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1.16 狂気の面

血の気が引いた通信にそれは俺達に送られた言葉では無かったことを理解した。


「なぁ...!今ビショップが死ぬって...?」


「下で何かが起きてるのは確実...ならどうするの?」


「助けに行くに決まってるだろ!!」


出入口へと走り始める自分の肩を掴まれ静止させられる。


「待って、下の状況は分かってるの?」


「分からないけど行くしかないだろ!」


「なら様子を見るしかない、情報が無いんだから、さっきはあんなこと言ったがここで全滅されても困る。それにトピも回収しないといけないし」


何が起こっているのか、下の階には緊張が走っていた。だが屋上は平和なものだ。


イカロスの隊員が目的ならば同時に侵攻すべきだろう、だがそれもない。


そこで先程の違和感に気がついた。


この屋上には俺達しか居ないことに。


「目的はやはりタウミルかカウロと考えるべきだろう、それならここに居る2人の存在はバレていない」


「ちょっと待て...、俺たちが屋上に上がって人見たか...?」


「ん...?いや、見てないけど...


待てよ...?いや...可能性は捨てきれない...。」


なにか思いついた様子のテレスは拳銃を取りだしスライドをひいた。


「護衛の中に裏切り者が居る可能性が高い」


「...冗談じゃ済まないぞ?」


「酔狂や気の迷いで言ってるわけじゃない、Dも通ったでしょ?下のフロアを。あれを真正面から抜けて侵入なんて出来るわけが無い、なら裏口を使ったと考えるのが普通」


「それと屋上に人が居ないのが繋がるのか...?」


「知っての通り室内から上に上がる術はあのエレベーターだけだ、なら階層にはそんなに人数を持っていけてないんじゃないかな、屋上に人を割くより階段あたりにでも配置しておけば守りやすい」


「最悪のケースは制御室が既に敵の手の中にある事かな、バレている体で動くならかなり行動は制限される」


「どちらにせよ下の状況がわかれば良いんだな」


「そゆこと」


熱が篭った頭にテレスが冷静な分析が脳に染み込む、とりあえず落ち着けと言わんばかりに制され、通信機に耳を傾ける。


...誰かの話し声が聞こえる、だがその声の主は知らない存在で、誰と話しているのかが気になった。





____________________


時は少し遡る


「さぁ、俺達も備えるか」


話し合いが終わりD達が屋上へ向かったのを見届けるとハヤトと隊長達は自分の部隊の元へと戻り、話し合いの共有と避難経路の確認をし始めた。


「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか...どっちかな」


壁にもたれ掛かり各部隊長の動向を自然と遠目から追っていた。


隊員達は愛らしく戦闘と暴力の道しか知らない自分にとっては勿体ないくらいだ。


そんな自分についてきてくれる、慕ってくれている家族のような存在を手放したくは無い。


だがこの道は死と隣り合わせだ、綺麗事だけでは全てを失うだけ。故に厳しくも当たることもある。


その事についてタウミルに相談しようと思った矢先にあちらから要請がきた、渡りに船と思った。


待ち合わせの時間が刻一刻と流れる時を静かに待つ。


扉がガチャリと音を立て、オークスが中へと入ってくる。ハヤトを目で探し見つけるとまっすぐ歩いて前へと立った。


「そろそろ旦那様が到着される時刻です」


「さぁ…ひと仕事するぞ!」


隊員達の士気は最高潮に達していた、ただ返答は無く静かに立ち上がる隊員達の気迫がそれを物語った。


だが…それは打ち砕かれることとなる。


エレベーターへと歩く一行は廊下歩く、統一された歩調と足音は大地を揺らす太鼓のように響いていた。


隊員と少しの護衛、それとオークスは護衛の前へと出てエレベーターの前へ、ハの字に並んだ。その隣に整列されたイカロスの隊員達の前へと出てエレベーターの到着を待つ。


時間になるとエレベーターの階層を示すランプがこちらに上がってくることがわかった


再会がすぐそこまでやってきていることに心の昂りを抑えられずにいた。


親の居ない自分の父親代わりとなってくれたのがタウミルだった、同じ部隊の一員として共に戦地や難局を乗り越えてきた。言わば父であり戦友、その時を知っている人間はイカロスには居ない。


ある事件からタウミルは軍を除籍、自分だけが残った、たった数年間でタウミルは最大手と遜色ない貿易会社を立ち上げた。


それからしてあの大きな事件で俺達は軍を追われることとなった。


その直後、連絡をくれたのはタウミルからだった。


あの時の感謝をしよう、積もる話もあるだろう。


そう考えているとエレベーターの到着のベルが鳴った、その音を聞くと護衛とイカロスの隊員の背筋が伸びる。


ゆっくりと開く扉を全員が眺めていた


エレベーターの中には目と口に穴の空いた鉄仮面にスーツ姿の存在が立っていた、それを見ていた一団は顔を歪める。


なぜならばその鉄仮面の存在は手に車椅子を押していたからだ、問題はその押している車椅子に何が乗っていたのか。


血にまみれた初老の男、その姿にイカロスの隊員達は異様な空気を感じ、ハヤトとオークス、それに護衛達は異常事態が起きていたことを察知していた。


車椅子に乗っていたのはタウミル本人であったから。


赤く染まるエレベーターには複数人が乗り込んでいた、鉄仮面の側近には重装備をした兵士が佇む。


皆がエレベーターの中へと銃口を向けた。


中から1人の男が投げ出され、床に転がる、手を縛られ顔が痣だらけになっていた。


呻き声だけをあげるカウロがその正体だった。


「やあ諸君、君達の主はこの世を去った。要件を手短に言うならば降伏して欲しい、私は争い事が嫌いなのでね」


鉄仮面の男は車椅子を押して出てくる、ビジネスマンのような装いとは裏腹に狂気と聞き馴染む声色が気持ち悪くに感じる。


「無駄な殺生ももちろん嫌いだ、君達に家族や守るものは居るか?」


そこまで言うとエレベーターに乗った全員が扉を抜け前に整列し銃口を向けた。


「ガウス…ダミアン…アラン…」


続々と誰かの名前を呼び始めると、一気に場が凍りつく。


「ガウス…君は2歳になる娘ちゃんが居たね、元気かい?カミーユ…今日はカミさんの誕生日だったろう…?」


ひとりひとり呼ばれた名は、オークスが率いる護衛の名前であった、鉄仮面の男は心配する様にするも、冷たい手は護衛達個人の心臓を握っていた。


向けていた銃口がみるみると下がり、とうとうイカロスの隊員だけが鉄仮面達に牽制をかけていた。


鉄仮面は視線をこちらへと移す。


「ん…?んん…??おぉー!!知っている顔が居るな!セラスじゃないか!」


鉄仮面はアタッシュの前へと擦り寄った、この中にこの男を知っている人間が2人居る。



アタッシュと俺だ



声を聞くまでは分からなかった、だが…この男を…忘れるわけが無い戦友を殺した男なのだから。

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