【予告】To be cotinued... 〜宮野彩人視点
◇◇宮野彩人視点
「彩人!忘れ物はない?」
上下グレイのレースのセットアップを着た母、ニーナが微笑む。ドレスから解放されて嬉しそうである。
「うん。サンキュー、母さん。」
僕は気合を入れて、ネクタイを結ぶ。
今日は花山田商店街の近くの国立大学の入学式だ。僕も新入生として参加する。
僕は2つの名前を持っている。
日本での名前は宮野彩人。
そして、異世界『サムシングワールド』での名はアヤト•ムーンヴァレー。ムーンヴァレー王国の王太子である。
「お友達、出来るといいわね。私にとっての彩音のように!」
そう言って母はドヤ顔してきた。
母は父、一樹の妹である『彩音叔母さん』が大好きである。僕の名前も叔母さんから一文字取って付けられた。
僕の祖父、ケネス・ムーンヴァレーの代で我が国はカーネル王国から独立し、現在は母であるニーナがこの国の王となった。
王族は魔法学園卒業後に必ず【ニホン】の大学で学ぶ方針となっており、僕は農学部を選んだ。
ちなみに、学部は違うけれど父と彩音叔母さんの母校である。
ここ何十年かでムーンヴァレー王国は飛躍的に『食』に関して発展してきている。
しかし、加工や流通についてはもう少し発展させる必要性を感じている。
国民全体に適正価格で流通させるにはアイテムボックスにばかり頼っている訳にはいかないのである。
また、僕は魔素を含んだ植物を遺伝子操作等で人工的に改良することで医療の発展にさらに貢献出来るのではないかと考えている。特に、異世界にしか存在しない野生植物には日本にはない効果を期待している。
「ニーナ、今日も可愛い。きっと会場の人達は君に釘付けになってしまうね。
…本当は可愛すぎて、誰にも見せたくない。」
そう言って父、一樹が母の手の甲にキスをする。
「貴方だって今日もカッコいいわ。…私も誰にも見せたくない。」
そう言って両親は見つめあっている…。
僕はちょっと苦笑いしながら3人で会場に向かった。
父は車の免許を持っているが駐車場の関係もあり今日は電車だ。
ちなみに僕の弟、ハネスは現在16歳である。4月から魔法学園の2年生で生徒会長だ。
今日は三日後の魔法学園の入学式の準備をしている。
最近隠れてコソコソどこかに行っているが、ノーリッジ侯爵家の令嬢と婚約しているので色恋沙汰でないことを祈りたい。
◇◇
入学式のある大学の体育館前に着くと、父兄とは離れて生徒達は席に着くことになっている。
僕は両親と別れ、体育館前の木から舞い降ちる桜の花びらに見惚れていた。
ムーンヴァレー王国には桜がない。
日本での『自宅』は2つの世界の【狭間】にあるものの、王子として忙しく探していた為、大半の時間をムーンヴァレー城で過ごしていた。
『自宅』は城の地下の厳重に管理された部屋に繋がっているので時々遊びに行ってはいたが、日本と繋がっていることは一部の人間しか知らない。
日本に来る時は父方の祖母や祖父に会う時と、たまに遊びに来る時くらいだ。近所には母親の母国の寄宿学校に通っていることになっていた。
ムーンヴァレー王国にはない物が沢山あるので、日本にいると何となくワクワクする。
こんなに見事な桜は何年振りだろうか。
「…綺麗だな。もっと色々な種類の桜を見てみたい。」
ざあーっと風が吹いた。
ボソッと呟くと舞い落ちる桜の中で、偶然隣にいた男子生徒が目を見開いた。
色素の薄く目がクリクリでまるで女の子のように可愛らしい顔立ちだ。
パステルカラーの衣装でも着てアイドルグループで歌っていそうな感じである。
「君、桜好きなの?あ、僕は佐伯ノブオって言うんだ。宜しくね。
あっちのグランド傍に八重紅枝垂が咲いていたよ。ちなみにこの木はスタンダードなソメイヨシノだね。
あ、一緒に座る?」
そう言ってニッコリと笑った。
(…いや、可愛いな。男だけど!)
「そうなんだ。ありがとう。僕は宮野彩人だ。宜しく。
僕は農学部だ。君は?えーっと…。」
「ノブでいいよ!宜しくねっ。僕も農学部だよー。
彩人って呼んで良い?地元の人かな。
僕、近くのアパートに一人暮らししてるんだ!地方から来たから不安でさ…。」
式の後、僕は両親に友達と遊んでから帰ることを伝えた。両親を見たノブは、
「すっげぇー!!!お母さん、どこの国の人?!めっちゃ美人だし銀髪じゃん!お父さんも超かっこいいし!彩人って何者?!」
と興奮していた。
―うん。異世界で王太子をやってます。言わないけどね。
2人でグランド傍に行って桜を見た。八重紅枝垂は花弁がピンク色で普通の桜より華やかだった。
「すごいっ!食べ頃の蕗のとうがいっぱいあるっ!三つ葉もあるっ!あっ。つくしも!!」
ノブは徐にリュックからビニール袋を取り出して、蕗のとうと三つ葉をせっせと採集し出した。
「はいっ!彩人もこれ。」
そう言って、ノブオはもう一つビニール袋を差し出してニッコリと笑った。
…うん?
