【80】とんでもない『ご褒美』〜ブラウンボアのすき焼きを添えて
「はぁー、ただいまー!!あ、ヨルムさん、お先にお風呂どうぞー。」
家に帰って、だらーんとする。ふぅ。結構疲れたな。
今日はヨルムさんはうちに泊まる予定だ。
「いやー、なんだかすみません。じゃあ入らせて貰いますね。」
そう言ってヨルムさんはそそくさとお風呂場に向かっていった。
「明日は、いよいよヨルムさん手術かー。なんか、あっけなかったな。」
祥志がジュースを飲みながら呟いた。
「確かに。でも、良かったよー。根治出来そうで。とりあえず明日行く前にデスペルヨルムさんにかけて、手術が終わったらすぐ魔瘴石を回収しないとね。」
「今日夕飯何にすんの?」
「今日はブラウンボアがあるからすき焼きにするわー。楽だし。さっきヨルムさんの買い出しのついでに材料買っといたんだよね。」
そう言うと祥志はテンションが上がったらしく喜んでいた。
さて。まずはお米を先に炊いて割下を作っておく。
みりん、しょうゆ、お水を100gずつ混ぜ、30g砂糖を入れる。ちょっと甘めで美味しい割下が簡単に出来る。
あとは具材を切り分けるだけだ。ブラウンボアを薄切りにし、春菊、白滝、えのき、白菜、水切りしたお豆腐、椎茸、人参、たまねぎ、牛蒡、長ネギなどを用意する。
よーし、あとはお鍋で火を通すだけで完成だ。
ヨルムさんがお風呂から上がったら始めようかななんて思っていると。
「ピンポーン」と音が鳴り、インターホンの画面を見て私は絶句した。
そこには神様がいたのだ。しかも双子で。慌ててドアを開けて、祥志と一緒に出迎える。
「か、神様!!それに弟さんまで!どうしました?」
すると、神様は
「魔王と無事和解してくれたご褒美をあげようと思って。はい、ロキ。出して。」
あ、弟さんロキさんっていうのね。今更ながらに名前を知ってしまった。
神様が凄むと、ロキさんは不貞腐れたような仏頂面で虹色に輝く球を渡してきた。
(…え。なんかヤバそう。)
「…何すか、これ。」祥志が聞くと神様が笑顔になる。
「ロキの最高傑作、『願いを叶える宝珠』だよ。神力を集めて頑張って作ったんだもんね?ロキ。ちなみに三つまで願いを叶えられます。」
ぎゃーーーーー!凄いけどそんなにヤバそうなものこんな庶民の家に持ってこないで!!
「こ、こんな大層なもの、貰っちゃっていいんですか?」
私がチキンを発揮して引き攣った顔で言うと、神様が
「いいのいいの!!めちゃくちゃ迷惑かけたし!君達なら正しく使ってくれそうだしね。それと、ロキ。立花家の皆さんに言う事があるよね…?」
と言った。
すると、ロキさんは、
「…すいませんでした!!!!!」
と大きな声で言った。
何だろう…。なんか、万引きした息子を店員さんに謝らせる親御さんのようだ…。
「…こうちゃんと祥志に何か黒いやつを打とうとしたのは腹が立ちますが、もう危害を加えないと約束して下さるなら…。もう、いいですよ。」
そう言うと、ロキさんがちょっと驚いた顔をしていた。
「いいのかい?」
「まあ。結果、何もなかったんで。何かあったら許せなかったと思いますけど。」
そう言うと、落ち込んだ顔をしていた。
それがちょっと可哀想に思えてしまい、気がつくとこう言っていた。
「…良かったらすき焼き食べていきません?」
◇◇
「頂きまーす!」
ああ、グツグツ甘辛い割下でお肉が煮えるすき焼きの匂い…。ワクワクしながらお鍋を覗き込む。
これを生卵とご飯と一緒に食べると最高なんだよね。
目の前には神様、ロキ(神様の双子の弟)さん、ヨルムさん(魔王)。
考えてみると豪華メンバーだな。
ヨルムさんは日本酒と一緒にすき焼きを食べて至福の表情を浮かべている。
「今回はどうして来てくださったんですか?宝玉を渡す為にわざわざ?」
私が聞くと、神様は微妙な顔をする。
「それもあるけどね。聖女の力を悪用している者がいる。」
「…へ?神様に選ばれたのにですか?」
祥志が聞くと首を横に振る。
「…僕が選んだ子にロキが日本人を憑依させた人物の子供だ。」
神様がそう言うと、ロキさんは縮こまる。
「…ちょっと僕、やらかしちゃったらしくてさ。」
そう言って落ち込んでいる。
「聖女キヌとクリスピア3世の娘だよ。彼女はムーンヴァレー家のみならず、『世界』を憎んでいる。
彼女は小さい時から白魔法を学び、それが憎しみで効果を反転させるようになった。
例えば、生き返らせるのではなく『死』を招き、怪我を治すのではなく悪化させることが出来るようになってしまったんだ。
彼女は今は身を隠しながら生活をしている。
このままでは異世界を滅ぼしかねない。
どうか彼女を助けてやってほしい。」
「…そこは『倒してくれ』じゃなくて、『助けてくれ』なんですね。」
祥志がそう言うと、神様が頷いた。
「うん。これは僕達の責任でもあるんだよね。
彼女は加害者でもあり、被害者でもある。助けてやって欲しい。この宝玉はその対価でもあるから、遠慮なく貰ってね。」
…あ。なんか嫌な予感しかしない。




