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【間話4】『真実の愛』が始まらない〜第二王子マティアス視点

 

◇◇第二王子マティアス視点


 文献によると、もう何百年も前から聖女の召喚は行われていた。我が国が魔王に対抗する手段として。


 魔王は魔力を大量に持ち、それを体内で瘴気に変えて放出する。存在するだけで魔物を生み出す人間兵器のような存在だ。


 そして魔王は、聖女の『白の魔法』でしか倒すことが出来ない。


 歴代の召喚された聖女はとても可愛らしく、この国の貴族にはない魅力があったらしい。


 彼女達は、歴代の王子や高位貴族令息を魅了し、学園生活を共にするうちに、『真実の愛』に目覚めた。


 そして、その『真実の愛』の相手と白魔法【聖剣】を【愛の聖剣】に進化させることで魔王を討伐してきたのだ。


 ただ、聖女がその後、この世界に残ったのかどうかは記載されていない。


◇◇


 そして、一年前。ついに『魔王』が誕生した。


 第一王子である、兄のフランクは既に隣国の王女と結婚していた為、私と側近達がこれから召喚される『聖女』を庇護する立場に任命された。


 つまり、この中から聖女の『真実の愛』の相手が選ばれる可能性が高い。偏りはあるものの、全員が美男子で武力や知力、魔法など何かに秀でている令息ばかりだ。

 

 いくら頑張っても追いつく事の出来ない優秀な兄であり、王太子であるフランク。


 しかし、聖女の相手となり魔王を倒せば『私が』我が国の英雄となり、一代限りだが公爵位を貰うことが出来る。


 婚約者のニーナは長子なので将来公爵位を継ぐ予定だ。


 美しいが、私よりも成績が上で可愛げがない上に、淑女然として表情が変わらないので辟易としていた。


 また、ムーンヴァレー公爵は公平だが厳しい人物であると有名である。婿入りして肩身の狭い思いをするよりも私は英雄として崇め奉られたかった。


◇◇


 そして、聖女アヤネが召喚された。


 遠目から見ていたが、ニーナにも劣らない美しさの中に少女らしい可愛らしさも兼ね備えた完璧な美貌であった。こちらを振り返った彼女に興奮で胸がドクンと高鳴る。


 アヤネこそ『私の』真実の愛の相手に相応しい。


「やあ。アヤネ。私は第二王子のマティアスという。詳細は陛下から聞き及んでいるだろうが、異世界から来てさぞかし心細いだろう。分からないことはなんでも私に聞いてくれ。君を庇護するのが私の役目だ。」


 召喚の間から謁見室に移動した後、私は笑顔で彼女を迎えた。

 

 自分で言うのもなんだが私は麗しい。輝く様な金髪に蒼い瞳がサファイアのように美しいとよく賞賛される。私が微笑むと大抵の貴族令嬢は頬を真っ赤にしてのぼせ上がるのだ。


 今までは鬱陶しいことこの上なかったが、今はこの顔を使わない手はない。


 真っ赤にした顔で『宜しくお願いします。』と私にしなだれかかるアヤネを想像してニヤけそうになる。


 そんな私を現実に戻したのは全くどうでも良さそうな顔の彼女から発せられたあり得ない一言だった。


「あ、大丈夫ですよー。分からないことがあったら周りの人に聞くんで。王子様ならお仕事もあるでしょうし、お手を煩わせるのは申し訳ないので私の事は放っておいて下さって結構です。私も早く元の世界に戻りたいので訓練や勉強等もしなければいけませんし。」


なん、だと。


「いや、遠慮しなくていい。それなら学園の勉強を教えようか?今まで勉強したことのない分野であれば不安であろう。アヤネは編入試験は免除されるが一応学力査定テストは行われるからな。」


「あ、大丈夫ですよ。今までの分の教科書を頂ければ読んどくんで。」


な、何だか、思っていたのと違うぞ?


しかし、私達貴族が幼少時から家庭教師を付けてやってきたことを聖女が一朝一夕で出来るはずなどない。


◇◇


「殿下!凄いです!聖女様は天才です!学力査定で全教科満点を取りました!」


学園長が興奮して私に報告してきた。


 そんなはずはない!ま、まさかカンニングか?でも、他に査定を受けた生徒はいなかったよな?


 私は真相を確かめるべく側近と一緒に聖女が勉強しているという図書館に足を運んだ。


シャッ…シャッ…シャッ!


そこには高速で本をめくる聖女の姿があった。


「な、何をしている?」


「え?何って。本を読んでるんですよー。」


は?何を言っているんだ?


「い、今ので読めたというのか?見開きで3秒程度だったぞ?!」

こ、こんな速さで本を読めると言うのか?聖女の能力か?だが、今までの聖女は逆に成績が悪く王子と切磋琢磨して愛を深めたと文献にあったぞ?


「そうですー。あ、もう、一冊読み終わりました!ところで、何か用事ですか?」


「…いや、何でもない。」


◇◇◇

「殿下!凄いです!聖女様は天才です!!カーテシーやウォーキング、マナー、ダンスも完璧です!私がやったことを一発で完璧にこなしてしまうのです!」


今度はマナー教師が私に報告してくる。

なん、だと。そんな筈はない!貴族の子女が血反吐を吐く思いをして幼少から身につけてきたマナーだぞ!


 なかなかマナーが身に付かず泣いてばかりの聖女に王子がマンツーマンでダンスを教えて、顔を真っ赤にした可愛らしい聖女に思わずキスをしてしまったとカーネル•クリスピア3世(私の父は4世)の日記に書いてあったのに。


 今度は私は聖女が魔法訓練をしているというホールへ側近達と足を運ぶ。


 そこには、重力に逆らったポーズで魔導書を読む聖女の姿があった。


「な、何をしている?」


「…魔導書を読んでます。」

何故嫌そうな目で私を見る!


「何故そんな格好をしている!」

「…別にどんな格好で読もうと頭に入っていれば問題ないですよね。」

「も、問題はない。しかし…。」


すると、アヤネはニッコリと美しい笑顔で私に言った。

「今はプライベートな時間なので出来れば無断で入ってこられるのはご遠慮願いたいです。」


「あ、ああ。すまなかった。だが、君を庇護するのが私達の仕事だ。」


◇◇

 そんなある日、学校裏の実地訓令用の施設である森に、Sクラスの魔物であるドラゴンが出没したと言う警報が出た。しかも、聖女が実習でペアの女生徒と一緒に対峙しているというではないか。


 私は唯一ドラゴンを切ることの出来る宝具、ヒヒイロカネの剣を宝物庫から借りて真っ先にアヤネの元に向かった。

「アヤネ、待ってろよ!今行く!」


ところが、現地に着いた私は目を疑った。


!!!!?


現場を見たら、バッサリと首を切られたドラゴンが転がっており隣で女生徒が腰を抜かしている。


「あ、どうも。もう倒しましたよー。」

とアヤネはニコニコしている。


嘘だ!ドラゴンは普通の剣では切ることは出来ない。それに、アヤネは丸腰ではないか!


「どうやって切った!」


「え、聖剣で切りましたけど。ほら。」


ブウウウン


…なぜ、魔王と戦う寸前まで出せないはずの聖剣を今出している?

真実の愛が、全然始まらない。

 

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