【最終回】大団円!
神前式が終わって、皆でドラゴン化したヨルムさんの背中に乗ってムーンヴァレー王宮に移動した。
…まあ、すぐそこなんだけどね。
マイクロバスならぬマイクロドラゴンである。
「ふふふふふ!!僕、この歳になってドラゴンに乗れるなんて!!人生何があるかわからないですねっ!!!」
と黒川先生は大興奮だった。
ドラゴンで披露宴会場目の前の庭園に降り立つと、会場で談笑していた来賓の方々が騒然としている。
…まあ、そりゃビックリするよね。
ヨルムさんから静々と降りたニーナちゃんと一樹君が来賓の方々にお辞儀をする。
そして、ケネスさんが音声拡張魔法で挨拶する。
「来賓の皆様。
ようこそ、我が娘、ニーナの結婚式へ。
ムーンヴァレー王国ならではの美食を沢山用意した。どうか、楽しんでいってくれ!」
そう言うと、ワッと歓声が上がる。
ヨルムさんは元の姿に戻り、竜族の貴賓席に座って談笑している。
今日は族長であるお父様とお母様のインバさん、そして、お兄様2人、お姉さんとリーヴァちゃんと勢揃いである。ローストビーフを気に入ったらしく、たまに興奮して火を吐いている。
そして、向こうのカーネル王国の貴賓席にはニーナちゃんの卒業式で少しだけお目にかかったフランク陛下と王妃様が談笑している。
同じテーブルにはカーネル王国内の高位貴族が落ち着かない様子で座っている。
ちなみにツンデレ王子、改め角刈り王子は陸上の国際選手権でサンライズ帝国に遠征しているらしい。
どうしていきなりオリンピアの選手を目指し始めたのかわからないが、非常に気になるところだ。
サンライズ帝国からは皇帝夫婦の他に王女、王子が1人ずつ来ている。
ちなみに本当はこの国がニーナちゃんのお見合い相手だったらしいんだよね。
王子は一樹君の執着たっぷりの純白ドレスを見て諦めたような顔でニーナちゃんを見ており、反対に王女の方はハンターのような目でシリウス君を見ている…。
他にも多くの周辺国や、国内の有力貴族が招待されており披露宴はとても大規模なものだった。
彩音ちゃんが余興で空中で聖剣で演舞したり(皆聖女の美しい舞に大喜びだった)、シリウス君が庭園で巨大ロボット試運転をさせてくれたり(ちなみに装甲にはキングクラブが使われている)。
お色直しで新郎が花嫁を空中でお姫様抱っこして舞い降りたり、竜族が炎で巨大花火を打ち上げてくれたり、すっごく斬新で面白い式だった。
私の力作、ムーンヴァレーシュガーのウェディングケーキは皆さんの度肝を抜いたらしく、出てきた瞬間『おおお!』とどよめきが起きた。
ふふふ。もっと驚いてくれてもいいんですよ!
ピンク色の可愛らしい巨大ケーキに入刀するニーナちゃんと一樹君は本当に幸せそうだった。
彩音ちゃんは、
「ニーナ…。お兄ちゃん…。」
と言いながらぐすぐす感動して泣いていた。
ケネスさんも時々目頭を押さえていた。
おやおや、こんなケネスさん初めて見たな…。
ガーデンパーティーでは控え室で来賓の方々に着替えて頂き、カジュアルな格好で参加してもらっている。
庭園で子供達は駄菓子とアイスクリームを片手に大興奮だった。
大人は陽気な音楽にダンスを踊り、笑顔が絶えない日になった。
この日は無礼講ということで、身分を問わず色んな方とお話しすることが出来た。
「ケネスさん!ダイアナさん!すごく素敵な式になって良かったですね!」
私がそう言うと、ケネスさんが感極まった感じでポツリと漏らした。
「…私は、姉上を人質に取られてしまってから自分だけではなく一時は家族まで犠牲してきてしまった。」
すると、ダイアナさんが複雑な顔で
「貴方…。」と呟く。
しかし、笑顔でケネスさんは顔を上げた。
「だが、友人や家族、そして色んな人が助けてくれてこうして娘にとって最善だと思える結婚をさせることが出来た。
シリウスも、今は好きな事をとことんやって、国を立派に導いてくれている。
栄子殿、祥志殿。そして、コージ。其方達も助けてくれた友人の1人だ。本当に感謝している。」
「ケネスさん…。」
そう言われるとなんだか胸に来るものがある。
初めて会った時はまさかこの人に『友人』と言って貰える程こんなに仲良くなれるなんて思いもしなかった。
宴もたけなわになってきたところで、彩音ちゃんがお願いした通りに皆さんの注目を集めてくれた。
「皆様ー!!!
