【間話9】詰問〜第二王子マティアス視点
◇◇第二王子マティアス視点
公爵家に着くと私はアヤネと引き離され、公爵家の応接室に通された。
な、何故だ。ここは、アヤネとニーナが私を巡り争うところだろう!
しかも何故ニーナはアヤネを歓迎しているのだ。意味がわからない…。
顔見知りの執事が紅茶を運んできて、退出したところで公爵が切り出した。
「さて。マティアス様。単刀直入にお伺いします。
我が娘、ニーナと婚約しているにも関わらず聖女様に懸想しているともっぱら評判になっておりますが。殿下のご意見をお伺いしていいですか?」
笑顔だが、目が笑っていない。
「ムーンヴァレー公爵。この度はお招き頂き感謝する。
えー、噂は噂だ。ある子爵令嬢が私とアヤネがお似合いだと言い出したのが始まりのようだが、私は関与していないのだ。全く、困ったものだ。」
すると、公爵夫人が溜息をつく。
「しかし、聖女様はきっちりと噂を否定したそうですが、殿下は満更じゃなさそうに噂を放置したそうですわね。どうしてですか?」
それを今言うことは出来ない。さすがに万が一アヤネが私の伴侶にならなかった場合の保険に公爵家に婿入り出来る可能性を捨てたくはないからな。
「…そ、それはだな。すまん、少し忙しく疎かになっただけだ。」
「あれ、そうでしたっけ?
アヤネ様にあげるアクセサリーを頻繁に街まで買いに行ってましたよね。まあ、丁寧にお返しされてましたけど。僕が予算計上したんで覚えてます。
その場で噂を否定するのは数秒ですが、お忙しいのにアクセサリーを買いに行く時間はあったんですね。」
(シリウス!お前は私の側近だろう!何故私が不利になるようことを言う!)
「そうだったか?記憶にないなぁ。」
…ここは、しらばっくれるのが得策である。
「そうですか。では質問を変えましょう。陛下は特に殿下に対して何もおっしゃられなかったのですか?」
公爵は探るような目でこちらの様子を伺ってくる。
「…父上は王でいらっしゃる。そのような事までいちいち気にはしておられないだろうな。」
「そうですか、つまり、我が公爵家はそこまで軽んじられている、ということですわね。」
公爵夫人が真顔になる。
「な…!そこまでは言っておらんだろう。」
「いえいえ。そんなつもりがなくてもそういうふうにしか見えませんわよね。」
あ。公爵夫人の扇子が燃えた…。怖い。
「僕とカイの婚約者が聖女召喚の前に急に王命で決まったのも何故かすごいモヤっとするんですよね。」
シリウス!お前は引っ込んでいろよ!
「魔王が出現して以降小さな村では被害が徐々に増え始めているのいうのに、陛下は無理矢理学園に通わせてまで聖女様と貴方の接点を増やしている。
シリウス含め側近達は聖女様が『学園に行くくらいなら魔王を早く討伐したい』と懇願するのを陛下が突っぱねているのを目撃している。
王家が聖女様と貴方を意図的にくっつけようとしているように見えるのです。聖女様を取り込みたいのはわかるが、そこまでするのは何故なのかわからない。
殿下。王家は私達臣下に聖女召喚に関して何か隠してはいらっしゃいませんか。」
公爵が一気に捲し立てる。
どう答えるのが良いか判断が付かず、私は俯いたまま黙りこくってしまう。
広い応接室に沈黙が流れる。
「否定をしないということは、何かあるということですね。」
と公爵が呆れたように言った。
「…悪いが少し時間をくれ。王族にだけ今まで語り継がれてきたことを私の口から今ここで話す訳にはいかない。」
「まあ、そうでしょうね。
しかし、私達も馬鹿ではないので、王家に何かを隠されているのは気付いています。
近日中に陛下に謁見させて頂きますが、その時にもし情報を開示していただけない、という事であればそれなりに考えがございます。」
(…公爵は一体何をする気だ?)
しかしいくら権力を持っている家だからと言ってたった一つの貴族家だけで王家に楯突くことは出来まい。
それに、こちらには『人質』がいる。
せいぜい私とニーナの婚約の解消を願うのがやっとのはずだ。




