【100】重い愛とドレス
―今日は、いよいよニーナちゃんと一樹君の結婚式である。
早朝のムーンヴァレー王宮内の厨房にはシリウス君が主体となって発明して流通させた『魔導ラヂオ』が響いている。電波ではなく、特殊な魔力を検知して音声を発信しているらしい。
『あーっと!カーネル王国のマティアス選手!ホーム、サンライズ帝国のチータ選手を追い越したー!!!』
『いやぁー。彼の成長は本当に凄いですねぇ。国際オリンピアでも初出場で銀メダル!本当に見事な走りでした!現在サンライズ帝国で行われている国際選手権でも頑張って欲しいですね。』
『何でも彼はカーネル王国の第二王子らしいですよ。』
『しかし、彼は優雅な身分からは想像出来ない、鬼気迫った何かに追い立てられたようなダイナミックな走りをしますねぇ。やはり身分上、凶悪な刺客にでも追いかけられる機会でもあったのでしょうか。』
そして、出汁のいい匂いが充満している。
「ジョセフさーん!おはようございます。今日は宜しくお願いします!わぁ、いい匂い!ラーメンと…お好み焼きも出すんですね。」
「ああ、ニーナ様の好物だからな。ガーデンパーティーで出すつもりだよ。小さい屋台をいっぱい出してカジュアルな感じにする予定だ。
ラーメンの他にポテトフライや棒付きウインナー、枝豆、焼鳥も出す。
来賓の貴族達にも服装もカジュアルで家族で、と伝えているしな。
披露宴のコースにはローストブラウンボアや、蟹クリームコロッケを出す予定だ。ムーンヴァレー王国の名物をアピールしておかないと。」
うわー、楽しみだ。今日はご馳走だからいっぱい食べちゃうぞ。
「ありがとうございます!私もお菓子いっぱい作りましたよ!ここのワゴンに出していいですか?まずは披露宴用のものからですね。」
私はアイテムボックスからベイクドチーズケーキ、レアチーズケーキ、プリン、フルーツタルト、ムースケーキ、チョコレートケーキをホールで6台ずつ、メレンゲアイスを3種類に、大量の苺ソース、ブルーベリーソース、オレンジソース、ミントの葉を出す。
そして、最後にデーンと大きなピンク色のウェディングケーキを出した。
何回もショートケーキを焼きまくり、高さは約2メートルである。脚立の上でデコレーション しましたよ…。
「おお、すんげえな。さっすがタチバナさんだ。こんだけ甘いものを結婚式で出せるのはうちの国くらいだ。」
ジョゼフさんはそう言って笑った。
「国の良いPRにもなりますね!ムーンヴァレーシュガーを目一杯売り込みましょう。アイスは氷の魔道具にお願いします。盛り付けはお任せしちゃいますね。」
「ああ、任せろ。」
「じゃあこっちにガーデンパーティー用のお菓子をおきますね。」
そう言って今度はネットで大量買いした駄菓子と、箱で買ったペットボトルのお茶、ジュース、そしてスナック菓子とアイスクリームと、それを入れる紙のカップを大量に出す。
ここ最近ガンガン作りまくっていたメレンゲアイスだ。20種類程ある。
「こっちのアイスも氷の魔道具にお願いします!楽しみですね!」
「ああ、ありがとな。よし、着替えとかもあるんだろ?こっちは大丈夫だから結婚式の準備に行ってくれ。」
ジョゼフさんの言葉に、ありがたく家に一旦帰らせてもらった。
◇◇
まずは11時からすぐ近くに新しく建設された教会で神前式である。こちらは家族や親戚、よっぽど親しい友人だけだ。
「ママ、立派な教会だね。」
私とこうちゃんと祥志は静謐な雰囲気の教会に見惚れていた。
「栄子さん!」彩音ちゃんが抱きついてきた。
宮野家と、山野家の皆さんは昨日の夜から公爵家に泊まっていたらしい。
「彩音ちゃーん!!就職決まったんだって?!おめでとう!」
「はい!市内の建築事務所に決まりました。日本でのお兄ちゃんとニーナの家は、うちの事務所で担当する予定です!」
そう言って嬉しそうに笑った。
経験を積んだ後、これから一級建築士の試験に挑戦するらしい。さすが彩音ちゃんである。
「こーじくん、遊ぼー!」
「いいよー!」
芽依ちゃんがこうちゃんの手を引いて駆け出して行く。あらあら、仲のいいこと。
せっかくなので子供達の様子を見つつ、レオナさんとサダオさんと談笑していると。
「栄子さん!久しぶり!」
そう言って話しかけてきたのはヨルムさんと黒川先生だ。
「ヨルムさん、お久しぶりです!黒川先生も。ヨルムさん、黒川先生に弟子入りしたって聞きましたよー。」
すると、黒川先生はニヤッと笑う。
「ああ、彼は頑張ってるよ。なかなか筋がいい。」
と言うと、ヨルムさんは感極まった感じで『師匠っ!!』と言った。
「ヨルムさん。こちらがラミダスさんのお孫さんのサダオさんですよ。」
そう言うと、
「君が…!!!ずっと話したかったんだ!!」
そう言って満面の笑みを浮かべた。サダオさんは
「…お袋の従兄弟なのに俺よりずっと若く見えるのは複雑だな…。」と呟いていた。
シリウス君やダイアナさんは感慨深い顔で壇上を見ている。うん、今はそっとしておこう。
暫くすると、一樹君が入場してきた。
今日は一段とイケメンである。まるで少女漫画のコミックスの表紙のようだ。眼福眼福ー!!!
白いタキシードをビシッと着こなし髪を上げて笑顔で花嫁を待っている。
そして、荘厳なクラシック音楽が流れて、真っ白なドレスを着たニーナちゃんがケネスさんと手を繋いで入場してきた。
(ニーナちゃん…!!綺麗…。)
キラキラ光って真っ白な幻想的な光を放っていて、まるで魔法みたいに綺麗…。
…んんんん?な、なんで?一体何故ドレスが幻想的な光を放っているんだ…?ま、魔法…?
隣を見ると彩音ちゃんの顔が引き攣っている。
「お兄ちゃん…。ずっと前に私が晃志君の誕生日にあげたお守りにかけたのと同じ加護、ニーナのウェディングドレス全体にかけてる…。」
は、はぁーーーーー?!!!!
伝説級の防具の誕生と、一樹君の重い愛に皆度肝を抜かれたのだった…。
あと一話更新します。




