【84】お見舞いプリンと彩音ちゃんの異世界生活最後の日。
次の日、私は午前中に溜まった家事を片付けた。最近忙しかったから結構部屋の掃除がテキトーだったんだよね…。
ちなみに報奨金のことを祥志に話すと『うおおおおおーー!!!俺、転職しちゃおうかな!!ブロックビルダーに!!!』と血迷った事を言い出したので全力で止めておいた。
日本にまだ1人とかしかいない職業に転職するとか言うのは辞めてほしい…。せめて、内定貰ってから転職するならいいけどさ。
そして、午後1番にこうちゃんと病院に行ってヨルムさんをお見舞いして来た。
割と自由にお見舞い出来るとのことなので、個室にして良かった。大部屋だとコロナ禍なのでさすがにもっと厳しいそうだ。
「体調はどうですか?」
「ああ、僕は竜人だからね。もう手術の跡も完全に塞がって黒川先生も驚いてたよ。もう明日退院していいそうだ。いやー、栄子さんがlimeで送ってくれた魔瘴石もビックリしたよ。あんな色してたんだね。恐らく実物を見たことがあるのは僕らだけじゃないかな。」
そう言って嬉しそうに笑った。
「あ、これ。良かったら一緒に食べましょ。さすがに入院中はお酒はダメなんでプリンを持って来たんですけど。」
「プリン…?初めて聞く食べ物だ。じゃあ食べてみる。」
パク。一口食べてヨルムさんが驚いた顔をした。
ふっふっふ。ここのお店のプリンはトロトロでカラメルも甘さ控えめで絶品なのだ。
「…めちゃくちゃ美味しい!!!うわぁー、うわぁー!!!!これ、家族にも食べさせたいや。これ、明日元の世界に戻ってしまう前にお店に寄ってもらっていいかなっ?!」
そう言って大興奮している。
「もちろんです。いっぱい買って帰りましょ!リーヴァちゃん喜びますね。」
そう言うとヨルムさんはめちゃくちゃ嬉しそうに破顔した。
「まあ退院後も何かあったら連絡してよ。僕も連絡するからさ。神様達が言ってた件、なかなか大変そうだし何か僕に出来そうなことがあれば言ってね。」
と言ってくれた。
とりあえず明日の10時に退院できるということなので、また迎えに来る約束をして午後2時くらいに病院を出た。
さて。それでは。
いよいよ彩音ちゃんを迎えに行きますか。
◇◇
ピンポーン!
家に帰るとインターホンが鳴った。
「はいはーい!」
玄関に出ると彩音ちゃんがいた。
「栄子さん…!!準備できました!」
そう言って期待と不安が入り混じったような顔で彩音ちゃんが立っている。
その後ろにはズラッとムーンヴァレー公爵家の皆さんとライゼンさんが立っていて、私を見るとにこやかに手を振ってくれた。
「ほら、彩音ちゃん。最後の挨拶してこよう。まぁ、土日ならいつでも遊びに来れるけどね!」
私がそう言うと、もう既に彩音ちゃんは泣きそうだ。
「公爵様。ダイアナさん。長い間お世話になりました。私、公爵邸に来れて異世界で初めてちゃんと息が吸えてる気がしました…。皆さん私の言葉に耳をきちんと傾けてくれて…。」
「フッ。私達は当たり前のことしかしてないさ。どうか、達者でな。またいつでも遊びに来るといい。」
そう言ってケネスさんは柔らかい顔で微笑んだ。その隣で、ダイアナさんがウインクする。
「もうアヤネの事は娘のように思っているからね!親戚になるのを楽しみに待っているわよ!」
ん?親戚?どう言う事だ?
「アヤネ様、これからも色々と姉と僕のことを宜しく頼みますよ!」
そう言ってシリウス君が彩音ちゃんに頭を下げる。
うん?さっきから親戚になるとか色々意味深だな。
そして、ニーナちゃんはというと…。
「アヤネーーーー!!!!」
そう言って絢音ちゃんに抱きついてボロボロ泣いている。
「大好きですわああーーーーー。しばらく毎日会えなくなってしまうんですわねええ。」
そんなニーナちゃんを彩音ちゃんが抱きしめ返す。
「ニーナ。もうー、兄弟2人して学院を卒業したらこっちの世界に留学するんでしょ?だからそんなに泣かないでよー。」
え、日本に留学するの?2人とも?
大学からってこと?
私はビックリして目が点になる。
「…ということで栄子殿!これからもまた色々宜しく頼む!」
そう言いながらケネスさんが私に頭を下げて来た。
お、おう。…まあいいけどね。2人ともいい子だし。
「それより、親戚になるってどう言う事ですか?」
私が聞くと何故かライゼンさんがニヤッと笑った。
「アヤネ殿の兄上な、俺んとこの養子に貰うことになったんだわ。うちは武力に力を入れてるんで、医療もこれから伸ばしていかなきゃならねぇしな。
で、大学を卒業したら、ニホンと行き来してケンシューイしながらニーナと結婚する予定だ。辺境伯家からムーンヴァレー王家への婿ってことでな。
ほら、そしたらアヤネ殿とムーンヴァレー家は親戚だろ?」
へっ?!!
「あ、彩音ちゃん?!それって宮野さんの親御さんは大丈夫なの?!長男が養子だなんて!」
「え、大丈夫ですよ。だって、異世界ですよ?日本ではこのままお兄ちゃん宮野ですし、日本での表向きはニーナがお嫁さんになるわけですし。
世間の人達はお兄ちゃんがまさか異世界で養子になってるなんて知るわけないじゃないですか。どうせ日本と行ったり来たりするんですし。」
あ、確かに…。ちょっと動揺してしまった。
とりあえず、なんだかうまく行きそう!!良かったね。
「よし。それじゃあ宝珠を出しまーす。」
そう言って『願いを叶える宝珠』をアイテムボックスから出す。すると、虹色の光が辺りを照らす。
ゴクリ…。
「神様、ロキさん。
一つ目の願い事です。どうか彩音ちゃんが日本に帰っても支障がないように。日本にいる人達の彩音ちゃんが行方不明になってたという記録、記憶を異世界関連の関係者以外から消し去って下さい。」
そう言うと、宝珠が激しく光を放った。
次の瞬間。フワッと光は白くなって飛び散った。




