【87】昭和60年4月3日。
サダオさんの家で当時の話を聞いた後、桜さんがお昼ご飯にほうとうを作ってくれた。
おおお、一見鍋焼きうどんっぽいけれど、麺の一本一本に食べ応えがある。初めて食べたけれどとても美味しい。
かぼちゃも入っていてスープも優しい味だ。キジ肉も入っていて食べ応えがある。
サダオさんのお父さんはこうちゃんにデレデレだ。
「爺ちゃん、今度熊退治したらなぁ、コージに食べさせてやっかんなぁ!!!!」
と言ってずっと抱っこしている。
それをレオナさんはなんだか感慨深く見ている。
熊かー。食べた事ないけど美味しいのかな?なんだか和やかな風景である。
「そういえば、キヌさんってどんな人だったんですか?」
私がそう聞くと、桜さんは懐かしそうに笑う。
「穏やかな人だったわよぉ。戦争中も、ここは田舎だし空襲もなかったみたいだし、おまけに実家は農家でしょ?当時の人間としては珍しく生活もあまり困ってなかったみたいだし。伸び伸びと育った田舎娘って感じかしらねぇ。
結構美人だったのよ?近くの村でも評判だったみたい。」
そうなんだ。きっと、ラミダスさんの性格を見抜いて助けた人だし真っ直ぐに育ったんだろうなぁ。
ほっとする味のお昼を頂いて満足した後、レオナさんを残して私とこうちゃんは昭和60年に行くことにした。
「お昼ご飯ご馳走様でした。
桜さん、ほうとう、とても美味しかったので今度レシピを教えて頂けるとありがたいです。
レオナさんはサダオさんのご家族と是非親交深めて下さいね。
それでは行ってきます。」
桜さんが心配そうに『気を付けてね。』と言ってくれた。
私は、桜さんが見せてくれたアルバムの
写真をお借りしてこうちゃんに見せる。
「こうちゃん、この日に行ってもらってもいい?」
するとこうちゃんが笑顔で『いいよー。』と言った瞬間。いつもの謎の光が出た。
周りの景色が真っ白になり、目を開けると今とは外壁の色が少し異なる山野家の前に立っていた。
うーん、これ、多分まだ夕方になってなさそうだな。どうしようかなと思いながらテクテク歩いていると、昔ながらの駄菓子屋さんがあった。
うおおおおー、懐かしいっ!!!このアイスクリームの蓋付きケースよ!!まるでデカバツオの世界に入り込んだようである。
「ままー!あいしゅ!!あいしゅ!!!」
興奮したこうちゃんに促されるまま、ケースの中を見ると。
なんと今は亡きビエネッタがあるではないか!!!!これ大好きなんだよね!!なんでなくなってしまったのか。
私はある分だけビエネッタを籠に詰めて、さらにこうちゃんと食べる用にサクレレモンを買った。
この年代はまだ容器がプラスチックじゃなくて発泡スチロールだったんだな…。ああ、エモいよ!昭和!!
お店のお婆ちゃんがビエネッタの量を見て二度見していたけれど気にしない。買い物後、こっそり隠れてビエネッタをアイテムボックスに収納する。ああ、神様、ありがとうございます…。
駄菓子屋にあった時計を見ると四時だったので、アイスを割とゆっくり食べた後おむつ替えしてゆっくり山野家の方に戻った。うーん、ちょっと寒くなってしまった。
井戸と山野家の玄関を見渡すことのできる所に丁度物置があったので、物置の影に隠れつつそこら辺にある雑草を取って、こうちゃんと草対決をして遊ぶ。
やり方は簡単で、雑草をむしって、両手で草の端を持って、お互いの草同士を交わらせて引っ張りあって生き残った草がチャンピョン…という単純な遊びである。
遊んでいたら『夕焼け小焼け』の時報が流れた。おお。…ということは5時になったのか。
私は草の代わりにタンポポをむしり、『まま、じゅるいーー!』とこうちゃんに怒られつつ、井戸の方をガン見する。
すると、ボロボロのローブを着た中高生くらいの雰囲気の女の子(足の感じで判断)がやってきた。顔はよく見えない。
(これは怪しいー!!!!100パーセントこの人だ!でも、若すぎない…?聖女召喚されて一年位で魔王を倒して妊娠出産したとしたら、38歳くらいだよね…?)
