【94】真実を見つける旅⑤〜あの日のやり直し編
最初は大興奮で街や人を見ていた太朗さんだったが、やがて口数が少なくなり複雑そうに呟いた。
「80年でまさかここまで発展しているとはな。
…しかし、私は気付いてしまった。日本は米国に負けたのだな?栄子殿は黙っておったが、街を見ていたらわかる。
西洋の物が溢れておったからな。
複雑だが、…あの焼け野原から、日本人はようここまで頑張った。きちんと、飯もお腹いっぱい食べれているのだろう?」
「ええ。きっと、私達の親や、祖父の世代が頑張ったんだと思います。」
私がそう言うと、太朗さんは感慨深そうに、
「…そうか。」と呟いた。
山野家に着くと、桜さんとサダオさんが待ち構えていた。
「よう。来たな。…あんたがメイアさんか。」
そう言ってサダオさんが複雑そうな顔をする。
「こっちよ。
皆さん、こんにちは。私は山野桜と申します。
早速ですが、本題に移ります。
栄子さんから依頼があった通り、今回は私のスキル、『コピー』でクリスピア3世の肉体を二つに増やします。」
桜さんの顔を見て、メイアさんは目を見開く。
あ、気付いたんだな。
気まずそうに目を逸らした後、ボソリと言った。
「あの時は、…すみませんでした。」
「…いいのよ。私達も何も知らなかったとはいえ、無意識に貴女を傷つけるような事を言っていたのね。」
そう言って優しく微笑む。
「…では肉体のみをコピーします。こちらへ。」
そう言って太朗さんに触れると、パアアアっと白い光が溢れて、クリスピア三世の肉体が二つになる。
皆さんは固唾を飲んでその様子を見守る。
すると、たった今錬成された肉体の表情がみるみる歪んで元々の方の肉体に掴み掛かる。
「…貴様!!よくも今まで私の身体を乗っ取ったな!!」
あ、これは間違いなくクリスピア3世だ。ラミダスさんちに来た時の尊大さが健在である。
…良かったーーーー!!!コピー計画成功した!!
桜さんはホッとした顔をして、メイアちゃんは
「…嘘っ!!!」と小さく驚愕の声を上げる。
そんな中、悪びれもせず太朗さんはポリポリと頰を掻いた。
「まあ、確かに少しは申し訳ないとは思う。しかし、私には不可抗力であったしなぁ。気付いたら私も貴殿の肉体に入っていたのだよ。」
…ああ、太朗さんって基本いい人なんだけど悪気なく本音を言っちゃうタイプの人なんだな。
「しかも貴様!!アメリアなんぞと結婚しよって!私は私より賢い女がとても苦手なのだ!」
スルーしてクリスピア3世が太朗さんに食ってかかる。
お、おお。ある意味この人も正直だ。チラッとアメリアさんの方を見ても複雑そうな表情をしている。
「大丈夫。私は貴殿と違って賢いからな!!むしろアメリアのような賢い女子でないと話をしていてもつまらんわ!!はっはっは。」
「ぐぬぬぬぬ。」
太朗さんは悪気なくクリスピア3世を撃沈させた。あー、何も言えず、唸っちゃってるじゃないの。
さらに太朗さんは続ける。
「…ちなみに貴殿の選んだ女は申し訳ないが私はちょっと苦手だった。恋愛脳でワガママであるし。
ある日いきなり出て行くと言い出しおった時は困惑したのだが、正直『まあ、それならそれでいいかなー』なんて思ってしまったのだ。
あとから妊娠していたと聞いて少しは心配はしていたのだが…憑依する前だからあの女と子供が出来るようなことをした記憶も持っておらぬし。」
そう言うと、クリスピア3世は再び食ってかかった。
「なっ…!!よくもそんな事を言ってくれたな!あのワガママな所が可愛いのだろう!キヌは!!!貴様、身重のキヌにストレスが溜まるようなことを沢山言いよって!私達の可愛い子供に何かあったらどうするんだ!!」
それを聞いてメイアさんが目を見開いて固まっている。
そして、太朗さんも気まずそうな顔をしている。
「…まあ、それは確かに悪かったとは思う。妊娠を知らなかったとはいえ、出て行くことを容認するべきではなかった。他の方法を考えることも出来たかもしれんな…。」
うーん、まあでも、自分より賢いからなんていう理由でアメリアさんをぞんざいに扱いまくってクリスピア3世が言うのも微妙だけどね。
アメリアさんに記憶がなくて良かったよ。
どっちにしても、ここでアメリアさんと元々婚約してたとか言っちゃうとさらに話がややこしくなるから言わないけどさ。
結局この人に限らず、自分の身に降りかかってこないと、大事な人をぞんざいに扱われる辛さって、きっとなかなかわからないんだろうね…。
「お話の途中ですが、クリスピア•カーネル様。
太朗さんの中でお話は聞いていたかと存じますが、貴方の娘さんと元奥様が明日尋ねて参ります。
しかし、貴方と元奥様は既に残念ながらカーネル王国では離婚をされております。
さらに既に太朗さんは公爵として多大な功績を挙げてらっしゃる上にアメリアさんと正式に結婚されました。
成り代わるのは勿論出来ない上に、歴史も変わってしまいます。
残念ながらもう貴方には戻る場所はございません。
そこで選択肢をご提案します。
この世界のこの時代で、貧しい平民として奥様と籍も入れられずにやっていくか、今私達が来ている異世界のこの時代で家族3人で生きていくのだったらどちらが良いですか?」




