1.5 目覚め
ラナーを連れていかれたトピ達。 突如として現れた強大な敵を前にDは倒れ、トピは戦闘継続不能な程の深手を負った。
だがゆっくりしている暇など、与えてくれる訳もない。ぐったりと壁にもたれかかるトピの通信機には着信音が響いた、相手はテレスからだ。
「お疲れのところ申し訳ないけど、すぐそこから離れた方がいい、さっきの爆発でかなりの数の敵勢力が動き出した。早く戻ってきてー」
「あー…クソッ…。。。了解、ここからは作戦通りテレスは戦線離脱後は可能な限り情報支援頼む」
通信機からはツーツーツーと長点の電信音が鳴る。それは了解を告げるサインであった。
テレスは先に行動を始め、それを追うようにトピも直ぐにここを発たねばならない。当初の予定では2階の床を爆破しラナーを確保後すぐに脱出すると言うのが本来の作戦だ。
だが、そう上手くは行かなかった、黒づくめの存在がイレギュラーを生み出した。
あいつは一体何者だ??
不明瞭な存在が思考の一部を曇らせる。この戦場では普通な事だ、金で戦う兵士が居て、それを目的に外様からやって来る軍団が居て。身元が不明な奴らなど腐るほど居る。
だがあれは少なくともそれらとは違う性質を持ち合わせていた…。装備の品質、身体能力、目的…。全てを含めた上でも裏に居る別の大きな存在がチラつく。何が目的なんだ…?正直ラナーごとき捕まえる価値のある存在には思えない…、それもかなり訓練された者を使ってまで。思考の縁に踏み込んでは行けないラインのすぐそこまでやって来ている事を実感する。次は必ず…。
さて、すぐ発たねばならないのにこうしてチンタラと次の事を考えているのはなぜか?敵が大勢寄ってきているのにとどまって居るのは?答えはそう、待っていたから。
胸を抉られたDの身体がビクンと跳ね上がる、ガバッと上半身を起こし目を覚ます。その瞳は深い緑に染まっていた。
「状況は?」
「随分と遅いお目覚めだな、本当に死んだかと思ったよ…、アイツは目標を連れて逃げた、現在リベオールの部隊がここに押し寄せているみたいだな」
「なら、ここからが作戦通りみたいだな、寝てた分まで働くか!」
この世には2つの人種が居る、肌の色や思想や身分などでは無いが明確な判断基準として分別されてしまう事、それは与えられた者と持たない者である。
力の差は大小それぞれで、一般人に毛の生えた程度の者も居れば、もはや人の域を超えた怪物のような奴もいる。それらを目覚めた者と呼び、社会の重要な歯車として国に従事する事を強いられる。力を持つ者は弱者を助ける義務があるらしい。
目覚めた者の特徴は幾つかある。
①身体のどこかに痣が発現する
②能力が発動すると身体の痣が発光する
③能力には使用回数がある
俺の場合は瞳が緑に光るらしい、ID:codeは死んだ身体で治癒能力が人より高いみたいだ。だからちょこっと切られただけじゃ死なないみたいですね。
腰のホルスターに差した拳銃を抜き、スライドをずらし弾がチャンバーに送られているかを確認すると、床に落ちた散弾銃を拾い上げ、スリングをかけて背中に回す。
それを見たトピは腰をあげるとフラフラと玄関へと向かう、Dが先の戦闘で空けられた穴から外の様子を見る、すると武装した民兵がそこには居た、今か今かと出てくるのを待つように外に隠れていることがわかり、薄い壁一枚を、挟んだだけの攻防、一歩間違えたら蜂の巣にされる、生死の狭間の緊張感。
「さあ、作戦通りに行こう」
手に握られたスイッチをポチッと押すと建物の外に仕掛けられた発煙筒が煙幕を張る、辺りが煙で見えなくなると次に轟音が響く。視界を奪われた敵はパニックになっているがその次が問題だった。遠くの方で何かが爆発し、それに続くように音がどんどん近づいてくる。状況の分からない奴には恐怖だろう、目の前の倒壊した惨状を見たものなら皆逃げ出す、なぜなら爆発音が近づいてきているのだから。その音を聞いて集まったヤツらには
壮絶さが伝わるだろう。煙幕の中を散り散りに逃げ惑う民兵を後目に脱出用の車にトピを叩き込み急発進する。ぐったりとした様子を見るとちゃんとした手当てをしないといけないと、急かされるように車を走らせる。煙幕を抜けるとそこはもう暗闇、照り返す日が落ち街灯のない漆黒と夜の世界が広がっていた。