そう思いながらもさりげなーくちょっとずつ玄関の方に近づいて行く。
女の子が呼び鈴を鳴らすと『はーい』と言いながら恐らくキヌさんかと思われる女性が出て来た。
うん、やっぱり、聖女になる人ってめちゃくちゃ美人なんだな。アレ…でも私も一応白属性なのに私って一体。。。
そんなことを思いつつ観察していると、女の子はキヌさんを見て明らかに固まっている。
「…あっ。」と言いかけるが言葉が出てこない感じだ。そりゃそうよね。行方不明のお母さんがいきなり出てきたらビックリするよね。
すると、若かりしサクラさんが出てきた。
「お母さーん、誰だった?ちょっとサダオ!!あんたは向こう行ってなさい!」
…これってさ。せっかくお母さんを見つけたと思ったら他に子供が出来ててしかもさ…。キヌさんがこの後。
「…どなたですか?」
はいアウトーーーーー!!!!言っちゃったよ、キヌさん。いや、まさか相手に自分が母親だと思われてるなんて知りようがないから仕方ないんだけどさ。あー、、泣いちゃってるじゃん…。
「…大丈夫ですか?良かったらうちで休んでいきます?」
「ちょっとサクラ!誰かも分からないのに!」
「だって…。」
あーあーあー…逆撫でするよ、こんなこと言ったら…。私が1人で戦慄していると…。
「触らないで!!!!!!!」
はい、キレたーーーー。そして竜巻みたいな風が起きた。
「あはははははは!!!!!!!」
なるほど…。こんな感じだったのか。思わず私は遠い目になってしまう。
すると、サダオ少年の目の前にスコップが飛んだ所で桜さんがズバッと聖剣でいっちゃいました…。
(え…。か、可哀想過ぎる。誰も悪くないんだけどさ。。ていうか、顔が見れてないんだけど。)
桜さんとキヌさんが『サダオ怪我してない?!』と言いながら慌てて家の奥に入っていったのでこっそり顔だけ見ようと近づくと…。
「…?!!」
なんと切られた部分が結構血も出ててエグかったのにニュルニュルと肉が蠢いて傷が塞がっていく。
慌てて動画で撮影しておく。神様に聞く時に役に立つかもしれないからね。
何これ。白の魔導書を最適化したから全部頭に入ってるけどこんなの知らない。
その時、玄関に誰か来る音がしたので焦って自分だけではなくローブの女の子まで引っ張って隠れてしまった。見つかったら仲間だと思われるか、変質者だと思われるかと思って隠れたんだけど。
「あれ…いない。」
桜さんの困惑した声が聞こえて、桜さんがいなくなったのを確認すると私はため息を吐いた。
「ヤバ。どうしよう、この人。」
とりあえずアイテムボックスに入ってもらってこうちゃんは抱っこ紐でおんぶして井戸を降りて行く。
そして異世界の例のお墓のあったあたりに降ろして狭間に念の為に結界を張っておいた。
ふうー!これで日本で悪さする事もないでしょう。
そっとローブのフードを取ると、15歳くらいの金髪の美しい女の子の顔が出てきた。
(え?え?え?!38歳くらいだよね?…若すぎない?というかかんわいいーーー!!芸能人か!!)
私は呆然としてしまうのだった。
そして、ふと桜さんの言葉が頭によぎる。
『死んじゃったらなんとなくモヤモヤするし、慌てて傷だけは塞いでおこうとは思ったんだけど。
消えちゃったのよ。忽然と。』
あ、すみません、犯人私でした…。




