ですか?祥志ー!レオナさんの具合が悪そうだから、ちょっとこうちゃんと先に帰ってて!」
「了解ー!レオナさん、お大事にして下さいね。」
そう言って心配そうな顔をした後、祥志はこうちゃんを抱っこして先に帰っていった。
「歩けます…?ちょっとそこのお店で休みましょうか。」
こうして私はレオナさんと二人で丁度近くにあった昭和レトロな喫茶店に入っていったのだった。




