1.4 沈黙の弾丸
地面を滑り壁に追突する、目を擦り身体を起こし腹部を確認する、が、切られたわけでは無かった。次に敵を目視し、そこでようやく自分が蹴り飛ばされた事を認識した。強い衝撃に痛覚よりも吐き気と呼吸の出来ない具合の悪さを感じ、まともな思考がてきない。
「がぁ…ごほっ…」
トピが這いつくばるように前方に伏せる。
コツコツとカマキリのブーツの音が響き近づいてくることが分かる。
なぜ俺は生きている…? 不要な殺しはしないってか? ならDへの攻撃は? 頭がぐるぐるとする中も思考する事を絶やさない。あいつの目的は? 仲間は居るのか? するとひとつの答えが見えてきた。
「なるほど…、情報の為か…」
恐らく2対1の構図をを避けるために片方を始末した、その状況を見るに今ここに、こいつの仲間は居ない…。そして、カマキリの目的は見た瞬間に攻撃してきたところを考えるとラナーの確保と言ったところだろう。なら、やることはひとつだな。捕まる訳にはいかない。
自分の身体の状況は1番自分が分かっている短時間にデカい攻撃を受け過ぎた、態勢整えるのに時間が間に合わん…。
ぽたぽたと額から滴る血がフローリングに染み込む。血化粧された顔を上げゆっくりと歩き向かってくる敵を凝視する、その姿はまるでウィニングランをするようにも見えた。コツコツと立てる音は断頭台へと向かう死のカウントダウン。刻々と迫るタイムリミットを意味していた。
「あー…絶体絶命ってこう言う事いうんだろうな…」
眼前に居る強敵はゆっくりと確実に自身を目掛けてやってくる、振り絞っても拳銃を数発程度、現状を打破する手は尽きたか…。
覚悟を決め、腹を括るトピが力を振り絞って拳銃を敵に向ける。
だがそれよりも先に動いた者が居た。
コツコツと歩くカマキリを狙う弾丸が壁を突きぬける。その音でようやく気が付き振り向くカマキリは咄嗟に身体をずらす、無音の弾丸が思考を遅らせたのか、先程の瞬発力は消えていた、ギリギリの所だが弾をかわすが体勢を崩していた。そこへ再び2発の弾丸が壁を突き抜けて、一発はカマキリの頭部へ狙いをつけて、もう一発はそこからズレた位置へと飛んでくる。体勢を崩しているため必中かに思えた…が。
崩れた体勢を無理やり戻すかの様に軸足を回転させ強制的に体勢を元に戻す、もはや物理的に人の動きとしての枠は超えていた、だが避けた先、そこにはもう一発のズレた軌道の弾丸の射線上であった。
人の身を超えた存在の腹部をついに貫いた。臓器を抜け皮膚を突き破る、沈黙の弾丸がボディアーマーを穿ち、臓器を抜け皮膚を突き破る、何が起こったのかは分からないがこれをチャンスと見てすかさずトピも拳銃を連射する。腹に穴を空けられたカマキリは立ち尽くしているだが、自身が狙われているとわかるとマスクの排出口から白い息がシュー、シュー、と出てくる。よろつきながら放たれた弾丸は、数発明後日の方へと
飛んで行った、だがもう数発は確かにカマキリを捉えていた。向かってきた弾をいとも簡単に2つの斧でたたき落とす、腹の傷をものともせず、最初に見た時のスピードを軽く凌駕する。
「…ッ!!こいつまだこんなに動けんのか!? 」
シューシューと白い吐息を出し続けるバケモノは、禍々しさが更に増していた。死を覚悟した…。
が、なぜか急にカマキリはその場で立ち尽くす。数秒の沈黙と静止の末、白い吐息が徐々に弱くなり、止まる。
当たりを見渡し棚の影に潜むラナーの頭を鷲掴みする。
「ひぃ!助けてくれ!!」
ジタバタと泣き叫ぶラナーをズルズルと引きずるようにして壁の穴へと消えて行った。
「助かった…のか…?」
トピはあの怪物が目の前から消えたことに胸を撫で下ろす、今まで戦ってきた強敵をさらに上回る猛者、なぜか今は恐怖や絶望では無く。『次はぶち殺す』と言う昂りが全身を支配していた。
「すまん、外した」
通信機から突如として報告が入る、その主はテレスであった。
「あの芸当が出来るのはお前しか居ないよな。ナイスだ、助かった…でも、中の状況は分からないはずだよな?」
「多分Dの空けた穴から見えたから逆算した」
えっ…?となると壁を確認する。確かに壁には大穴が空いていた、が、その穴は子供一人通れるかどうか位の穴であった。
「やっぱりお前すげぇな」
ちょっと引いた