【間話32】ただいま!!〜宮野彩音視点
〜宮野彩音視点
私は栄子さんに促されて立花さんの家に入っていく。
この家は異世界に召喚されてからもう何度も遊びに来ていたけれど、今日は意味合いが違った。『帰る為のゲート』として通らせて貰うからだ。
何度もニーナやシリウスと遊びに来た居間のテーブルを見て何故かツンと鼻の頭が痛くなる。
「彩音ちゃん、どうする?お茶でも一杯飲んでく?」
そう言われたけれど私は首を横に振って、少し早口で『大丈夫です!ありがとうございます!』と言った。早く自分の家に帰りたい。
「よーし、荷物は持った?じゃあ開けるよー。」
そう言って栄子さんがドアを開けた。
そこには帰りたくて仕方なかった見慣れた住宅街が広がっていた。
「お父さんとお母さんは授業があるから直ぐには帰れないみたいだけれど、一樹君は今家に向かってくれてるみたいだよ。」
そう言って栄子さんがニコニコした。
「今日はおばちゃんが家まで送ってあげる!ほら、行くよ。」
―震えそうになる足で外に出ると、懐かしい風景が目に飛び込んできた。まあ、召喚されてからまだ一年も経ってないから当たり前か。
晃志君と栄子さんが手を繋いで、私が隣に立つ様な感じで並んで歩く。
隣の家の沢口さんの奥さんが庭仕事をしながら話しかけてくる。
「あら、立花さんに、あらぁー、宮野さんのとこの彩音ちゃん?二人とも揃ってどうしたのー?」
そう言って、ハンターの様な目をしてこちらを見てくる。このおばさん、結構噂好きなんだよなぁ。
ゴミ出しに行くと結構根掘り葉掘り聞かれて、答えたことは近所に確実に広まってるんだよね。この人、絶対週刊誌の記者とか向いてるよ…。
でも、行方不明になっていたことを突っ込んで来ないから無事宝珠の効果が効いているようでホッとする。
「あ、沢口さんこんにちはー。今日は彩音ちゃんがこうちゃんに自分の小さい時の絵本を持って来てくれたんですよぉ〜。町内会のお祭りで仲良くなってー。」
栄子さんが咄嗟に誤魔化してくれる。
「あらぁー、そうなの。ところでこの前銀髪の外国人のご家族と栄子さん達が出かけていくのを見たんだけど。あの方達ってどういうお知り合いなのー?」
そう言って沢口さんがグイグイ来る。
あ、それって絶対ニーナ達だ。恐らくみんなで視察に行った時にたまたま見られたんだろうな。
「あー、私が学生時代ホームステイしてた時のホストファミリーの娘さん家族ですぅー。日本に遊びに来るって言うので観光案内したんですよぉ〜。」
…いや、栄子さん凄いな!!よくこんなにポンポン口から出まかせを言えるものだ。内心笑いそうになりながらも必死で耐える。
多分隣の家に住んでるから沢口さんの対応に慣れてるんだろうな。
「じゃあ私達これから一樹君と待ち合せしてるんでー。またお菓子持っていきまーす。」
そう言ってサクっと切り上げてくれた。
沢口さんにお辞儀をして角を曲がる。栄子さんが小声で、
「内心焦ったけど宝珠、効いてるよ!!凄いな、ロキさん!!」
と感心している。そして、公園を通り過ぎると懐かしの我が家が見えてくる。
なんだか胸に込み上げてくるものがある。すると、後ろから
「彩音!!」と声がして振り向くと、お兄ちゃんが立っていた。
「…っただいま!!!」
そう言ってお兄ちゃんに抱き付くと、お兄ちゃんがニッコリ笑って言ってくれる。
「おかえり。彩音。」
そう言って優しく頭を撫でてくれた。栄子さんはニコニコしながら見守ってくれていた。
その日は父も母も授業が終わったら直ぐに帰って来てくれて、四人で久しぶりにちょっといいお店に焼肉を食べに行った。
うーん!!!やっぱり日本のご飯は最高ー!!!
◇◇
次の日学校に行くと、呆気ないほど元通りだった。勉強は教科書ごと召喚されたから読んでいたし全く問題なくついていけている。席替えもされていなかったらしくホッとした。
授業が終わって廊下を歩いていたら、新條さんに会った。
「…宮野さん!!」
なんだか感極まった感じで呼ばれる。あ、新條さんにはこれ、記憶残っているな。
「…新條さん、眉毛、いいじゃん。」
「この前退院後に栄子さん達にお菓子持って会いに行ったら、ちょっとうちに寄れる?って言われて眉毛剃ってくれて!!もうー、眉毛イジっただけでこんなに顔が変わるならもっと早く手を出せば良かった。今度お化粧も教えてくれるって言ってくれたの!」
そう言って嬉しそうに笑った。
「…新條さん、明るくなったね。」
「…うん!!宮野さん、向こうでは色々ありがとう。」
「彩音でいいよ。私も桃花って呼ぶから。
戻ったら友達として会おうって約束したじゃん。」
私がそう言うと桃花は一瞬目を見開いた後、嬉しそうに『うん!宜しく彩音!!』と言って破顔した。
「よーし!!じゃあ放課後付き合って貰うよっ!」
そう言ってサウナスーツジョギングに参加させたら桃花はゾンビの様になっていた。
次の日、ご近所が顔をマスクで全て覆って走る変な人が一人から二人に増えた!!とざわついていたのを私達は知る由もない。




