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料理好きの主婦、週末は異世界でシェフになる。  作者: 間宮芽衣(旧ブー横丁)


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【間話31】私は『死』を求めて旅に出る。〜メイア視点


◇◇メイア視点


 幸い、私は捕まらなかった。この国での成人年齢は16歳だ。15歳の私を売った事をバレたら闇商人も捕まってしまうので黙りを決め込んでいるようだった。


(どうしよう。ママ。私、沢山の人を…殺しちゃったよ。)


 死のうと思ったけれど、私の胸には何も刺さっていかず死なない。何かに弾かれているようだ。


 歳を取らない。


 まるで、『お前が人を殺したことを絶対忘れさせてなどやるものか』と突きつけられているような気がする。


 苦しい。もう楽にして欲しいのに死ねない。


 あれからパパが一体なんと言う名の貴族だったのか知りたくて新聞や図書館で調べた結果、ママが異世界から来た聖女で第二王子であったクリスピア殿下と結婚していたのだと知った。


 ()()ママが聖女だったなんて驚きだ。


 そして、2人は『真実の愛』で魔王を倒したくせに、パパはある日豹変してアッサリと我儘だったママを手放した。


 それで、生まれたのが私だったと言うわけだ。


 ママは今思えばもう私を育てていた頃には精神的にやられていたのだろう。そして、パパの話をする時、『夢見るような顔』だったのは、そう思う事で自分を保つ為だったのかもしれない。


 だが、現実にムーンヴァレー家の令嬢と再婚のニュースが報道されて、ママは壊れてしまったのだと思う。元々精神的にあんまり強い人じゃなかったから。

 

 私は『死』を求めて旅に出た。


 冒険者として登録して、モンスターを倒して日銭を稼いだ。


 聖女の力を反転させて、『死』を与えるのは簡単なことだった。


 人やモンスターを簡単に殺せるのに、自分は死ねないなんて皮肉なものだ。


 そして、誰よりも心が死んでいる私が不老不死で若く美しいまま生き延びているなんてもうなんだか笑えてくる。


 ローブで美しい顔は見えないようにずっと覆っていた。それでも偶に顔を見られて言い寄られたことが何度かあった。


 度が過ぎる行動をした者は殺した。段々感覚が麻痺して来て、『殺す』ことに私は抵抗を覚えなくなってきてしまった。


 私が父や母、誰からも愛されずに育った為、誰かを愛する事はなかった。


 そんな中、ギルドである冒険者が『異世界の狭間』について話しているのを偶然耳にした。


「本当にそんなものが存在するのか?」


「ああ。ただ、『白』の魔力が一緒の者がいないと通り抜けれないらしい。」


「ああ、そう言う事か。残念だな。聖女キヌは行方不明になっちまったっていう話だし、もうこの世界には『白』属性を持つやつなんていねぇだろ。


 異世界にしかないもんを持って来て売りゃあ、金持ちになるのも夢じゃないかもしれないのになー。」


ははははは…と笑う冒険者達を見ながら私はボンヤリと異世界について考えた。


 ママが住んでいたという異世界。こんな辛いばかりの世界よりマシかもしれないし、もしかしたら死ねるかもしれない。


 そう思って、私は密かに『異世界の狭間』を探すことにした。


 そして何年かかけて、バルガン辺境伯領とムーンヴァレー領の間の森の洞穴の中に『異世界の狭間』を見つける事が出来た。なんと、階段になっており人が出入り出来るようになっていた。利用した痕跡もあった。

 

 不思議な事に異世界の血が入っているからか、出入りされた魔力の痕跡などを感じる事が出来た。


 最初は分からなかったが、どこか静謐な感覚とでもいうのだろうか。


 私はそこの狭間の中に入りどんどん上を目指して登っていくと、やがて井戸のような所に出た。


 すると、私のいた世界では見たことのないような素材を使った家がポツンと建っているのが見えた。


 何かの野菜の畑が一面に広がっている。どうやら農家のようだ。


 呼び鈴を鳴らすと『はーい』と言いながら年老いた女性が出て来た。


 それを見て、私は息を呑む。


 間違いない。ママだ。どうして?下町で男と心中したんじゃなかったの。


「…あっ。」


 言葉に詰まっていると、後ろから若い女性が出て来た。


「お母さーん、誰だった?ちょっとサダオ!!あんたは向こう行ってなさい!」

その女性はママにそっくりで。隣にはずんぐりした男の子が隠れている。


 そして、ママは警戒した目で私を見て言った。


「…どなたですか?」


その瞬間。色んな感情が溢れ出した。

 ああ、この目はあの日のパパと同じ。


 どうして。どうして。どうしてどうしてどうして。どうして私だけが独りぼっちなの。


 泣きたくないのに嗚咽が漏れる。その様子をママと恐らく娘だろう女性が困惑した顔で見ている。


「…大丈夫ですか?良かったらうちで休んでいきます?」

「ちょっとサクラ!誰かも分からないのに!」

「だって…。」

手を伸ばされて思わず叫ぶ。


「触らないで!!!!!!!」


次の瞬間。


 魔力が暴発して周りにある物がまるで竜巻にでも巻き込まれたかのように渦を巻きながら浮き上がっていく。


 ママは慌てて結界を張り、サクラと呼ばれた女性はサダオ、という男の子を庇う。


 それを見て絶望と憎しみが湧き上がる。これ以上の苦しみはないとずっと思っていたというのに。

 

 ママは、私の事は首を絞めたのにこの人達のことは庇うんだね。


「あはははははは!!!!!!!」


 玄関に立て掛けてあった鍬がサダオという男の子に向けて飛んでいくが、結界で弾かれてしまう。


「…チ!!!」


 すかさず今度はスコップを飛ばそうとしたら、サクラという女性に『聖剣』で刺された。


(…ああ、そっか。ママの娘だもんね。聖剣くらい出せるか…。)


失っていく意識の中で、私は男の子が泣きじゃくる顔を見ていた。


 ―目を覚ますと、狭間の入り口に転がされていた。

 傷口は勝手に癒えていた。…まさか、聖剣で刺されたのに死ねないなんてね。


 狭間に触ろうとすると、強めの結界が張られていた。恐らく突然来た私が襲ったからであろう。


(あはは、バカみたい。)


 私は泣きながらその場を後にした。


 それ以降、気まぐれで何年かに一度狭間に来るようになった。


 そして、さらに数年が経過した。


 そこにはお墓があった。


―山野キヌ、ラミダス ここに永眠する。


 パパの隣には、銀髪の女性。

 ママのお墓の隣には違う男が眠っている。


 それを見て沸々と何かが込み上げて来た。これは『怒り』だ。


 私は感情に任せて、お墓を暴き、骨をぶちまけた。

「ふぅー、ふぅー。」


 感情がグチャグチャで上手く息が吸えない。

 

 どれくらいそうしていただろうか。数時間後、骨が突然ボコボコと浮かび上がり、這っていたミミズが光り、巨大なモンスターとなった。


 私はニヤリと笑って、反転の魔術を使う。

 その瞬間、巨大なミミズは跡形もなく消え去った。


「ふーん、この骨、モンスターになるんだ。この人一体何者?…ま、どうでもいっか。」


 そして、脳裏には『あの日』のママがフラッシュバックする。


『ムーンヴァレー家に目にもの見せてやる』


 ああ、それもいいかもね。


 私の()()()()()()()の家の者達を、()()()()の骨で殺してやる。


 こんな世界、死んで逃げ出す事すら出来ないなら、いっそなくなってしまえばいいのに。


 私は残った骨を持って、夜の闇に消えていった。


 

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