それでは公爵家時代からのケネス国王の友人エイコ•タチバナさんと、聖女、アヤネ•ミヤノで最後に余興をさせていただきます!!!」
そう言って2人で手を取り合ってムーンヴァレー城の上空まで浮遊していく。
「「ここにいる皆さんと、大切な方々にどうかこれから先も沢山の幸せが訪れますように。」」
そう言って、加護の光を空中から大盤振る舞いする。
パアアア!!!!!
―ムーンヴァレー王国ではこの日降り注いだ不思議な癒しの光が国中を照らした。
そして、人々を幸せで穏やかな気持ちにしたという。
「栄子、なんか俺、ちょっと感動しちゃったわ。」
「ママ、あの光すっごく綺麗だったよ!」
地上に戻ると祥志とこうちゃんが真っ先に褒めてくれた。
ちなみに、結婚式の引き出物として、『聖女の加護のお守り』と、シリウス君お手製の『魔力計』が配られた。
『魔力計』はこれまで数値化できなかった魔力の残量を計測できる画期的な発明らしい。
「ニーナちゃん!一樹君!本当におめでとうー!」
皆が新郎新婦に心からのお祝いの声をかけている。
こうして一樹君とニーナちゃんの結婚式は無事終了したのだった。
◇◇
一週間後、私は久しぶりに彩音ちゃんと会っていた。
「ひゃー。これがニーナちゃんと一樹君の新居かー。めっちゃオシャレなお家だね!」
「はい!気合を入れてデザインしました!…まあ先輩達に大分手直しされちゃったんですけどね。」
そう言ってテヘッと舌を出した。
そう。私は2人がこれから住む家のデザインを特別に見せてもらっていた。
「まさか花山田商店街の近くにもう一つ『異世界の狭間』が見つかるなんてねぇ。」
私がそう言うと彩音ちゃんが何度も頷く。
「はい!これで家が建ったら2人とも近所に住めるのでめちゃくちゃ嬉しいです!絶対いい家を建ててみせます!」
そう言って笑顔を見せたあと、『あ。』という顔をした。
「ん?どうしたの?彩音ちゃん。」
「いえ、今ふと思ったんですけども、そう言えば『宝珠』の願い事ってもう一つ残ってるんですよね?
栄子さんって何か叶えたい事とかないんですか?」
と不思議そうに聞かれた。
「…うーん。そりゃ欲しいものもいっぱいあるし、嫌だなって思うこともいっぱいあるけどさ。
突然思いもよらないことで大切な人に何かあるかもしれないじゃない?
だからその時の為に保険として最後の一つの願い事は残しておくことにした!
ほら、私ってチキンだからさ!」
そう言うと、彩音ちゃんは目を見開いてから
「栄子さんらしい。」
と言って笑ったのだった。
きっと、私はこれからも平日はこの家で、週末は異世界で料理を作る。
そして、皆が美味しいと言って笑顔になってくれれば、なんだかんだで一番嬉しい。
しいて言えば、どうか大切な人達が前を向いて幸せに生きていってくれますように。
私は胸の中で小さく願うのだった。
これで完結となりました…!
今まで読んで下さり、凄く感謝しております。
ブックマークや星評価はもちろん、感想や顔文字で反応して下さった方々、いつも凄く励みになっておりました。
本当に本当に、ありがとうございました。
また新作を書いた時には良かったら見にきて頂けると幸いです。
2025.4.12 ブー横丁




