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【間話10】久しぶりの和食〜聖女アヤネ視点


◇◇聖女アヤネ視点


 執事のスティーブンさんに呼ばれて、ニーナと私はダイニングへ移動した。


 既にムーンヴァレー公爵とダイアナ様と弟のシリウス様、そしてマティアス殿下が席に着いていた。


 …何だか殿下の顔が疲れているように見えるけれど、きっと気のせいだろう。


◇◇


 ムーンヴァレー公爵が乾杯の挨拶をしたあと、和やかに食事が始まった。


 この世界のご飯は美味しくない。基本、塩味しかないのだ。公爵家といえど王宮と同じようなものなんだろうな、と思っていたのだけど。


「?!」

最初に出てきた『旬野菜のジュレ寄せ』にはなんとコンソメが使われていたのだ。


 そういえば、ゼラチンで固められた料理ってこの世界にきて初めてかもしれない。


 公爵一家はもちろん、マティアス王子まで見た目の美しさと味に度肝を抜かれていた。特にニーナとダイアナ様は気に入っていた。


 そして、2品目は『サーモンとイクラのカルパッチョ』。


 なんと生のサーモンが使われている。それにイクラもこの世界に来て初めてだ。

「…!美味しい。」

サーモンは脂が乗っていて口の中でとろける食感だし、ビネガーやレモンで風味付けされている。

 まるで、お母さんの誕生日で食べたイタリアンの前菜のようだ。


 そして、3品目は『海鮮茶碗蒸し』だった。

(…茶碗蒸し?!)

そう、和食だったのだ。出汁の効いた茶碗蒸しの上にはカニのむき身といくらが載っていた。

(え、え、シェフは異世界の人、なんだよね?)


 そして、4品目の天ぷらの盛り合わせ。

「この野菜は初めて食べるな。だがとてもうまい。」

とマティアス様が言っているのを見てハッとした。椎茸、しそ、オクラ、ししとう、カボチャ。この世界では見たことのない野菜ばかりだ。そして、天つゆにはなんとお醤油とみりんが使われている。


(…もしかして、私の他にも日本から召喚された人がいるの?)


 そのあと出てきた角煮も牛のタタキもめちゃくちゃ美味しかった。男性陣が特に気に入っていたようだ。

 公爵が角煮を食べた時、あまりの美味しさによく分からない雄叫びを上げてダイアナ様に怒られていた。


 ご飯もので出てきたウニと生クリームのパスタもウニがとても新鮮で美味しかったけれど、焼き鯖の棒鮨を食べた時は久しぶりのお寿司に少し涙が出そうになった。


 とろとろ餡掛けの湯葉ご飯も蛤のお吸い物も出汁が効いていて上品な味だった。


 家族で栃木の日光の旅館で食べた湯葉の味と似ていた。湯葉ご飯の上にはアクセントにワサビが乗っていて、それもとても美味しかった。


 間違いなく、今日食べたものがこの世界で食べたものの中で一番美味しかった。


(美味しいものって本当に心が元気になるんだな。)


 皆がとても嬉しそうである。


 マティアス王子がこのような料理を作る料理人は今までいなかった、もし知っていたら王家で雇っていたのに、と悔しそうに言っていた。


 そして、この頃には私は確信していた。

(このシェフの人、絶対日本人だ!)


 そして、デザートには久しぶりにケーキが3種類も出てきたのだ。久しぶりの甘さに幸せな気分になる。

 中でもニーナではなくシリウス様が一番喜んでいたのが意外だった。


「公爵様、あの!!この料理を作った人に会わせて頂きたいです!」


意を決して私が言うと公爵は優しく微笑んで了承してくれた。


「勿論です。はじめから食事が終わったら呼ぶつもりでした。」


ダイアナ様が側にいた侍女のクララさんに目配せするとキッチンの方にシェフを呼びに行ってくれた。



◇◇


 そして、黒髪の女の人とぽっちゃりした男の人が食事をしていた私達の前に並んだ。


 顔はマスクとコック帽でよく見えないけれど…なんだか女の人の方がジッと私を見ている。


「紹介しましょう。本日のメインシェフのタチバナ氏だ。」


(タチバナ…。やっぱり日本人だ!)

私のテンションが一気に上がる。


 …そういえばご近所にも立花さんっていたな。確か一歳の息子の晃志君がすっごく可愛かった。なんだか目の前の女性もどことなく立花さんの奥さんの雰囲気に似ている気がする。


「紹介しよう。こちらはマティアス第二王子と聖女アヤネ•ミヤノ殿だ。」


そう言われた瞬間、タチバナさんがカッと目を見開いて、

「…アヤネ、ミヤノ?!」

と変な声を出した。


(…?)


しかし何事もなかったかのようにタチバナさんが続けた。

「…失礼しました。お二人とも今日のお食事はいかがでしたか?」


すると、マティアス王子が満足そうに答えた。

「うむ、とても美味かった。また食べにきてやっても良い。」


「そうですか。それは良かった。聖女様はいかがでしたか?」

そう言うとタチバナさんはジッと私を見つめた。


「あの、とても美味しかったです。その、公爵様、出来たらご挨拶だけではなくタチバナさんとお話する時間も頂けませんか?」


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