【97】今度こそ…!!!
「…まま。泣いてる。だいじょうぶー?」
こうちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む。
(あー。こうちゃんの前で泣いちゃうなんて、母親なのに良くないな。)
そう思うのに涙が止まらない。
(神様。…これは本当に助けたって言えるんでしょうか。)
すると、無意識に念話になってたらしい。祥志から返事が返ってきた。
(栄子ー。どした?こうちゃんも一緒だよな…?ちょっと行くわー。)
そう言って家からすぐに出て来てくれて、私の顔を見てギョッとした。
「え、何で泣いてんの?!」
「めいあちゃん、どっか行っちゃったー。そしたらね、まま、泣いてるのー。」
こうちゃんが一生懸命説明しようとしてくれているが全然伝わっていない。
「祥志っ…メイアさん。消えちゃった。…というか。死んじゃったんだと思う。」
そう言うと、祥志は目を見開く。
「え、は…?し、死んだ?なんで?」
「それは…。」私が口を開きかけたその時だった。
「私が説明しましょう。」
フワッと風が吹いたかと思うと、神様が現れたのだった。
「…神様。どういうことですか。私、メイアさんが死んでしまうなんて聞いてないですっ!」
そう言って怒りを滲ませた。
すると、神様は申し訳なさそうに俯いた。
「…黙っていて申し訳ありませんでした。でも、これでメイアさんの魂自体は救われたんですよ。
これで、彼女は辛かった人生をやっと終わらせられて次の輪廻に入っていけるんです。ほら、まだここら辺に魂がいますよ。」
その言葉に私は顔を上げる。
「…じゃあ、メイアさんは今度はちゃんと幸せになれるんですか?」
すると、神様は何とも言えない顔をする。
「申し訳ありませんが、それはわかりません。」
…そりゃ生まれた後の努力とか色々あると思うけれど、でも、メイアさんの場合あまりにも気の毒だった。
それならば。
「それなら、せめて、私はメイアさんが次の人生で、彼女をめちゃくちゃ愛してくれる両親の元に生まれるように祈ります!」
そう言って『願いを叶える宝珠』をアイテムボックスから取り出す。
すると、神様は目を丸くする。
「…まさか宝珠を使うとは思いませんでした。」
(ケネスさん、すみません。事後報告になっちゃいますけど許してください!)
「神様、ロキさん!どうかメイアさんが次の人生で彼女のことを凄く愛してくれて、一緒に幸せに過ごしてくれる両親の元に転生させて下さい!」
そう言うと、宝珠が前回と同じように激しく虹色に光を放った。
そして、次の瞬間。フワッと光は白くなり飛び散った。
◇◇
あれから私は結構大忙しだった。
クリスピア3世一家の家を探したり、証明書を作ったり、スマホを作ったり、家具を探したり。
ハナヱさんとクリスピア3世を職安に連れていったり、メイアちゃんの小学校への転入手続きをしてあげたり。
両親が職探しをしている間、メイアちゃんは1人になってしまうので、ドリルを買って小1、小2の勉強を立花家で教えてあげたりしていた。
するとそのうち、メイアちゃんはすっかりこうちゃんと仲良しになった。
家事をしている間、こうちゃんとおままごとをしたりして遊んでくれるので、私としても助かっている。
ハナヱさんとクリスピア3世は私に結構感謝をしてくれているらしく、何度かご飯を奢ってくれた。
外向きには攻撃的な部分はあるけれど、一度身内認定すると、意外と人懐っこい人達らしい。
ちなみに日本名は『鳥喰クリス、ハナヱ、メイア』だった。
カーネルで『鳥喰』か。きっと、その『鳥』はフライドチキンのことだろうな…。
結局家は花山田商店街近くの3LDKのマンションに決まった。
広い家が好きかと思いきや、クリスさんもハナヱさんも意外にこぢんまりとした所も好きらしい。
ハナヱさんは一週間で美容師の仕事が決まったが、クリスさんの仕事探しはかなり難航していた。
しかし、気晴らしに鳥喰さん一家と一緒に遊びに行った竹下通りで、クリスさんはなんと大手芸能事務所にスカウトされて俳優になる事が決まった。
ちゃんと、食べさせていけるのだろうか。まあとりあえず日本円で1000万円あるので何とかなるかな…。
週末は公爵邸でやっと蟹クリームコロッケを作る事が出来た。
ケネスさんはもちろん、ニーナちゃんがめちゃくちゃ気に入ってくれて、『ムーンヴァレー王国の名物にしますわ!』と言って意気込んでいた。
―メイアさんが消えてしまってから2週間後。
私は、レオナさんの家に遊びに来ていた。
「栄子さん、最近忙しそうね。だいぶ落ち着いたの?」
そう言って、レオナさんは私が差し入れに買ってきたオレンジジュースとシュークリームを食べている。
「はい!鳥喰さんの家も決まりましたしね。クリスさんもハナヱさんも最初ちょっとワガママなイメージだったのでごねるかと思ってたんですけど、意外とすんなり決まりました。」
「そう、それは良かったわね。」
そう言って一緒にテレビを見ていたのだが。
「っ…!!!」
レオナさんは急に口を押さえてトイレに走っていってしまった。
あれ、もしかして、体調悪いのかな?
私は10分くらいレオナさんが戻ってこないので、心配でこうちゃんと手を繋いでトイレまで行って話しかけてみた。
「レオナさん、大丈夫ですか?」
「え、ええ。ちょっと気持ち悪くなってしまって。ごめんなさいね。」
そう言ってトイレから出てきた。
…え、もしや私の持ってきたシュークリームのせいだったらどうしよう…。
そう思って内心焦っていると。こうちゃんがジーッとレオナさんをみた後、お腹をなでなでし始めた。
「ままー!!!!めいあちゃん!今、ここにいるよ!!」
その言葉に私は目を見開く。
…もしかして。
―念の為、妊娠検査薬を買ってきて、レオナさんに使ってもらったら、陽性だった。
私は急いでサダオさんにlimeしてレオナさんを乗せて病院に行った。
待ち時間に慌ててやってきたサダオさんと固唾を飲んで診察を待っていたら、妊娠6週目と言われた。
小さな小さな赤ちゃんのトクトク…という心音を聞いて、不覚にも涙が溢れてきた。




