【22】公爵邸とりんごのミルクティータルト
「すごいですわぁー!!!なんて速いの!!」
車から身を乗り出してニーナさんが興奮している。護衛のトムスさんも目を丸くしながら流れていく景色を見ている。
あの後、壊れた馬車と馬をアイテムボックスに収納して、2人を車に乗せてあげたのだ。
目的地も一緒だしね。
祥志が運転して私が助手席に座り、こうちゃんは後部座席のチャイルドシート、その横にトムスさんとニーナさんが座っている。
こうちゃんは綺麗なお姉さんが来てくれてめちゃくちゃ嬉しそうである。
「まさかエーコ様が父が仰っていた腕利きのシェフの方だったなんて!こうしてクルマにまで乗せて頂いてとっても助かりましたわー!」
いやー、こちらもお肉に釣られて助けに行きましたが、まさか上司の娘さんだとは思いませんでした。
「ニーナさんは学校帰りですか?」
「はい。帰りに近くの街でお買い物してきたの!明日大事なお客様が来るのです!いつもは侍女ともう1人護衛がいるのですけれど、2人は夫婦で。今日はお子さんが熱を出したとのことで帰ってもらったのですわ。」
あ、大事なお客様って婚約者の王子様のことかな?でも、聖女様もご飯に呼んでるんだよね、、?噂だけとはいえ、2人が並んでいるのを見るのは面白くないのでは。明日修羅場にならなきゃいいけれど。
話している間に公爵家に着いたので、車を停めさせてもらった。
結局午前8時に家を出て、村に寄ったけど午後2時過ぎにはムーンヴァレー公爵邸に着くことが出来た。
公爵邸はお屋敷っていうよりもお城でしょ、という大きさで、思わず圧倒される。
白亜のお屋敷はヨーロッパ調でベースはレンガで出来ている。おそらく白いのは漆喰が塗られているのであろう。
お屋敷の周りにはよく手入れされた庭園が広がっていて、まるでネズミーランドに来たようだ。
◇◇
「タチバナ様、ようこそムーンヴァレー公爵邸へ。ニーナ様、お帰りなさいませ。」
公爵家ではズラッと使用人が並んでお出迎えしてくれた。
お。おう、なんだか、一昔前に流行った「花より肉」という王道少女漫画のセレブ、桜小路先輩のお家が頭に浮かんだ。
規模の大きさに圧倒されて縮こまるチキンなぽっちゃり夫婦とキョトンとしているこうちゃん。
ケネスさんは私達のことをパート従業員ではなく、客人と伝えてくれていたようだ。有難いけどびっくりです…
「ニーナ!無事か?!」
公爵家に着くなりケネスさんが飛び出してきた。今日もキラキラしてますなぁ。
「お父様!大丈夫ですわー。エーコ様達が助けてくれましたの。」
「ああ、トムスから水魔法で連絡が来た。…タチバナ夫妻とコージ!今日は遠い所から遥々、よく来てくれた。ニーナを助けてくれて本当にありがとう。皆の者、丁重にもてなすように。」
使用人の方々が「はい!」と言いながら一斉に頭を下げる。
「あ、あのケネス様、先日お話ししていた通り、ご相談したいことがありまして。何時頃にお時間頂けますか?」
「おお、そうだな。そなた達も疲れているだろうから、1時間後はどうだ。その間、湯浴みでもしてゆっくり休んでほしい。」
おお、有難い!モンスターとなんだかんだ今日は2回も戦ったし汗だくです。
◇◇
私達は高級ホテルのスイートのようなベッドが3つ並んだ客室に通された。
はぁー、サッパリした。侍女の方達がマッサージまでしてくれて、高級そうな果実水まで頂いてしまった。気分はすっかりセレブである。
私には着替えとしてちょっとお高そうなワンピースまで用意してくださっていた。
祥志とこうちゃんも高級そうだけど着心地の良さそうなシャツに黒いズボンを履いている。
コンコン
「入っても良いか?」
ドアの外でケネスさんの声がする。
「「「はーい!」」」
ドアを開けると、先程よりラフな格好をしたケネスさんの姿があった。
「旅の疲れは取れただろうか。」
「はい!素敵な着替えの洋服まで用意して下さりありがとうございます。とても気に入りました。」
しかもこうちゃんの分まで!サイズもぴったりだった。
「それはよかった。あ、お茶の準備が出来たようだ。せっかくだから皆で頂こう。」
ケネスさんが合図すると侍女がガラガラとティーセットを持ってくる。
「あ、でしたら私、お菓子を焼いてきたんですけど。もし宜しければお出ししても構いませんか?」
そう。アイテムボックスに時間停止機能があるので、時間がかかる料理を何品か予め作っておいたのだ。
「な、何?菓子だと?!それはありがたい!クララ、ナイフと皿はあるか?」
あ、ケネスさんのテンションが明らかに上がりましたよ。
「はい、こちらに。」
そう言って侍女のクララさんがお皿を出して下さったのでアイテムボックスから作ってきたお菓子を出す。
「林檎のミルクティータルトです。」
「こ、これは!まるで花のようだな!美しい。」
「林檎は白ワインとレモンと蜂蜜でコンポートにしました。」
あと、カスタードを作る時にティーバッグを入れて、紅茶の風味を付けましたよ。
「早速食べよう!クララ、直ぐに切り分けてくれ!」
ケネスさんはどうやら甘党のようだ。




