【間話5】都合の良い噂と階段事件〜第二王子マティアス視点
◇◇第二王子マティアス視点
その後も私と側近達が助けようとしても何故か聖女アヤネが全て自分で片付けてしまうという不本意な状態が続いた。
しかし、学校の中での選りすぐりの美男子である私達と一緒にいることで側近達の婚約者達を中心に、女生徒達にアヤネが僻まれているらしい。
まあ、私達の美貌はとんでもないから、それも仕方のないことだな。
私の婚約者のニーナも最近はこちらを悲しそうな顔で見ている。ふふふ、妬いているのか?
私は普段淑女然としてあまり感情を出さないニーナがそのような顔をしているのを見て、優越感を感じていた。
そしてあの日、クラス中の人間が見ている中、アヤネの親友を名乗るモモ•ブランディア子爵令嬢が『マティアス殿下とアヤネがお似合いだ。』と言い放ったのだ。アヤネはすぐに否定したが噂はすぐに広まった。
正直、公爵令嬢であるニーナに子爵令嬢が楯突くようなことを言ったというのは問題だが、私とアヤネが恋仲であると広まるのは外堀を埋めるという意味では都合の良いことであった。
だから、私は噂を放置した。王である父上も出来れば聖女を取り込みたいと考えていた為容認してくれた。
◇◇
ある日、階段の踊り場で、女生徒3人がアヤネを取り囲んでいた。
「アヤネ様!どういうことですの!マティアス殿下と恋仲というのは本当ですか?」
女生徒Aが現れた。
「酷いですわ!ニーナ様は私共の憧れですの!婚約者のいる殿方とそのような関係になるなど…!」
女生徒Bが現れた。
「落ち着いてください。私と殿下は誓ってそのような関係ではありません。お似合いだとモモ•ブランディアさんが勝手に仰ったようですが、彼女とはほとんど話したこともございません。」
アヤネは身を守っている。
「嘘よ、ブランディアさんは貴女を親友だと仰っているそうよ!」
女生徒Cが現れた。
「貴女、聖女だからってふざけるんじゃないわよ!」
女生徒Aの攻撃!
アヤネは1のダメージをくらった。
…ではなくてなんとアヤネは階段から落ちた!
「危ない!」
思わず私は走り出していた。
周りには騒ぎを駆けつけた生徒達が集まっている。その中にはニーナの顔も見えた。
さぁ、アヤネ!今こそ【真実の愛】の相手である私の腕の中に堕ちてこい。
…さあ!
さあ!
…あれ?落ちてこない?
そこには空中を浮遊するアヤネがいた。
「あー、ビックリした。駄目ですよ、人を階段で押したら。私じゃなかったら怪我してますよー。」
いや、いやいやいや!
「おかしいだろ!何で貴様は浮いている!」
咄嗟に思ったことが口に出た。
「え、だって、落ちたら痛いですもん。えーっと、私を押したあなた。そうそう、マルカ•コナーズ男爵令嬢。」
アヤネに呼びかけられて女生徒はビクッと震える。
「わ、私じゃないわ!私じゃ、、」
「うーん、まあ別に誰でもいいんですけどね。それより、浮遊魔法が使える私じゃなかったら大変でしたよー。確かに噂が本当だったら私は酷い女かもしれません。でも、本当に事実無根なんですよね。…なんで当事者である殿下は否定しないんでしょうね。」
アヤネはギロリと私を睨んだあと、フワッと側に着地した。
「ひい!」
目の前の女がドラゴンの首を切り落としてニコニコしていたのを思い出し、私は冷や汗をかいた。
「まあ、いいでしょう。ねえ、貴女達3人、憧れてるとはいっても、逆にこんなことしたらムーンヴァレー様に迷惑かけてるってわからない?」
アヤネが美しい顔に氷のような微笑を携えて3人の女生徒を見る。
「そ、そんな!私達は…。」
「そこまでよ。」
言い訳しようとする女生徒達を遮り、凛とした声が響いた。
そこには、私の婚約者であるニーナ•ムーンヴァレーが立っていた。
「聖女、アヤネ様。この度は我が公爵家の寄家の者達が大変な無礼を働きまして申し訳ございません。我が公爵家から該当の家には厳重に注意させて頂きます。
アヤネ様。一度ゆっくりお話ししたいと思っておりました。今週末我が公爵家でお食事でもいかがでしょうか。丁度父が良い料理人を見つけて参りましたの。あ、良かったらマティアス様もご一緒にどうぞ。」




