【間話33】A高校卒業〜ずっと好きだったはずなのに。〜新條桃花視点
◇◇新條桃花視点
今日はA高校の卒業式だった。
この後、私は楽しみにしている事がある。
退院した時、『ももたん、早く元気になりますように』と、真田幸村のイラストをくれたオタク仲間の『よっちゃん』がA高校の女生徒で、しかも同じ学年だったのだ。
卒業式が終わったら遊ぼう、という話になっていて、午後3時に駅前で待ち合わせしている。
snsで同じ県の高校生のコミュニティで知り合ったから不思議では無いんだけど、同じ高校だったのはビックリした。
気が付けばこの一年、色々あったなぁと思う。
特に異世界のモモ•ブランディア子爵令嬢に憑依した事は私の人生観を大きく変えたと思う。
…沢山反省すべき点があったし、自分の未熟さを思い出すと、恥ずかしすぎて悶絶しそうだけど、あの経験があったからこそ、今の自分があるのだと思う。
一つだけ気がかりだったのは、本物のモモ•ブランディア子爵令嬢の事だ。けれど、ニーナさんがどうにかしてくれたらしい。
…よかった。私のやらかしのせいで何もしていない令嬢が修道院に送られてしまうのは申し訳なさすぎたから。
私の事をニーナさんはどう思っているかは分からないけれど、それでも私は今凄く彼女に感謝している。
(…もっとちゃんと謝りたかったな…。)
そんなことを思いながら窓の外を見て物思いに耽っていると。
ガラッとドアが開いて彩音が入って来た。
「桃花!こんな所にいた!ほら、皆で写真撮るよ!早く行くよ!」
彩音とは三年生で同じクラスになった。憑依してから急激に仲良くなったが、入学した時はまさか私がこの子の友達になるだなんて思った事もなかった。
本当に人生ってどうなるかわからない。
彩音は友達になる前と、後では大きく印象が変わった。
白鳥は水面下で必死にもがいている…というけれど本当にその通りである。
友達になって初めて、彩音が毎日サウナスーツを着て10キロ以上走っていたこと、普段のオヤツは冷凍フルーツだけなこと、ヨガに傾倒してたこと、お小遣いは全て美容品に費やしていた事を知った。
それまでは、彩音が生まれた時からああいう美少女なんだと勝手に思っていたけれど、全て彼女の努力の結果だった。
一言で言えば、引くほどストイックだった…。
少し雑誌を見てメイクをしたくらいで色々と努力した気になっていた自分が恥ずかしい。
自分はほとんど努力なんてしていないのに、彩音の事を勝手に『恵まれている』と思っていた事も。
そして、彩音は何故かインドに傾倒している。一度ヨガ教室で『ダルシム先輩』という謎のインド人か日本人か、男の人なのか女の人なのかわからない人を紹介された。
一度同じ部屋でヨガをしたら、何故かスカーサナ(胡座)のポーズをした時、後光が差している気がした。一体あの人は何者なのだろう…。
そして、私はだんだん人の目を見て話せるようになった。彩音は私の事を凄く可愛くなったと褒めてくれるようになったけれど、美少女すぎる彩音に言われてもという感じである。
彩音と一緒に皆が集合しているという校庭に向かっていると、
「新條さん!」と呼び止められた。
振り返ると、中学から高校2年の途中までずっと好きだった佐渡直人君がいた。
「…何?」私の代わりに彩音がちょっと嫌そうな顔で返事をする。
すると、佐渡君は
「俺は新條さんを呼んでるんだけど。宮野さんはちょっと外してくんない?」
と言った。
彩音は私に
「…終わったらlimeして。校庭で待ってるから。アルバム貸りていい?待ってる間、皆に書いといて貰うよ。」
そう言って、私のアルバムを奪うように持って、校庭にいってしまった。
「えーっと。佐渡君。どうしたの?」
私が困惑して尋ねると、佐渡君はニッコリと笑った。
「新條さん!2年の途中からめっちゃ可愛くなったよね。今だったらさ、俺、君と付き合っても良いかなとか思うんだけど、どう?」
…あれ?どうしてだろう。
私、この人の事、ずっと好きだったんだよね?
…ずっと、好きだった筈なのに、何故か全然嬉しくない。
…というか、付き合っても良いかなって何気に上から目線じゃない?どうしよう。むしろモヤっとするんだけど…。
「えーっと。…別に私は付き合わなくてもいいです…。」
気づくといつの間にか口からポロッと溢れていた。
私がそう言うと、佐渡君が迫ってきた。
「…はぁ?新條さんさぁ、陰キャだった癖にそんなこと言ってもいいのかなぁ?
snsに、ダサかった時の写真ばら撒いたっていいんだよ?」
え。どうしよう…。
…というか、佐渡君ってこんな人だったっけ。本当に自分の見る目の無さに呆れる。
(…怖い!)
目を瞑ったその時だった。
「…新條さん、大丈夫?!」
そう言って私の代わりに佐渡君の腕を掴んでくれたのは同じクラスの吉岡君だった。
目立たない真面目なタイプでいつも本を読んでいるから話した事はない。
「吉岡っ!…お前には関係ないじゃん!」
(ああ、どうしよう、吉岡君を巻き込んでしまう。)
そう思ってたら吉岡君が笑顔で
「僕、今の録音しちゃった。」
と言った。吉岡君がスマホのサイドボタンを押すと、
『……はぁ?新條さんさぁ、陰キャだった癖にそんなこと言ってもいいのかなぁ?
snsに、ダサかった時の写真ばら撒いたっていいんだよ?』
とさっきの佐渡君の言葉が再生される。
すると、佐渡君は『くそっ。』と言ってどこかに行ってしまった。
私は呆気に取られていたら吉岡君に
「…大丈夫?」と心配そうな顔で言われた。
「うん、大丈夫だよ。助けてくれてありがとう。」
そう言うと、吉岡君はガバッと頭を下げた。
「…ごめん!僕、君に言わなきゃいけないことがあるんだ。…ももたん。本当にごめん。」
そう言われて、私は目を見開く。私の事をそう呼ぶのはオタク仲間だけだったから。
吉岡くんは美術部で絵も上手いらしい。
仲の良い中学からの友達に『よっちゃん』と呼ばれている。
私がどうしても会いたいと言ったから渋々OKはしてくれたけど、『よっちゃん』は気が進まなそうな感じだった。
「…よっちゃん?」
「ごめん。会う事ないと思ってたからずっと女の子のふりしてて。でも、新條さんが事故に遭ってからももたんが君だって気づいて。
…僕で、ガッカリした?」
そう言って吉岡君は肩を落とした。
「ううん。よっちゃんは『よっちゃん』じゃん。今日、遊べるの、楽しみにしてたんだよ。駅前で予定通り待ってるからね。」
そう言うと、よっちゃんは目を見開いた後、
「…うん!」と言って笑った。
「ねえ、よっちゃん。私、よっちゃんと写真撮りたい!一緒に校庭行こうっ!」
そう言って2人で並んで歩き出した。




