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【間話30】私が初めて人を殺した日〜メイア視点

※センシティブな表現があります。


◇◇メイア視点


 私の名前はメイア。カーネル王国の下町に住んでいる平民だ。


 ママはキヌっていうちょっと変わった名前である。夢見るような顔のママに、パパは王子様でママを一番に愛していると毎日聞かされていた。


 生活は貧しかったし、ママは夜にどこかで働いていたけれど、昼間はずっと一緒にいてくれたから寂しくなかった。


 でもパパが王子様なのになんで私は平民なんだろう。

 きっといつかパパが私とママを迎えに来てくれるに違いない。そうだよね…?


 夜はママがくれた『白の魔導書』でこっそり魔法を練習してみたり。


 いつかパパに食べさせてあげたいから、一生懸命塩ビスケットを作る練習をしたりした。


 ところが、ある日ママの様子がおかしくなった。


 ママは元々情緒不安定で、いきなり泣き出したり怒ったりする事は多かったけれどこの日はあからさまだった。


 英雄と呼ばれる公爵様が再婚したというニュースが号外で流れた日だ。


 ママは私にいきなり『明日パパに会いに行く。』と言った。ビックリしたけれどパパに会えるのは嬉しかった。


 私は一生懸命ビスケットを作った。


 次の日、ママは私の手を引いて大きなお屋敷の前に行った。


 ママが『開けなさいよ!!』と騒ぐと最初守衛の人達に止められていたけれど、そのうち『何事だ。』と言いながら綺麗な顔の身なりのいい男の人と、銀髪の女性が出て来た。


「何の騒ぎだ。」

そう言って男の人は私を冷たい目で見下ろしている。


 ねえ、ママ。この人達は誰?


「この泥棒猫!私にクリスを取られた腹いせでしょ!いつか、ムーンヴァレー家に目にもの見せてやる。」


女の人にそう言いながらママは泣いている。


 …クリス?いつもママが言っていたパパの名前。

じゃあこの人がパパなの?

 

 ねえ、どうしてママじゃない女の人といるの?


 私はショックで男の人を睨み付けた。すると男の人がきまり悪そうな顔で言った。


「私は君を聖女キヌと作った記憶がないんだ。どうしても我が子だとは思えん。」


我が子だと思えない…?どうして?


 ねえ、私パパと話すの楽しみにしてたんだよ。いっぱいビスケットを食べてもらいたくて練習したんだ。


 ねえ、どうしてそんな顔でこっちを見るの。


 泣きながら踵を返すママ。


 私は必死でついて行った。


 追いかけないと、ママが消えてしまう気がして。


 ズシャア!


 大人のママに追いつくのは大変で、ぬかるみに靴がハマって転んでしまい、服が泥だらけになってしまった。


 ポケットに入っていたパパに食べて貰いたくて作った塩ビスケットも落ちてしまった。


 慌てて取ろうとしたら、側を歩いていたおじさんがビスケットを粉々に踏み潰した。


「あ!!!!」

思わず声を上げたら『なんだぁ?この汚らしいガキが!』と吐き捨てて去って行った。


 …ねえ、パパ。どうして?『美味しいよ』って言ってビスケットを食べて、私のことを抱きしめてくれると思っていたのに。


 どうして。


 その日、ママが帰って来たのは明け方だった。泣き腫らした目にお酒の匂いがプーンとした。


―その日以降、ママは笑わなくなって何ヶ月かのスパンで変わるママの彼氏が家に泊まるようになった。


 子供の頃は邪魔者扱いされて外に追い出されるだけだったけれど、13歳を超えてから、ぬるっとした目で見られるようになった。


 ある日、ママが少しいなくなった隙にママの彼氏が私に無理矢理キスをしようと迫って来た。


「嫌だ!!嫌だよ!!誰か助けて!!」


必死で抵抗していたら、ママが戻って来て、呆然とこっちを見ていた。


「ママ!!…ママ!!!」


思わずママに怖くて抱きついたら、虚な目のママにガシッと肩を掴まれたあと、首を絞められた。


「…あんたも!!!!アンタも私から男を奪うの?!!」


 苦しい。くるしい。


 死んでしまう。


 ねえ、ママ。あの時みたいに笑ってよ。笑いながらパパの話、してたよね。


『あの日』から全てがおかしくなった。


 ねえ、どうして。どうしてママは変わってしまったの。


 私は首を絞められながら涙を流した。


 ―それからは記憶が曖昧だ。


 逃げた私はパパとママに似た綺麗な顔に目をつけられて闇商人に捕まって娼館に売られてしまった。


 娼館のオーナーのおじさんは、『コイツは高く売れるな。』と言い、あっという間に私の水揚げが決まった。15歳の時だった。


 無理矢理着替えさせられて、豪華な部屋に閉じ込められて、下卑た顔の男が私にのしかかって来た。


(嫌だ!嫌だ!!!!!)


私は泣きながら『こんな人達いなくなっちゃえばいい。』と祈った。


 すると、真っ白な光が建物を包み、男は血を吐き動かなくなった。


 慌てて部屋を出ると、建物内にいた人達全てが血を吐いて倒れていた。

 

「うわああああ!!!!」


 私が初めて人を殺した瞬間だった。


―その日から私の肉体の成長は止まってしまった。


 私は気が狂いそうになりながらも逃げた。


 逃げた街で読んだ新聞の見出しには娼館で起きた惨たらしい殺人事件について書かれ、片隅には下町に住む女性が男と一緒に無理心中したことが書かれていた。


 その女性の特徴はどこかママと似ていた。




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