【26】行方不明者、発見しちゃいました。
お食事会が終わったとのことで、侍女のクララさんがジョセフさんと私を呼びに来てくれた。
ダイニングへ行って、お客様の目の前に一緒に並び立つ。
「紹介しよう。本日のメインシェフのタチバナ氏だ。」
(ぎゃー。メインシェフだなんて、なんだか照れちゃう!ケネスさん持ち上げ上手だな。)
なんて思いながら顔を上げる。
第二王子殿下は金髪に碧い瞳のイケメンで、聖女様は黒髪でめちゃくちゃ綺麗な顔立ちの美少女で…。
ん?ていうか、聖女様見たことあるような。や、会ったことがあるぞ?いや、でも、まさか、そんな他人の空似なんて言うことは…。
思わずガン見してしまう。
「紹介しよう。こちらはマティアス第二王子と聖女アヤネ•ミヤノ様だ。」
そう言われた瞬間、思わずカッと目を見開いてしまった。
「…アヤネ、ミヤノ?!」
(やっぱり!)
思わず変な声が出た。
なんと言うことでしょう。
3ヶ月前から行方不明になってる宮野さんのところの彩音ちゃん!まさかの異世界で見つけましたよ。
SNSで某国に拉致られたんじゃ、なんて言ってる人もいたけれど異世界召喚されていたとは…。あながち遠くはなかったね…。
頭の中で高速で考える。
彩音ちゃんの隣には王子がいる。『彩音ちゃーん!元の世界で近所に住んでた立花のオバチャンだよー!』なんてここで言ったもんなら私も家族も王宮に連行されるのは待ったなし。だから言わないほうがいい。
でも、向こうは聖女様、対して私はただの週末パートシェフ。『聖女様ー。ちょっと二人でお話ししたいんですけど…』なんて怪しすぎる。ケネスさんは事情を話してるからともかく、王子様を怒らせてしまうかも。
ここは、ごまかして普通に対応しよう。
「…失礼しました。お二人とも今日のお食事はいかがでしたか?」
すると、まずは王子の方が先に答えてくれた。
「うむ、とても美味かった。また食べにきてやっても良い。」
おお。王子様はツンデレキャラですか。
「そうですか。それは良かった。聖女様はいかがでしたか?」
変なことは言えないんだけどどうにかして話せないかなー…。
カレー屋で会った彩音ちゃんのお兄さんの一樹君。あの時真っ白い顔で具合が悪そうだった。どうにかして家族と会わせてあげたいんだけどな。
彩音ちゃんの方から私と話したいなんて言ってくれたりは…。
「あの、とても美味しかったです。その、公爵様、出来たらご挨拶だけではなくタチバナさんとお話する時間も頂けませんか?」
来たーーーーーーー!!!
コック帽とマスクで私が立花のオバチャンとは気付いてないみたいだけど、どうやら日本人だというのは気づいてくれたっぽい。
ケネスさんがこっちを向いたのでめっちゃカクカク頷いておいた。
「シェフの方は問題ないそうだ。我が家としても問題ない。ただ、もしかしたら話が長引く可能性があるな…。マティアス殿下。今日は聖女様に我が家にお泊まり頂いても宜しいですか?」
ケネスさんが王子に彩音ちゃんのお泊まりを提案する。
「で、では私も今日はここに…。」
ツンデレ王子様も泊まりたそうにしたけれど、やんわりとケネスさんに断られた。
「いいんですか?殿下は陛下に報告することが沢山ありますよね?」
ううん?何を報告するんだろう。そう言われた瞬間、王子様の顔色が悪くなった。
「わ、わかった。今日は私一人で帰らせてもらう。…それでは、公爵。今日は招待頂き礼を言う。おい!帰るぞ。」
そう言って、護衛の方二人と次女を引き連れて出ていってしまった。
パタン。
ドアが閉まると同時にケネスさんが彩音ちゃんに確認する。
「あー、二人になれる部屋を用意した方がいいだろうか。」
すると、彩音ちゃんは少し考えた後に、こう言った。
「いいえ。今日お話していて公爵家の方達なら信用できると思いました。公爵家の方と、タチバナさんだけこの部屋に残って頂いても良いですか?」
「わかった。では、使用人の皆は、申し訳ないが退出して貰えるだろうか。」
ケネスさんが合図をすると、クララさんやジョセフさん、執事のスティーブンさんが一礼をして退出していった。
キイイイイン
ケネスさんが防音の結界を張ったのを確認して私はコック帽とマスクを外した。
「あ…。」
彩音ちゃんが目を見開く。
「彩音ちゃん、わかる?日本で近所に住んでた立花栄子だよ。息子の晃志と町内会のお祭りで遊んでもらったんだけど、覚えてないかな?」
「…た、立花さん!!?
嘘、なんで。
覚えて、ます、…晃志くん、可愛かったから。でも、どうして?立花さんの奥さんもまさかいきなり召喚されてしまったんですか?こうちゃん、あんなに小さいのに!家族とは引き離されてしまったんですか?」
彩音ちゃんが涙声になる。ヨシヨシと撫でてあげると、ずっと堪えていたのか泣き出してしまった。
ニーナちゃん(勝手に心の中でちゃん付け)が心配そうに背中をさすっている。
「なんと!二人は元の世界で知り合いだったのか!もしかしたら同じ世界から来た可能性はあると思っていたのだが…。」
ケネスさんがめちゃくちゃ驚いている。
「ケネス様、えーっと、彩音ちゃんに、私の家のことを話してしまってもいいですか?その、彼女の家族も私の知り合いで。すごい心配してるんですよ。」
私がそう言うと、彩音ちゃんがキョトンとしている。
「家…?」
ケネスさんが暫く考え込んだ後こう言ってくれた。
「まぁ、仕方ないのだろうな。聖女殿にとってはいきなり拉致をされたようなものなのだもんな。」
よし。お許しが出たから話そう。
「私はね、なんと家ごとこの世界に転移してきたの。だから家族も一緒だよ。最初家はルーナ村の近くの森に転移してきたんだ。でも、今は公爵家の庭に家を置かせて貰っているの。」
私が言うと、ダイアナさんが頷いた。
「ええ。それは庭に家を置く時にケネスから聞いているわ。アイテムボックスで家を持ってきた聞いて、随分容量が大きいのねって思ったのだけど。でも、その家が何か?」
「実は、私達家族は家を通して、こちらの世界と元の世界を行き来する事が出来るのです。」
ダイニングに緊張が走る。
「え、そ、それじゃあ…。」
「うん、明日。私達と一緒なら元の世界に戻れるよ、彩音ちゃん。戻ろうと、思えばだけど。」




