【3】たなぴょん来訪〜みんな大好きナポリタン
「•••祥志。この熊、異世界の熊らしい。だから、ここ日本じゃないっぽい。」
ツッコミどころが多すぎるが、ひとまずそれは間違いなさそうである。
というかグングル!なんで異世界でも起動するんだろう?ま、まぁ、電波繋がってるし?
「マジか。。あー、、、今日フリマサイトで大量に買ったナノフィグが午前中に届く予定だったのに。」
え、第一に心配するのがそこ?
ちなみに『ナノフィグ』は、ブロックのオモチャで出来た人形である。
最近祥志は料理人シリーズをあつめている。板前の人形はジョリヒゲのおっさんで、パティシエはソバカスのある女の子の人形だった。
「ここが異世界ならオムツどうしようかな。こうちゃんの。今あるやつなくなったら、最悪布おむつ縫うしかないのかな…。」
布おむつとか。洗濯が凄く面倒くさそう。うわー、やだな…。
まあ、電気ガス水道、電波が通ってるだけマシなのかもしれない。それがどこからどういう仕組みで来ているのかは謎だけど。
それよりも、ここが異世界だとすると、孫を溺愛するじぃじにもバァバにも、こうちゃんを会わせることがもう出来ないのだろうか。
お金やお米はどうしよう。あぁ、なんだか頭が痛くなってきた。
「まんま!アイス!」
あ、こうちゃん…。そうよね、君は状況なんてわかんないし、無視されたら悔しいし、アイス食べたいよね。
「…とりあえず、アイス食べよっか。」
深いことは考えずに3人でハイパーカップをもそもそ食べる。
「おいちい!」
うん、安いのに結構濃厚だし量もたっぷりで業務マーケットで買えばお財布にも優しいんだよ。ちなみにママは定番のバニラが一番好きなんだ。
でも、これも今冷凍庫にあるのが無くなったら、もう食べられなくなるかもしれないんだよな…。
「ピンポーン!」
…え?
今…インターホン鳴った?鳴ったよね?
一体誰…?
庭から見えなかったんだけど。熊は弾かれたしインターホンちゃんと押したってことは人間よね?
今玄関のすぐ近くに熊の死体が転がってるのに何も思わないんだろうか…。
恐る恐るモニターを覗き込む。
「どなたですか?」
「シロネコ運輸です。フリマサイトからのお届け物でーす。」
は?なんですと?
よーく見てみると、いつも郵便物を届けに来てくれるお兄さんが立っていた。
おおお、なんということだ、君も異世界という未知の世界に飛ばされた同志であったか!
急いでドアを開けると、見慣れた段ボールが差し出された。
「サインか印鑑お願いします。」
焦りながらシャチハタを押して紙を渡す時、ふと外を見た。
なんと玄関の向こうにはいつもの住宅街が広がっている。
「ありがとうございまーす!」
あ、待って、閉めないでー!
「ばたん。」
い、今もしかして私、元の世界に戻る絶好の機会を失ったのでは?
◇◇◇◇
箱の中身は祥志の買った『ナノフィグ』だった。無邪気に祥志は喜んでいるが、せっかくの日本に帰るチャンスを逃してしまって私は結構落ち込んだ。
「でもさ、この感じならアマンゾとか、ポジティブ市場とかコープンとか、お買い物サイトで買ったもの普通に届くんじゃない?」
確かに!それならオムツや日用品も心配ない!アプリを開いてオムツを発注すると問題なく発注できた。
「というか、私宅配のお兄さんの後ろ見たらさ。確かに私達が日本で住んでた住宅街だったの!」
「ふーん。郵便普通に届けに来たんだよな?日本では俺たちの家ってどう見えてんだろ。」
「確かに!祥志たなぴょんにさ。お昼ご飯食べにおいでって連絡してみてよ。普通に家に来れたら日本に普通にうちが見えてるってことじゃない?もし誰かが来てくれた時に外に出たら元の世界に帰れるんじゃ…!」
たなぴょんとは近所に住んでいる祥志の同僚の田中さんのことである。独身であまり自炊もしないらしく、ご飯に呼んだらいつも喜んで来てくれる。
「わかった。limeで連絡してみる。」
すぐに返事が来て、30分後に来るとのことだった。
◇◇◇
『ジュー!!』
ウインナーをガーリックバターで炒めるとなんでこんなにいい匂いがするんだろう。
今日のお昼はナポリタン。シンプルに玉ねぎと、ウインナーとピーマンをガーリックバターで炒めて、胡椒とケチャップで味を整えて、目玉焼きをのせたら出来上がりだ。
目玉焼きは個人的には半熟にして、トロッとしたのをパスタに絡ませて食べるのが好きである。
あと、付け合わせに人参のラペとコーンポタージュも作った。こうちゃんの好物なのだ。
たなぴょんが、無事来れるかはわからないけれど、とりあえずいつもより多めに作る。
「ピンポーン!」
ごくり。
「田中でーす。」
た、たなぴょーん!!!!!君が来てくれることをまさかこんなに嬉しいと思う日がくるとは!
祥志がめちゃくちゃ嬉しそうに玄関にすっ飛んでいった。




