【19】森とモンスターと初めての冒険者ギルド〜出発の朝ごはん
スキルを理解したり魔導書を読んだり、食材を買い出したりしているうちにあっという間に土曜日になった。
食材費はケネスさんが出してくれると言っていたので、市場で良いものを仕入れてきた。
奮発して噴火湾産の塩水ウニやイクラ、A5ランクの牛肉やブランド苺も買ってきちゃいましたよ。
冷蔵庫の中がパンパンである。
断乳してお酒を飲めるようになったけれど、今日はモンスターと戦うかもしれないので念の為昨日の夜は飲むのはやめておいた。
今日は長丁場なのでしっかりと朝食を頂く。
メニューは大根ときゅうりのお漬物と塩鮭、なめことお豆腐のお味噌汁とご飯と目玉焼きである。
まずはお味噌汁を作った後、コンロで丁寧に鮭を焼く。
目玉焼きは脂を引いて蓋をして黄身が少しでも白くなったら直ぐ火を止める。半熟トロトロの目玉焼きが好きなので。
「「「頂きまーす。」」」
あー、やっぱり朝のお味噌汁はホッとする。鮭もチリ産だが普通に脂が乗っていて美味しい。
こうちゃんはなめこが好きなのでお味噌汁をおかわりしていたよ。
こっちで外に出るのは初めてだから怖いけれど頑張ろう。
◇◇
さて、アイテムボックスで土地ごと家を回収していよいよ出発である。おお、本当に家が土地ごとスゥッと指輪に入った!圧巻である。
トレッキングシューズを履いて、帽子を被って、ウインドブレーカーを着て、熊よけの鈴をつけて。軍手をはいてリュックを背負って、探索スタイルの完成である。念の為にアマンゾで買ったスタンガンとお鍋の蓋と、ハンマーと鎌も持った。こうちゃんは祥志が抱っこしてくれている。
朝起きてすぐに、グングルマップで村までのルートを確認した所、どうやら1.8キロ程で森を抜けて、1キロくらい歩けば村に着くらしい。
今は午前8時。遅くとも10時過ぎには村に着けるだろう。
スマホでルートとモンスターがいないか確認しつつ、慎重に森の中を進んだ。
◇◇
残り800mを切ったところで、マップ上で急激にこちらに接近しているモンスターが3体見つかった。
慌てて走ったものの追いつかれてしまった。
「ブヒーーーーーーー!!!!!!!!!」
どうやらブタのモンスターのようだ。 なんと牛くらいの巨体である。
逃げるのを諦めてケネスさんに貰った玉の魔道具を構えると、シュパッと水のカッタのーようなものが出てきた。
ザシュッ!!!
3匹のうち1匹に当たるが、残り2匹が私を狙って突進してくる!
「栄子!危ない!」
(!!!!転送!てんそうてんそうてんそう!!!!)
ブウウウン
必死で念じると、1匹がもう1匹の目の前に転送され2匹のブタがぶつかる!
ドン!!!!!
お互いに頭から思いっきりぶつかった衝撃で共倒れし、そのうち動かなくなった。万が一起き上がったら怖いのでハンマーで2、3発トドメを刺しておいた。
「…ふうー!!!!!」
…こ、こわ!!!怖かった!!モンスターめっちゃ怖い!!
こうちゃんはビックリしたのか『ウエエエエエン』と号泣している。
こうちゃんが何ともなくて本当に良かった…。
とりあえず祥志と相談して念の為に倒したブタもアイテムボックスに収納して出口へと急いだ。
…森を出られた時は心底ホッとした。
早速アイテムボックスからブタを取り出しグングルピクチャーで鑑定する。
『レッドオークLv.26 状態:死亡。
生態:雑食。異世界『サムシングワールド』に存在するカーネル王国、ムーンヴァレー領に生息するブタの魔物。Cランク。毛皮は一体日本円で10万円程度。肉はブランド豚のような味で食べると美味しい。』
へー。毛皮だけ売ってお肉は持って帰ろうっと。
◇◇
森さえ出てしまえばあっという間に村に着いた。
小さな村だが、入ってすぐの広場には噴水や花のオブジェがあり可愛らしい雰囲気だ。
丁度入り口近くに人がいたのでオークを解体して毛皮を買い取ってくれそうな所を聞くと、村の奥にある食堂が併設されている冒険者ギルドに行くように言われた。
「すげー、冒険者ギルドだって。」
祥志がなんだかワクワクしている。
ドアを開けると色んな人種が肩に鎧がついたマントのようなファンタジーな格好をしており、非常に賑わっていた。
食堂のブースではガタイの良い冒険者達がビールっぽい飲み物を飲んで談笑している。
私達が入ると物珍しかったのかジロジロ見られたが気にせずそのまま受付に向かった。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件ですか?」
髪が緑色の肌の白いお姉さんが担当してくれた。
「えーっと、レッドオークを解体して、お肉以外を買い取っていただきたいんですけど。」
ケネスさん以外の異世界の人と話すのは地味に初めてだから緊張する。
「かしこまりました。冒険者証をお借りしてもよろしいですか?」
「あー。すみません。持ってないです。」
…何だろう。チェーン店でスタンプカード持ってなかった時のような気分である。
「畏まりました。では順番にこちらに手を翳して下さい。」
水晶型の魔道具に手をかざすと『エーコ・タチバナ(34)犯罪歴なし』とだけ表示される。
「あ、よかった。レベルや属性とかは表示されないんですね。」
よく考えるとこんな所で異世界人しか持たない属性が表示されたら大問題である。
「そりゃそうですよ。それが分かったら自分の手の内を晒すようなものですからね。はい、問題ないですよ。次の方どうぞ。」
こうして、祥志もこうちゃんも無事登録を終えて、それぞれの冒険者証を貰った。鉄で出来たクレジットカード大のプレートである。
「はい。これが冒険者証です。料金は銀貨3枚になります。」
…あ!どうしよう。そういえば日本円はあるけどこっちのお金ないや。
「すみません。今現金の持ち合わせがなくて。レッドオークの買取費用から差し引いて頂くことは出来ますか。」
ダメ元でお願いしたらすんなりOKが貰えた。
「問題ないですよ。では解体するのに1時間程かかりますのでそこの食堂でお待ちください。…あ、現金がないなら、このカードを食べ物を買う時に従業員に見せて頂いていいですか?このカードに溜まった金額をあとから買取金額から差し引きますので。」
解体室に案内されて、ドサっとアイテムボックスからレッドオークを3体出したらお姉さんが驚いていた。
もう11時だし、ちょっと早いけどこっちの世界のご飯も食べてみようかな。せっかくだからね。




