【25】いよいよ本番〜シェフと出汁のお話
今日は日曜日。
いよいよ『おもてなし食事会』である。
今日は悩んだけど和食と、こちらの人も馴染みのある洋風のお料理を混ぜて出す予定だ。
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『本日のお品書き』
•旬野菜のコンソメジュレ寄せ
•サーモンとイクラのカルパッチョ
•海鮮茶碗蒸し
•天ぷらの盛り合わせ
•トロトロレッドオークの角煮
•A5ランク牛のタタキ〜さっぱり玉ねぎポン酢で
•噴火湾産ウニと濃厚生クリームのパスタ
•焼き鯖の棒鮨
•とろとろ餡掛けの湯葉ご飯
•蛤のお吸い物
•苺とぶどう、2種のヨーグルトムースケーキ
•二層のプリンケーキ
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お刺身を出そうか迷ったけれど、結局カルパッチョにした。目でも楽しめるように、紫玉ねぎ、水菜、トマトの他に食用の花びらも飾り付けた。
刺身が駄目なインバウンドの人も多いので無難な方を取ったのだ。まあ、海外というよりも異世界人だけれどね。
平日に干し椎茸を使った精進出汁、昆布と鰹と煮干しの合わせ出汁、手作りしたコンソメを作ってアイテムボックスに入れてコツコツ料理を作って頑張ったよ。
ちなみに普段家で出汁を作る時は、寝る前に麦茶用の容器に煮干し、鰹節、昆布とお水を入れておくと楽である。
天ぷら等の揚げ物もあるのでメインを牛のタタキにして、ある程度さっぱり食べられるようなメニューを心がけてみた。
アイテムボックスがないと1人でこの量を一気に作るのは厳しかっただろう。
昨日作ったレッドオークの角煮は小鉢に白髪葱とからしを添えて出す。
ちなみに角煮は沢山作ったので家で留守番しているこうちゃんと祥志にランチに食べれるように少し取り分けておいた。
ウニのクリームパスタは市場で売ってる北海道の濃厚な生クリームと噴火湾産ウニを奮発した。ご飯物は鯖の棒鮨と湯葉のあんかけご飯もあるので、一品のボリュームは抑えておいた。
デザートは聖女様がヘルシーなものを希望されていたので、一晩水切りしたヨーグルトで2種類のムースとプリンケーキを作った。砂糖の代わりに羅漢果が原料の甘味料で味付けしている。
プリンのカラメルだけはグラニュー糖じゃないと作れないから使ったけどね。一度三温糖でカラメル作ろうとした時も全然茶色くならなかった。
ケーキって生クリームにカロリーはあるけれど、実はスポンジはそうでもないのだ。ヨーグルトと代用甘味料を使ったお陰でカロリーを大幅に削減できた。
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お客様に出す前にアイテムボックスから出して、公爵家の料理長のジョセフさんに試食して貰い、アドバイスを貰いながら盛り付けする。ちなみに他にもシェフは五人いて、皆さん協力してくれた。
私は普通の主婦だしコース料理は作ったことがないから、めちゃくちゃ参考になった。盛り付け方で全然印象が変わるもんね。
ジョゼフさんは43歳のちょっと小太りの朗らかに笑うおじさんである。いい人そうで良かった…。王都で18年修行されたそうで、調味料が少ないながら、美味しい料理を作れるように苦心してきたそうだ。
これから毎週末厨房をお借りするから仲良くしておきたい。
ジョゼフさんとこの国の料理について色々話したが、やはり調味料が圧倒的に少ない。基本は塩と胡椒で、しかも胡椒はなかなか高価らしい。
しかし、出汁については異世界でもなんとかなりそうだ。
例えば、トンコツはオークの骨で代用出来るし、鶏肉はこちらの世界にもあるので、鶏ガラスープなんかも作れそう。
「いやー、しかし、驚いた。この国ではギルドで解体の時に骨を回収しちまうんだよ。魔物によっては乾燥させて粉末にすりゃ薬になったりするしな。肉しか殆ど出回ってこないから骨から旨みが取れるとは思わなかったわ。タチバナさんの住んでる国の知識はすげぇな。」
ジョセフさんは興味深々で、メモを取りながら質問攻めして来た。
魚もカツオはないものの、色んな種類があるそうなので、燻製して色んな「節」を作ってみたいと意気込んでいた。
日本でもカツオだけでなく鯖節とか沢山あるもんね。良い魚が見つけられたら小麦があるし塩味のうどんくらいは直ぐに作れそうな感じである。
ちなみにラーメンは、重曹が必要なんだよな…。重曹の原料のトロナ鉱石がこの国にあればありかも。
ラーメンの他にベーキングパウダーも出来るし作れる物が大幅に広がりそう。
来週この国の食材だけを使ってこの厨房でうどんを一緒に作る約束をした。
ちなみにお醤油や味噌の作り方はわかるものの、手間がかかる上に常用するものなので全て手作りするのは厳しそうである。
ケネスさんに相談して人を雇って事業化した方がいいという結論になった。トマトやケチャップ、ソース、マヨネーズなんかも一々作ってたらめちゃくちゃ大変である。ゼラチンや重曹も化学的な工程が必要だし、工場がないと厳しいだろうな。
日本なら麺でも調味料でも出来上がった物が売られているから楽だけどイチから作るとなると本当に大変。本当に食品メーカーさんに感謝である。
でも、ジョセフさんのこの熱量ならそもそもプロの方だしモノさえ揃えばあっという間に私より美味しいものを作れそうだ。
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いよいよお客様がいらっしゃったという連絡が厨房まで回って来た。
料理は全部午前中に仕上げをしてアイテムボックスに入れていたし、出すだけである。給仕はクララさんはじめ侍女達がやってくれているのであまりやることもなく。
会食が始まってからはハーブや柑橘での風味付けや、砕いたナッツで食感を出す方法などをシェフの人達と話してめちゃくちゃ盛り上がった。
試しにゴリゴリナッツをすりおろしてニンニクとバジルっぽい青い野菜とオイルと粉チーズと塩を混ぜて異世界野菜でジェノベーゼソースを作ってみた。
うん、美味しく出来た。
大きめの瓶に詰めてプレゼントしたらジョゼフさんが大喜びだった。良かったら使ってくださいな。
即席でシェフの人達とバケットの上にジェノベーゼソースとトマトとモッツァレラっぽいチーズとハムをのせた賄いを作ったら好評だった。
会食が終わったらジョセフさんと2人でお客様にご挨拶させて頂くことになっている。
料理を取りにくる侍女さん達に『すごく好評です!』と満面の笑顔で言われてホッとする。
今頃皆で召し上がっているんだろうな。喜んでくれているといいな。




