【95】真実を見つける旅⑥〜あの日のやり直し編
あの後私達は、山野家の方々にお礼を告げてムーンヴァレー公爵家に戻ってきた。
「栄子殿、コージ、本当に色々御苦労であった。
さて、クリスピア•カーネル殿。
私は70年後のムーンヴァレー公爵家の当主、ケネス•ムーンヴァレーである。
其方がニホンの者に憑依された原因は、公爵位と引き換えに自分の兄と父に渡した『願いを叶える宝珠』である。
この時代になってわかった事だが、あの宝珠が使用されると、『聖女の伴侶』はニホンの者に肉体を憑依される仕組みになっている。
当時の王家の者は、残念ながらそれに気付かず宝珠を使用してしまった。
だから、こうなってしまった責任はカーネル王家にも少しはあると言えるだろう。
…ということで、王家から日本での生活費の支援を約束させた!!
とりあえずこちらがもぎ取ってきた白金貨100枚だ。受け取るがいい。」
そう言ってケネスさんがニヤリと笑った。
…あー、良かった。お願いしておいたけれど、無事交渉がうまく行ったんだな。
複雑そうな顔をして渋々クリスピア3世はそれを受け取る。
「…兄上や父上は、私がこうなる事を本当にわかっていなかったのだろうか。」
うーん、多分本当は知ってたんじゃないだろうか。何回か聖女召喚されてるみたいだし、王家には多少なりとも資料が残っていたみたいだしね。
実際、現カーネル国王のフランク陛下は宝珠の代償に気付いてツンデレ王子のことを守ろうとしていたようだ。それもケネスさんに従った理由の一つだってシリウス君が教えてくれたんだよね。
まあ、一緒にレオナさんの例のお気に入りコレクションを見て意気投合しただけかもしれないが。
クリスピア3世の言葉に、ケネスさんは柔らかい顔で笑った。
「それは、私にはわからん。しかし、もうそんな事はどうでもいいではないか。其方にはもう大事な家族がいるのであろう?
子供はとても可愛いがな。育てて行くのはなかなか大変だぞ?其方も前を向いて頑張らねばなるまい。」
すると、少し目を見開いた後、クリスピア3世はクシャリと泣きそうな顔で笑った。
「…そうだな。私はこれから私の子を守り、これからキヌを異世界で守ってやらねばなるまい。
絶対に不幸になぞさせるものか。」
◇◇
「…言わなくて良かったんですか?自分のお父さんに。
私は貴方の娘ですって。」
私が尋ねると、メイアさんは自嘲気味に笑った。
「…そんなの言える訳ない。だって、パパが私がこんなに不幸になっているのを知ったら喜ぶ訳ないじゃない。」
「でも、きっと貴女に会えた事自体がすっごく嬉しいと思うんだけどな。」
私の言葉で、メイアさんは少し固まったあとこう言った。
「私、愛されたこととかないから、そんなことわからない。…でも、今日お父さんが、私の事守るって言ってるのを聞いて、少し…嬉しかった。」
言いながら、声を少し詰まらせた。
なお、メイアさんは現在我が家の居間で私達家族と一緒に夕飯を囲んでいる。
メニューはコーンクリームシチューだ。
小さい頃機嫌がいい時にキヌさんが奮発して作ってくれていたらしく、メイアさんの好物らしい。
ちなみに他の皆さんはムーンヴァレー家にお部屋を用意して頂いて宿泊している。
あの人数でうちに泊まられるのはきついし、メイアさんが流石にスタンピードの件で迷惑をかけた家に世話になるのは…と申し出た為だ。
「…とりあえず!いっぱい食べてください!沢山作ったんですよ!クリームシチュー!!」
気まずさを紛らわせようと私があえて元気な声で言うと、メイアさんは泣きそうな顔で頷いていた。
今日のシチューは飴色玉ねぎを作ってコーンと一緒にブレンダーで砕いたものを入れたからとっても美味しい。
たんと食べておくれ。
祥志も
「デザートにみんなでアイスでも食いましょう!!」
とどうにかメイアさんに元気を出して貰おうと頑張っていた。こうちゃんは普通に
「やったー、あいしゅあいしゅー!!!」と喜んでいたけどね。
◇◇
私は次の日もお休みを頂いて、メイアさんにとって運命の日である『カーネル公爵とアメリア•ムーンヴァレーが結婚したと号外が出た翌日』にやってきた。
なお、メイアさん曰く、聖女キヌとメイアさん親子がカーネル公爵家に現れるのは午前11時頃らしいので、公爵家に泊まっていた皆さんには9時半頃に70年前に戻って頂いている。
そして、少し時間が経つと、2人の親子がやって来た。
小さな女の子は手にお菓子のような物が入った袋を抱えている。
ああ、あれが小さい頃のメイアさんか。
チラッと今のメイアさんを見ると泣きそうな顔で女の子を凝視している。
「大丈夫ですか…?」と私が聞くと、頷く。
「きっと、私はこの日にずっと取り残されてきた。だから、見届けなくちゃいけない。」
そんなことを言っているうちに、聖女キヌが『開けなさいよ!!』と騒ぎ出した。
すると、『何事だ。』と言いながら太朗さんとアメリアさんが出てきた。
「何の騒ぎだ。」
そう言って親子を太朗さんが見下ろすと、聖女キヌはアメリアさんを怒鳴りつけた。
「この泥棒猫!私にクリスを取られた腹いせでしょ!いつか、ムーンヴァレー家に目にもの見せてやる。」
あー、聖女キヌ、こんな物騒な事メイアさんの前で言っていたのか。
…まあでも大好きだった人が他の女の人と結婚したのがめちゃくちゃショックだったんだろうな。
聖女キヌに怒鳴りつけられて、アメリアさんはキョトンとした後、クスクス笑い出す。
すると、聖女キヌは豆鉄砲を食らったような顔をした。
「な、何よ!何笑ってんのよ!」
「まあ!私が好きになった男はあんな人ではないわ!だから貴女にあんな人はお返しするわね!!」
「は?!あんた何言って…!!」聖女キヌは面食らいながらも何とか言い返す。
すると、太朗さんとアメリアさんの後ろからクリスピア3世が出てきた。
「…キヌ!!そして、私の娘…か?可愛らしいな!ずっと…ずっと会いたかった。」
そう言って、クリスピア3世が親子を抱きしめた。
幼いメイアさんは嬉しそうに『パパ!』と言っている。
「え、は?何…?!クリスが2人…?どう言う事?」
聖女キヌは混乱している。
するとアメリアさんが笑みを深める。
「貴女が数ヶ月一緒に過ごしたこの人はクリスピア3世ではないわ。ミウラタロウというニホンの人なの。
聖女キヌ。今の肉体にずっと憑依しているという貴女もこの意味がわかるんじゃなくて?」




