【間話29】人生色々。〜月谷レオナ視点
◇◇月谷レオナ視点
今日は人生最良の日です。
一昨日の自転車の練習から何故かサダオさんが私を『姉ちゃん』ではなく、『あー…レオナ。』と恥ずかしそうに呼んで下さったのです!!!
かーわーいーい!!この熊さんのような容貌でこんなに照れるなんて、何ですか、その可愛らしいギャップは!!心の中で悶絶しながら2人でずっと自転車を練習しました。もうデートですね!これは!!
私、虐げられるのが好きかと思ってたのですが、サダオさんは私にずっと親切なのにどんどん好きになっていきました。
よく考えたら、クリスピア様には19年も軟禁されておりある意味めちゃくちゃ虐げられてましたが、全く好きにならなかったですもんね。
結局私はサダオさんだから好きみたいです。
そして、昨日、自転車で転びかけた私を抱きとめてくれたサダオさんにどさくさに紛れて「…好きです。付き合って下さい!!!」と告白したら。
固まったサダオさんに、
「えっと、…本気か?」と聞かれたので、
「もちろんよ!」と答えると、少し間が空いてから、
「…じゃ、じゃあ俺なんかで良ければ。」
と動揺してお顔を真っ赤にして言ってくださったのです!
きゃーーーーーーーーーーー!!!栄子さんに相談して良かったです!!!
軟禁されること、苦節19年。
遂に、初カレゲットですわーーーーーーーー!!!
…まあ、結婚してたのに初カレというのもどうかと思いますが。
そして…。昨日の夜は、どうせ明日一緒にミューラ伯爵家に行くのでという口実で。そのままサダオさんのお家に泊まらせて頂き。紳士でいようとしてくださったサダオさんを無理矢理力技で押し倒し!
ついに…!遂に実践しました!!!長年予習し続けた、あんなこと、こんなことを!!!ビックリしたサダオさんのお顔がとても可愛くて何度もときめきました。
うふふふふふふふふふふふ!!
大満足な私を尻目にサダオさんが心配そうな顔であれこれ世話を焼いて下さいます。
「あー…。一応、今日は自転車に乗るからよ。回復魔法かけといてやる。」
そう言ってサダオさんが私の肩に触れると、パアッと私の全身が光り、めちゃくちゃ体調が快調になりました。
優しい…。でもそんな所も大好きですっ。
今頃エーコさん達は魔王の元へ向かっているのでしょうか。これは私達も頑張らなければいけませんね。
◇◇
ミューラ伯爵家に着くと、当主のロバート様が出迎えてくれました。ケネスの方から既にムーンヴァレー家の者が訪問をすることに関して連絡がいっていたようです。
「これは…!!!レオナ様!ご無事だったのですね。」
と言ってロバート様は驚いています。あら、そうでした。私、この国では姿を消したことになってたのでした。
すっかり忘れていました。
人払いをして頂き、今回のスタンピードについてお話ししました。
「魔王ラミダスの骨を我が家の池に投げ込まれ、危うく我が家でスタンピードが発生しそうになっていたのです。
そして、ムーンヴァレー家は今、その骨を投げ込んだのが誰なのか探っています。
今の所恨まれるような覚えは無いんです。
強いて言えば我が家が祖父の代からいきなり資産を増やしたことへの逆恨みかもしれないと考えました。
そして、二毛作や二期作等画期的な農業改革を我が家に教えてくださったのはミューラ家だったと。
そして、聖女様等から聞き取りを行い、その知識は『異世界のもの』だという結論に至りました。
そこで、もしかしてミューラ家の誰かに異世界の人間が憑依していたのではと思ったのです。」
そこまで一気に話すと、ロバート様が蒼ざめています。
「あ、あの…。」と言いながら何を話そうか迷っているようです。
「…昔、貴家に我が家の娘が嫁入りしていますよね?その時の情報が何故か公爵家にはあまり残っていませんの。ミューラ家には残っていませんか?」
そう聞くと、暫く沈黙してからロバート様は観念したように「ふぅー。」と息を吐きました。
「違いますよ。ムーンヴァレー家の令嬢が嫁入りにしたのは正確には我が家ではありません。
あなたの3代前のご令嬢が結婚したのは、私の曽祖父、クリスピア・カーネル3世が一代限りの公爵位を頂いた時です。」
え…。クリスピア・カーネル3世って。私がチラリとサダオさんの方を見ると、サダオさんが微妙な顔で頷いています。
「えーっと。その方は確か聖女キヌ様の伴侶でしたよね?それが、私の三代前のムーンヴァレー家の令嬢と結婚?どういうことなの?」
そう聞くと、ロバート様はポツリポツリと夢を叶える宝珠によって消えてしまった人々の記憶や記録について話し始めました。
なんと、元々クリスピア3世は当時のムーンヴァレー家の令嬢の婚約者だったらしいのです。
ただ、クリスピア3世は王族が宝珠を利用した時から別人になってしまったとのことです。
そして、聖女キヌと離婚してなんの因果か記憶の消えたムーンヴァレー家の令嬢とクリスピア3世が再婚した、ということでした。
その時、なんと聖女キヌ様のお腹の中には子供がいたそうです。
「それは…!!その子は…。母であるキヌ様が平民になった上、お父様が別人になってしまって庇護して貰えなかったということ…?」
サダオさんも、
「そいつぁ気の毒だな…。」と何とも言えない顔をして呟きました。
その子は一度私の先祖である令嬢とクリスピア3世に会った時、恨みのこもった目で2人を睨みつけていたそうです。
もし生きていたとしたら、もうかなりの年齢ですが、恐らく辛い人生を送ってきたことでしょう。
「…レオナ様。例えば骨を投げ入れたのが本当にその人だったとしたらどうなさりますか?
私は、その人がずっと気の毒だったのです。誰が悪い訳でもありませんが。
それでも父に愛されず平民となり辛い人生を送ったであろうその子が。
勿論、本当にスタンピードを引き起こしたとしたら、重罪でしょうが、その人が犯人だったとなると、いよいよ不幸な人生を送っていたんだな、という裏付けになってしまうような気がして、何とも言えない気分です。」
そう言ってロバート様は俯いたのでした。
なんだか、朝までの浮かれていた気分が萎んでしまった私でした。
誰かが生まれた時に、亡くなる人も当然います。
私が浮かれていた時に泣いている人もいるでしょう。
本当にこの世には色々な人生があるんだな、と当たり前の事ですが、突きつけられてしまった気がしたのです。




