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【2】ここって異世界なんですね〜ジュワッと沁みる出汁巻き卵


 トイレを済ませてそーっと祥志の部屋に行く。こうちゃんがまだ寝ているからね。


「ぐっ、、。何だよ!こんな朝早くに突然!土曜日なのに。」


何も言わずシャッと祥志の部屋のカーテンを開けると、祥志の目が点になった。


「•••は?え、、何これ。」

ぼーっと鬱蒼と生い茂る木を見ながら放心している。まあ、そうだよね。


「起きたらこうなってた。でも変なのは電気もガスも水道も通ってるし、スマホの電波も通ってる。Wi-Fiも使える。」


祥志を起こす前にトイレに行ったけど、電気が点いた。手を洗う時蛇口から水も出たし、試しにコンロに火も付けたけど、問題なかった。

 冷蔵庫も開けたけど、ちゃんと冷えてたしね。


 まぁ、そんなわけで当面ライフラインはどうにかなりそうな感じではあるんだけど。


「ここ、どこだろ。。」

普通に朝起きて知らないところにいたらびっくりするよね。


「…スマホの電波が通ってるなら日本かな?」


確かに、電気も水もガスも来てるならその可能性が高いかな。そうであって欲しい。


「そうならいいなぁ。とりあえず、庭から外見てみようよ。」


恐る恐る、居間に面しているウッドデッキから庭に出てみる。


 畑も無事だ。育っている作物もそのままだし、先程みた温度計は20度くらいだったからすぐに枯れてしまう心配もなさそうだ。


 家というよりも、買った土地全部がこの森の中に移動して来たようだ。沢山野菜や果物植えてて良かった。


 さらに奥に目を向けると、2人で奮発して買った防水加工の2×4材で作った塀がある。『ムーンバックスカフェ』の真似をして塗装をした力作だ。傷ひとつなくいつも通りに佇んでいる。


 しかし、その外側は道路や住宅街ではなく森が広がっている。


「そういえば、車はあるのかな。」

祥志に言われて気づく。2人で急いで半地下のガレージに向かい、シャッターを開けると愛車の『フィックス』がそのままあった。


「でも、家の外がすぐ森ならどっちにしろ車は運転できないな。」

確かにね。石や木の根が沢山あるし、タイヤがパンクしてしまいそうである。

  

「こうちゃんが寝てる間に森の中、少し探索してみる?念の為、家からロープ繋いで。」


どこまで森なのかわからないしね。

 

「うーん、さっき狼っぽい鳴き声が聞こえたんだよね。日本だとしても熊がいるかもしれないし慎重に動いた方がいいんでない?」


あ、祥志にも聞こえてたんだ。確かに万が一何かあったら怖い。


「そうだね。様子を見た方がいいかな?」


「行くとしてもちゃんと準備万全にしてから行こうぜ。俺一人で一回行ってもいいし。とりあえず、ご飯も炊けたみたいだし、こうちゃんがそろそろ起きると思うから、朝ごはんにしようぜ。」


 こうして私達は、とりあえず朝食を摂ることにした。どこにいようがお腹は減るからね。


◇◇◇◇


 今日の朝食は、炊き立てごはん、納豆、梅干し、明太子、きゅうりの味噌漬け、なめこと豆腐のお味噌汁、大根おろしをたっぷりのせた出汁巻き卵だ。


 出汁巻き卵はたっぷりのだし汁にみりんとお醤油を入れて作っている。巻く、というより卵焼き器で固めていくような感じだ。コツは醤油とみりんで味付けした合わせ出汁を卵液に均一に混ぜること。


 噛み締めるとじゅわっと出汁が染み出して我ながらとても美味しい。


「「はぁ〜、美味しいー!」」

「おいちぃ〜!」


3人でとりあえずいつも通りご飯を頂いて、寛ぎながら庭の方を見ながらお茶を飲んでいた。


 若干現実逃避感もある。こうちゃんはよくわかってないので元気いっぱいだ。


しかし、そんな時間も長くは続かなかった。


「え、栄子!栄子ーーーーー!!!!」


 私が皿洗いしている間に、祥志が庭を指差しながら叫んだ。見ると2メートル程の銀色の熊のような獣が私の作ったムンバ(ムーンバックス)風のオシャレな塀をよじ登ろうとしている。


「え?!熊?!」

「くまた!くまたん」


祥志が固まってしまっているので、こうちゃんを隣の部屋のベッドに隠すように避難させる。


 その間に祥志がハッとして、ガラス戸を閉めてくれた。慌てて熊を振り返って見た瞬間、


『バチイイイイイイン!!』

と音がした。


ドシャアアアアア!!!!!


 敷地内に蹄が入った瞬間、銀色の熊がまるで強力な電圧でも掛けられたかのように弾かれて、倒れて動かなくなってしまった。


「え、え、えーっと、、し、死んだ?」


祥志の顔が引き攣っている。もう熊が全く動いていないので、恐る恐る様子を見に行く。


 ん?そういえば、『私達の住んでいる世界』にこの銀色の熊が存在するかどうか分かれば、今どこにいるか分かるのでは。


 もう捨てようと思ってたゴム手袋を履いて、念の為マスクをつけて熊の脈を測ってみる。きちんとご臨終されたようだったので、ホッとした。


 使ったゴム手袋やマスクはフリーザーパックに二重に包んで捨てた。万が一エキノコックスみたいな変な菌とか持ってたら怖いしね。


 少し離れた所から、『ここが日本でありますように』と祈りながらスマホで検索エンジン、グングルを開き、『グングルレンズ』を起動させて熊を撮影する。


パシャ。


『シルバーベアLv.73 状態:死亡。

 生態:雑食。異世界『サムシングワールド』に存在するカーネル王国、ムーンヴァレー領の熊。満月の日生まれる、ホワイトベアの上位個体。ホワイトベア同様餌を求めて人里を荒らす。美しい毛皮は、売ると日本円にして100万円程になる。』 

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