【35】メタルスライム群生地とチートな車
ブーーーーン
出発から40分後。私は快適に車で王宮に向かっていた。もう少しで80キロ!
速いはやーい!ひゃっほう。
わざと人のいそうな道は避けているのだけど、この分だと早めに着きそうである。
一ヶ月程前に実家から貰ったちょっとお高い豆で淹れた珈琲を水筒からグビリと飲む。順調で何よりだ。
(わー、あの川めっちゃ綺麗!虹がかかってる!)
お天気にも恵まれて、ドライブ日和である。
ぐにゅ。
(うん?)
あれ。なんか踏んだかも。
まあいっか。
…!!!?
何ということでしょう。道には大量の銀色のゼリーのような物体がネバネバ這いずり回っている。
もしかして巷で有名なスライムかしら?
急に避けると危ないし、なんだかネバネバしているだけで生き物っぽくないので、このまま無視して進む事にした。
ブーーーーン
ぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅグシャッ
おう…気持ち悪い。なんだか柔らかいゴムを踏んでいるようだ。
結局スライム群生地は一キロほど続いた。何故かフロントガラスに取り憑いたスライムは
バリバリバリバリ!
と言って勝手に焦げて落ちていった。
あれ?もしかして家のセキュリティ、車にも効いてるのだろうか?
もしそうだとしたら、ルーナ村の近くの森にいたシルバーベア程度なら車で最悪体当たりしたら、倒せそうだ。それは、めちゃくちゃ有難い。
(良かったーー。)
ちょっと強気になった私は『オフィシャル髭ダンス』のCDを聴きながらご機嫌で野原をかっ飛ばした。
ついでに車ごと出現してきたモンスターを無視してぶっ飛ばしていった。
鹿くらいでっかいモンスターも、レッドオークも、ゴブリンも
『グギャアアア!』
と出てきた瞬間、勝手に車に当たって屍になっていった。あばよ!
そして120キロくらい走って気づいた。
(なんかめっちゃいい栄養ドリンク飲んだみたいに体調がいいかも!!)
アドレナリンが最高潮である。
テンションが上がってきたので、CDも『オフィシャル髭ダンス』から『マキシマムザミックスホルモン』に変えて、左右確認できる程度に抑えてヘドバンする。
イエーーーーーーーーイ!!!
◇◇
結局、9時半くらいには待ち合わせ場所についた。
なんだろう、結構な速度で走ってモンスターをぶっ飛ばしていたら、凄いスッキリした。
ここにケネスさんのご友人、宰相のアルバートさんの部下が迎えにきてくれるそうだ。
目立たなそうな場所だったので、一旦アイテムボックスから家を出して、車を車庫に戻した。
さて、そろそろトイレにでもいっとこうかな。
玄関が閉まってしまうと、日本の住宅街に戻ってしまうので、漬物石を挟んでしまらないようにする。
「まんまー!!!」
家に入ったら、こうちゃんが走ってきて抱きついてきた。
「おー、栄子お疲れー!もう着いたんか?」
祥志に聞かれたので、頷いておいた。
まだ9時半だったので、時間があったのでみんなでこの前焼いたクッキーを食べながら団欒した。
私と祥志は珈琲、こうちゃんはレモネードである。
ちなみにこのレモネードは私の手作りだ。砂糖40gを50mlの水に溶かしてシロップを作り、レモン二個分を皮を剥いてミキサーにかけて裏漉ししたものと合わせて水で割って完成である。
とても簡単で美味しいので我が家ではよく作っている。
「いやー、めっちゃモンスター出たんだけど、避けるのめんどいからそのまま轢いていったら勝手にぶっ飛んでったさ。どうやら車にもセキュリティ効いてるっぽい。」
私がそう報告すると、祥志がワクワクしている。
「マジで?じゃあめっちゃ安全にドライブ出来るじゃん。いーなー。今度の土日3人で栄子の仕事がない時間ドライブしようぜ。」
「心無しか体調もよくなった気がするんだよね。」
そう言うと、祥志が、
「もしかして、レベルとか上がったんじゃね?ちょっと鑑定してみるわ。よいしょ。」
と言って、グングルピクチャーで鑑定してくれた。
パシャ。
スマホ見た祥志が一瞬固まった。
「……ゴリラじゃん。」
(は?)
そう言いながら祥志が見せてきたスマホの画面を見て私も固まってしまった。
『立花 栄子(34)Lv82
日本の子育て中のよく食べる主婦。料理とDIYと旅行が好き。よくズレた妄想をしている。好きな食べ物はタイ料理。属性は白。
【スキル】送信•受信•転送』
あれ?この前鑑定してもらった時、レベル15とかだったよね?
…でも、確かにメタルっぽいスライムもいっぱい轢いたし、60匹くらいモンスターぶっ飛ばしたような気がしないでもない。
レベル82って、一体何がどれだけ強くなったんだろう?攻撃力とか鑑定結果に出ないからちょっとわかんないな。
10時20分になった。
家から出て、アイテムボックスに収納したら、丁度レッドオークが1匹見えた。
なんと迎えっぽい馬車に向かって突進している。
今までは怖かったのに、何故か全く怖く感じない。
私は追いかけていってレッドオークのお尻を力一杯蹴り上げた。何これ!身体が軽い!
ポーン!!!
まるでサッカーボールのように牛サイズの大きなレッドオークは飛んでいってしまった。そのままピクピクして動かなくなった。
「…え。」
え、えええええええ?!
私、めっちゃ強くなってない?