「手伝ってー!!!!」
…何故か入学式の後、普通はサークル勧誘等をされて先輩達からチヤホヤされる流れであろう所、男2人でグラウンド傍でせっせと野草を摘んだ。
「お礼にお昼ご飯、ご馳走するねっ!僕んちすぐそこなんだ!」
そう言って案内されたアパートは結構、いや、かなり年季が入っていた…。
正直、こんなボロボロの建物に入ったのは初めてだった。
「えへへ。家賃、18000円なんだー。すごいでしょ!築48年なんだー。」
そう言って何故かノブは照れている…。
「ちょっと待っててねー。」
ノブは玉ねぎとにんじんを切って先程収穫した三つ葉と混ぜてかき揚げにし、蕗のとうも天ぷら粉をつけて揚げ始めた。
つくしはあく抜きがあるので明日卵とじにして食べるらしい。
並行して乾麺の蕎麦を茹でている。…何だかとても嬉しそうだ。
「出来たよー。」
そう言って出てきた天麩羅と蕎麦は、とても美味しそうだった。きちんと大根おろしも添えてある。
「…美味い。」
「えへへ。でしょー。いっぱい食べてってね。」
―僕達はすぐに親友になった。
今まで僕は『王子』として扱われていたから『本当の友達』が出来たのは初めてだった。
ノブはとても賢く、話しているのがとても楽しかった。
それに、太々(ふてぶて)しい所もあるが、きちんと弁える所をわかっていた。
例えば、僕にお金がある事を知っていても、決して『奢って』と言ってくることはなかったし、もし何かをあげたら、必ず自分なりに精一杯お返しをしようとする。
弟がもう1人出来たみたいで可愛くて、一緒にいると居心地が良くて、僕にとってとても大事な存在になった。
『えへへー』と言って照れるのがめちゃくちゃ可愛くて、いつもイジっていた。
女子にも一定数ノブのファンがいたようだが、本人は全く自覚しておらず、
『イケメンはいいなぁー。』と僕にボヤいてくるのが面白かった。
―だが、不慮の事故でノブは大学2年の7月、植物状態になってしまった。
「…ノブッ!!!ノブ!!!嘘だろ!!!」
そう言って僕は父の病院で横たわるノブを見て泣いた。
僕はどうにか親友が目を覚ますように手を尽くした。だが、ノブが目覚めないまま1ヶ月が経過した。
そんな中、長期休みに入りムーンヴァレー城で溜まった執務をこなしていた時だった。
コンコン…とドアを控えめにノックをされた。『どうぞ。』と答えると老齢の執事、スティーブンが困惑した顔で入室してきた。
「アヤト様。ニーナ様が緊急で会わせたい方がいるとの事です。」
僕は、なかなか親友が目覚めないことでかなり落ち込んでいた。
「…誰?今はあまり人に会いたい気分じゃないんだ。」
「あ、大丈夫です。人ではないんで。
それが…。豚なんです。」
(は?)
すると、トテトテ…と可愛らしい音がして首に蝶ネクタイを付けた二足歩行の豚が入ってきた。
「ブー!!!彩人!1ヶ月ぶりブー!!!只者じゃないとは思ってたブーけど王子様だったんだぶーな!」
と言って元気よく蹄を上げてきた。
ぶ、豚が喋った?!
「え、なに、…は?どういうこと?!」
混乱する僕に豚が告げた一言は。
「ブー!!ブーはノブオだぶ!!」
僕は一瞬固まったあと、目をひん剥いた。
「…はぁあああああ?!!!!」
―そう。僕の親友は、日本で事故に遭って何故か異世界で、弟の婚約者であるノーリッジ侯爵令嬢の飼い豚に憑依してしまった…らしい。
To be continued...
『野草料理が得意な貧困大学生、悪役令嬢のペットの豚に憑依する。 』
https://ncode.syosetu.com/n0184kj/
に続く。
…ということで、スピンオフを書きました。
主人公はノブオ君(が憑依した豚)です。彼は野草料理と節約料理が得意なのでレシピも載せていけたらいいなぁと思っています。
舞台はムーンヴァレー王国で、懐かしいメンバーもチラホラ出てくるので良かったら見に来て頂けると幸いです。
タイトルをクリックして、上の『異世界『サムシングワールド』シリーズ』をクリックしても読めます(о´∀`о)




